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毎日練習しないと退会勧告される音楽教室に驚いたので思うことを書いてみる

偶然見つけたいわゆる「個人ピアノ教室」主宰の方のブログを読んでいたら、その内容が同じ生業の者としては結構衝撃的で、何が衝撃的だったかと言うと、入会時に毎日練習することを約束させ、それを守れない生徒さんは退会勧告をすると。

その方の持論としては単純で、毎日練習しないと上達しないからだそうです。
練習してこなければレッスンで何度も同じことを言うことになり、自分(講師)の貴重な時間の無駄であり、親御さんが一生懸命働いたお月謝を無駄にする」と。

50年前のブログかな?と思ったら2022年でした。あ、50年前にブログないか。

あらかじめ言っておきますが、僕はこのブログの方をまったく存じませんし、それぞれの講師のやり方があるわけですから、否定もしません。やりたいようにやれば良いと思います。

ただ、ブログを読んで音楽のレッスンにおいて(他分野でも同じでしょうが)講師自身が常にアップデートを怠らず、順応性を持つことがいかに大切か改めて実感しました。

この先は僕の持論です。

講師自身が幼少期から学生の頃に受けたレッスン方法や精神論をそのまま継承してしまうのは「劣化コピーレッスン」になるだけです。その講師が自ら実践、研究した結果の言葉ではない「受け売り」であることが大きな問題です。
音楽の考え方や価値観、奏法に関しても時代とともに変化(進化)していますので、講師が受けてきたレッスンは必ず過去の古いものです。また、講師自身の特性を見抜いてレッスンをしてくださっていたはずなので、そのレッスン内容が自分の生徒さん全員に同じように通用するとは到底思えません。

話が少しそれますが、僕が中学生の頃、同じ地域に全国大会にも行くような活動をしている活発な高校吹奏楽部がありました。憧れてその高校へ進学する先輩もいました。そもそも僕の中学校に外部講師として指揮を振っていた人がその高校出身の方でした。
この外部講師、音楽を専門としている人ではなく、いわゆる「強豪校」と言われる高校出身だからという理由で白羽の矢が立ったようですが(この中学の卒業生でもありました)、とにかくその高校の練習方法も選曲もまるごとコピーした指導でした。指導方法や音楽を専門的に学んだわけではないので仕方がないのですが、コンクール至上主義で軍隊的な「規律」を常に掲げ、根性練習を主体とする合奏はとても息苦しかった思い出があります。
しかも、その高校に進学し、吹奏楽部に入った先輩がたまに中学校に顔を出していたのですが、その人はさらに高校の劣化コピー状態で、強制的にその高校のやり方や精神論を(頼まれてもいないのに)現役の中学生部員にやらせていてたのが正直とても苦手でした。

表面的な方法や精神論に影響を受け、それを自分自身に消化吸収(研究、研鑽)した結果の「自分の」指導法であれば良いのですが、いわば洗脳された人の劣化コピーは第三者から見ると説得力がないのです。

話を戻します。

確かに上達を目的とするレッスンの『本来の形』とは、課題が出て、それを次のレッスンまでにこなし、次のレッスンでそれを披露し、フィードバックを受けて軌道修正などを経て次の課題を出され、の繰り返しで成立します。「PDCAサイクル」を生徒が行う際にアドバイスやサポートをする形です。

しかし、講師側は「必ずしも全ての生徒さんが上達だけを目的としているわけではない」と認識して生徒さんと向き合うことを忘れてはいけません。
ましてや生徒さん全員が音大進学やコンクール入賞、プロ奏者を目指すわけではありません。

山に登ってキレイな花や野鳥が見たいと言ってるのに、山岳ガイドに強引に富士山頂まで登らされ「これが本物の登山だ!」と言われても困りますよね。そんなの講師ではなく、一辺倒の方法しか知らない応用の効かないエゴの塊です。誰もが険しい山の頂上を目指したいわけではありません。

特に町のピアノ教室などはどちらかと言うと「(親御さん目線で)ピアノを通して心豊かに成長してほしい」「音楽という趣味を持ってほしい/持ちたい」「なんか楽しそう」「好きなアニソンを自分でも弾いてみたい」「ピアノ弾けたらかっこよくね?」「家に電子ピアノがあるからせっかくなら活用したい」「音楽仲間のグループに誘われた」「音楽が好き」といった漠然としたシンプルな気持ちでレッスンを受けてみようかな、と考えている方が多いはずです。そこに来ていきなり講師側から「毎日練習しないと上達しないのだ!練習しなかった退会させるぞ!さあ1日30時間練習!」とか鼻息荒く言われたらドン引きする人のほうが多いのではないかと勝手に思ってしまいます。

音楽をやりたい、楽しみたいと思う方の「理由」を、それがどんな理由であっても講師は受け止め、その生徒さんが願うもの、求めているものに到達するよう手ほどきをするのが講師の役割ではないでしょうか。

僕はツキイチレッスン(単発)、音楽教室(継続)、音楽大学で個人レッスンをしていて、前述の課題を出して練習してきてもらうパターンのレッスンは音大では実践していますが、他の場面では生徒さんの意思を尊重しています。社会人や学生は忙しいんです。仕事や勉強、家事などで手一杯なのに、でもトランペットや音楽が好きでレッスンにも来てくださっているなんて、もうそれだけでも素晴らしいのです。だから何にも何週間もまったく音を出していない状態でレッスンに来てくださっても一向に構わないのです。むしろそうした状況の生徒さんが楽しい、続けていてよかった、と感じてもらえるレッスン時間になるようにするのが講師の役割だと思います。

音楽講師は、自身が受けてきたレッスンを検証もアップデートもしていない劣化コピーを生徒さんに強制させるのではなく、生徒さんの想いに寄り添っていける理解力と対応力を手にいれるために、講師も日々進化し続けなければなりません。
いろんな先生がいるのはわかりますが、少なくとも僕はこのように考えています。


荻原明(おぎわらあきら)

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荻原明(おぎわらあきら):トランペット
荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。