見出し画像

#038.ロングトーンって何だろう 3

前回、前々回に続き、ロングトーンについて書いてまいります。今回のお話は主に吹奏楽団の合奏形式で行う実践的なことが中心です。
ぜひ過去の記事から順番にご覧ください!


バンドでのロングトーン

吹奏楽部などの基礎練習にロングトーンを用いることは多いと思いますが、皆さんの団体ではどのように行なっていますか?

私が知る限りですが、ほとんどの場合決められたいくつかのメニューを同じようにこなしている場合が多いです。もちろん同じメニューに取り組むことで見えてくることもありますから、それが決して悪いわけではないのですが、同時に発展的なメニューに常にチャレンジすることも必要であると考えます。

特に、毎回同じメニューしか行わないと、「いつものあれ」みたいに形骸化してしまい、いったいなぜこの練習をしているのかわからなくなりがちです。取り組むのならもっと楽しく、意味のあるものにしたいですよね。

なので、前回の記事で挙げたような様々な趣旨、スタイルでロングトーンという「箱」を有効に使ってみてください。

合奏形態など複数で行うロングトーンには、アンサンブルという「バランス」を意識する課題が生まれます。そういった合奏に直結する基礎練習に位置付けられると、非常に意義のある時間になるでしょう。

テンポについて

複数人で行うロングトーンは、ハーモニーディレクターやメトロノームから発生させるカチカチのクリック音に全員が合わせていくことが多いと思います。もちろん均一なテンポ感を養うことは大切ではありますが、テンポとは本来こうした道具から発せられる無機的な「点」の連続ではありません。1つ目の拍が次の拍を生み出す運動(バスケットボールをバウンドさせて相手にパスするようなイメージ)であり、さらにここに拍子という一定の「循環」や「周期」が存在します。そうした運動から生まれてくる「テンポ」であると理解してメトロノームを使えるように心がけたいものです。

また、テンポは誰かに与えられたり、示されてそれに従う受動的なものではなく、自分の心の中から自発的に作り出すものです。受動的な意識で合奏に参加していると、指揮者が振っている指揮棒の動きに自分の演奏を合わせるという構図が生まれてしまいます。しかし本来テンポを生み出しているのは奏者であって、現場監督である指揮者はその基準を決定しているにすぎません。ですから、ロングトーンの際にもメトロノームのクリック音に「合わせよう」他の人の音に「揃えよう」という意思で演奏すると、絶対に後手にまわって遅れたり、ずれたりしがちで生きた音楽ではなくなってしまうので注意が必要です。

打楽器奏者の存在

ではそうならないための一つの提案なのですが、打楽器パートに「生きたテンポ」「循環する拍子」を作り出す協力を求めるのはいかがでしょうか。吹奏楽の基礎合奏での打楽器の立ち位置は本当にかわいそうというか、必要性をまったく求められていない場合が多く、結果的に「打楽器は別室で練習」のパターンになりがちです。しかし、合奏では打楽器の存在は超重要なのですから、打楽器と管楽器のアンサンブル力を強化するためにもロングトーン練習時にも一緒に有意義な何かができたほうが良いのでは、と私は考えます。

そこで提案なのですが、ロングトーン時に用いる何パターンかの打楽器用の楽譜を用意し、様々な楽器で参加します。と言うと、メトロノームと同じように叩いたり、合わせたりすることばかりになってしまうのですが、そうではなくて、もっと音楽的な、例えば4拍子の場合の4拍目だけに打楽器全員が呼吸を合わせて4分音符を演奏するとか、1小節かけてpからfへロールやトレモロによるクレッシェンドをしたりとか、ビートや拍子だけでないフレーズの中に打楽器の存在を置く考え方です。

ロングトーンの問題点のひとつに、音を伸ばす行為が「停滞」「固定」した演奏になることが挙げられます。管楽器奏者が体の使い方のバランス、音の発生原理をあまり理解できていない場合、ロングトーンはとても難しい奏法であり、体がこわばってバテてしまうなど、あまり意味をなしません。そんな時に打楽器が音楽を前へ前へ推進力を持った演奏をすることで、固定ではない拍やリズムの捉え方になるのでは、という考えです。

他にも、様々なスタイルのリズムとそれらにふさわしい楽器を採用したロングトーンがあっても楽しいと思います。
例えば、マーチやスウィング、ロック、ワルツ、サンバ…。それらのジャンルではどんなリズムが基本になり、どんな楽器を用いているのかを打楽器パートに調べさせ、研究してもらうことはとても大切なことだと思います。ロングトーンとロングトーンの間に8小節間の打楽器セクションのソロなどを織り込んでみたり(そのアレンジも打楽器パートで作ってもらう)、打楽器の定位置から移動したり、動き回りながら演奏してみる、なんてのも目的意識がハッキリしているのであれば打楽器パートにとって有意義な時間になると思います。

音量バランスを確認する

同じ30名のバンドでも、その編成によって求められるバランス感覚は様々です。ロングトーンで「私たちの(今の)吹奏楽部のベストバランス」を見つける練習をするのも良いですね。
フォルティッシモの時にはどのようなサウンドバランスがベストか。特に金管楽器や打楽器は少し考えてみたいところです。ピアニッシモの時にはクラリネットやフルート、ピッコロはどのようなバランスが良いのかなど。クレッシェンド、デクレッシェンドのバランスも研究してみたいですね。

指揮者が必要なロングトーン

指揮者を巻き込んでの音楽的なロングトーンはいかがでしょうか。rit.やaccel.、ある小節(音)に来たらテンポが変化するとか、途中にフェルマータが存在しているかなど。音を伸ばすというシンプルな場面だからこそ、テンポ表現に関して指揮者と一緒に作り上げていきます。
また、テンポだけでなくダイナミクスやリズムパターンを用意して、アーティキュレーションを付けたりもできますね。
ロングトーンは、中学校などの場合「顧問の先生がいなくても生徒たちだけでできる練習」という位置付けになっていることが多いので、先生がいる合奏の最初の5分はそうしたロングトーン練習(兼チューニング)というのも良いかもしれません。
また、高校の部活や大学の吹奏楽サークルなどでは学生が指揮者を担当することも少なくありませんから、指揮者の技術力を高めるためにもロングトーンを利用するのも良いのではないか、と思います。

特定のパターンを徹底的に練習するためのロングトーン

スタッカートやテヌートなどのアーティキュレーションだけでなく、シンコペーションや付点(付点8分音符+16分音符)のリズムなど、一般的によく出てくるパターンを徹底的に練習するロングトーンがあっても良いと思います。
アーティキュレーションに関しては、場面ごとに求められる表現が異なりますから、思いつく限りのイメージを共有して演奏します。今のメンバーで作り上げるバンドの基準値を作り出す目的です。
ポップスを演奏する際は音の切るタイミング(リリース)がクラシカルな表現と全然違うので、そうした部分に特化した練習も良いかもしれません。

奏者の位置をランダムに変えていくロングトーン

合奏は木管が前、金管が後ろと決まっていますが、ロングトーンの練習時は別にそうでなくても良いと思うのです。各自、自由に位置を変更してロングトーンをすることで、合奏時には遠くにいた楽器の音色や響き、ピッチ感、呼吸を感じることができます。遠くにいる楽器は、合奏中にどれだけ意識してもやはり遠くにいる楽器として認識してしまうので、このような経験もメリットになるはずです。

2つのグループに分かれたロングトーン

音楽は聴く人がいて初めて成立します。それは基礎練習のロングトーン時にもその意識を持つ場面を用意すべきです(常にではなく)。コンサートホール中に奏者の意思、豊かな響きを届けるための響きを作り出すにはどうしたら良いか、明確なリズムが客席まで届くためにどのような演奏をする必要があるのかを研究する。これも大切です。

そこで、体育館など広い部分を確保して、奏者を2つのグループに分け、できるだけ離れて向かい合い、ロングトーンや基礎的なリズムパターンを交互に練習してみましょう。体育館がコンサートホールと同じような残響を作り出すわけではありませんが、距離があるとどのような音の伝わり方をするのかは理解できます。やってみるとわかりますが、細かなリズムや低音は長い音や高い音に比べて聴こえにくい、自分が想像していた以上に緩い演奏に聴こえる、楽器に息をたくさん入れたところで遠くまで音が届くわけではない、といった様々なことに気付けると思います。

前向きなフィードバックが大切

今回紹介したようなアレンジを加えたロングトーンを行なったとしても、それが結果的にどうだったのかを客観的に判断できなければ単なる自己満足に終わってしまいます。何事もより良いものを作り上げていくためには現状を理解し、改善への提案と実践、いわゆる「フィードバック」が必要です。

これを「反省」と呼ぶこともできますが、私は「反省」という言葉があまり好きではなく、なぜなら多くの方がネガティブなものを挙げていく「ダメ出し」と混同してしまうからです。

部活動でもやはり真面目な子ほど次から次へと「あれがダメだった」「これがダメだった」と言いがちで、しかもその解決法がわからないままネガティブワードを散乱する傾向にあるので、希望が失われ雰囲気が悪くなってしまいます。ダメ出しが続くと人間は辟易してしまいますから、常に前向きに、「もっと面白くできないか」「もっとクオリティを上げられないか」という探求をみんなでしていってもらいたいと考えます。
ネガティブとポジティブは表裏一体です。言葉の使い方や発想の転換でどちらにも表現できます。常に前向きに!

行き詰まったらプロの出番

今回提案したものは、正直部員だけでやってもどうして良いかわからなくなりがちです。

改善点は見つけられたけど、それを的確に解決するにはどうしたらいいか。具体的、技術的な問題の解決こそ、プロの音楽家の出番です。みんなが気付けなかったこと、解決できなかったことに対して理論的な側面からアドバイスをもらいましょう。

ちなみに荻原も部活や楽団の指導を随時受け付けています。いつでもご連絡ください!

ということで今回はロングトーンの様々な使い方について書いてみました。ロングトーンも当然音楽です。表現すること、奏法を安定することなど目的と持って楽しみながら取り組み、クオリティアップを図ってください。

それではまた次回!


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。