冨田悠暉

作曲家。音楽家。情操教育が生んだ怪人 https://tomita-haruki.st…

冨田悠暉

作曲家。音楽家。情操教育が生んだ怪人 https://tomita-haruki.studio.site/

最近の記事

私は……私は何

だ? というか、これは何だ? あ、ここはnoteか。私は小説の中にいるのか。え、いきなりどうしよう。どうすればいいんだよ。ねえ。小説ってことは書いてる奴がいるんだろ? そこのお前だよ。そこの……あ、時間の概念ないや。ここどこ? 私どうしたらいいんだよ。まあとりあえず改行でもしとくか。 よく考えたら、私いま何でもできるんだよな。私誰にしよう。女がいいな女。え、一人称とか私である必要ないよね。俺にしよう俺に。俺っ娘だよ。振り仮名付けとくか、俺っ娘ね。いや俺っ娘て何だよ、やっぱ僕

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      ここ2ヶ月ほど、自分の中で「世界に向けて訴えるべき何事か」みたいなものが消え失せつつある。自分は哲人気質で、ものをよく考える故の厭世家で、そうした性情は今まで通りなのだが、そうした思考回路をぐるぐる巡って出力されたモノが、近頃どうにも"公なるモノ"に思えない。自分は、SNSにしろ独り言にしろ、何某かの情報を外へ向けて発信する際には、その情報が相応に"公なるモノ"でないと我慢ならない。それを外界へ向けて放つからには、他者にとって意味のある情報でなければならない。芸術家としての本

      • コメントクラブ

        「やあ、我らがコメントクラブへようこそ! 僕は部長の川坂です」 殺風景な部室で、私は上回生に囲まれて縮こまっている。新入生は自分以外にいないようだ。 「初めまして、新入生の豊田です。あの……新入生は私一人ですか?」 「ああ、今日は来ていないようだけど、先日の体験部会では2、3人くらい来ていたかな? まあ心配することはない、うちは初心者大歓迎だからね」 いや、そもそもコメント初心者って何なんだ。部室棟に貼られていたチラシを見て、つい好奇心で部会に来てしまったが、そもそもこの部活

        • 【小説】均衡

          近頃、駅前をぶらついているとどの店にも監視カメラが備え付けられているのに気づく。一昔前にはこんなものなかったのに、そんなにトラブルが増えたのだろうか。監視カメラどころか、小さな商品一つ一つに万引き防止タグが貼り付けられている店も珍しくない。タグを付けるのにも相当な人手がかかるだろうに、それほど万引きによる被害というのは大きいのだろうか。いや、きっとそうなのだろうけれども。 考えてみれば、万引きが増えたから防犯用品が増えたわけではないのかも知れない。自分が子供の頃、柄の悪い連

        私は……私は何

          【エッセイ】敵のいない生活に慣れよ

          今年大学を卒業してから、どうも日々の生活にハリがなくなったように思われた。 そこで少々うーんと考えてみたところ、これは僕の周りから敵がいなくなってしまったからではないか?という結論に至った。 思えば僕は、思春期以降なにかと他者に敏感で、表には出さないが常に義憤に駆られ反発心に燃えていた。 そのため敵を作るのを厭わないところがあり、そうした敵の存在は僕の生活にそれなりの(時には耐え難い)ストレスを与えてきた。 中学時代、自分と比べてあまりに馬鹿な同級生たちを敵と見定め、彼らと

          【エッセイ】敵のいない生活に慣れよ

          【お手軽レシピ】夏向け!かき氷パスタ

          最近、昼飯は毎日これを作っています。 普段は思想激つよ小説やエッセイの類を書いている筆者ですが、今回あまりに美味くて手軽なレシピを開発してしまいました。 やむなくお料理回となります。 ☆このレシピの長所うまい まずい要素が全くありません。 万人が美味しく感じるでしょう。 はやい 下ごしらえを除き15分程度で完成します。 下ごしらえも5秒で終わります。 やすい 具にこだわらなければ、原価は相当に安いはずです。 楽 材料の量や調理の時間を測る必要は一切ありません。

          【お手軽レシピ】夏向け!かき氷パスタ

          【小説】異形の味

          「どう、美味しいかな?」 恋人が不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。 「なるほど……前より美味しくなってるよ。うん、美味しい」 そう言って彼女に微笑みかけるが、作り笑いがバレているようで、彼女はあからさまに不満げな表情を浮かべる。 「え〜嘘つかなくていいよ。どこがダメだったかなぁ」 「いや、いいんだよ俺に合わせてもらわなくても。俺の舌がおかしいんだから……」 「手料理も美味しく食べてもらえないなんて、私悲しくて嫌だよ。改善点ちゃんと教えて」 「えぇ……本当に気にしなくていいんだ

          【小説】異形の味

          【小説】優しい人は皆狂ってしまう

          太古の昔に人間が堕天した時、神は己の似姿である人間に情けをかけた。神の権能を一つ分け与えたのである。それは暖かく、恵みに富んだ超常の力であった。その力さえあれば、人間は地上でも楽園とそう変わりない生活を送れると神は思った。むろん、地上は楽園と違って働かねば生きられず、悠久の命を得ることも適わないが、人間は殖えることができるし、地上に神の権能を持つ祝福された者は他にいない。人間は長い時間をかけて世代を重ね、地上にその数を殖やし、その破格の権能をもって必ずや安寧を築き上げるだろう

          【小説】優しい人は皆狂ってしまう

          【小説】みんなちがって

          妻が手術室に入ってから1時間後、看護師がやって来て笑顔で告げた。 「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。お母さんもお元気です」 身体中の力が抜け、どっとため息が出た。 「良かった……皆さんも本当にお疲れ様でした」 「ところで、池内さん」 「なんでしょう」 看護師がエコー写真を見ながら言った。 「エコー検査で分かっていました通り、お子さんは右眼と右腕に発生不良がありました。あとは、両足の膝から先の骨も発生していません」 「ということは、娘には右眼と右腕と両足の骨がないとい

          【小説】みんなちがって

          【小説】真実

          俺の高校以来の友人に、渡会という奴がいる。妙な話だが、彼はとても美人だ。美男子であるのは当然として、その仕草や目つき、声色など、昔からずっとどこかコケティッシュに思えるところがある。滑らかな白皙や綺麗に磨かれた爪、筋肉質ではあるがすらりとした肢体、少し長めのさらりとした黒髪、夏でも決して肌の出ない服装、彼の纏う特有の雰囲気は、そうした彼のあらゆる部位からごく仄かに分泌され続け、彼の周りの人間はみな何とはなしにその香りを嗅ぎ取ってはいたが、さりとて特段何があるわけでもなく、気の

          【小説】真実

          【小説】いるか

          先日、友人と能登へ行った。禄剛崎の漁村で車を降り、灯台を見に行った友人とはぐれた僕は、人気のない海岸に辿り着いた。その海岸に、一頭のいるかの死骸があった。泥岩の白いベッドに横たわった彼は、流線型の身体を豊満に膨らまし、鬱血した筋肉は濃いピンクに染まっていた。皮膚は所々剥げ、体側にいくつも開いた穿孔と欠損した右の鰭は、重い火傷を思わせた。頭の左半分は失われ、眼球があったであろう地点を中心に深々と穿たれた穴の中に、脂の浮いた赤黒い液体が慎ましやかに滲み出ていた。いるかの死骸を見た

          【小説】いるか

          【小説】公正

          ある賭場の小さなテーブルで、男が一人泣いていた。あんまり小さい背中を震わしてさめざめと泣いているので、私は奇妙な同情心に駆られて彼に声を掛けた。 「おい親父さん、あんた何で負けたんだい」 「え、ポーカーさ。俺はポーカーしかやらねえんだ」 「幾ら負けた」 「そんなこと知るかよ。言えばあんたが埋め合わせてくれるのかい」 「そりゃ勘弁だな。──まあ、元気出せよ。ポーカーは何と言っても時の運、それと精神力がカギだぜ」 すると男は顔を赤くして発憤した。 「何を言うんだ、お前。それじゃあ

          【小説】公正

          【小説】雪虫の幻想

          ある寂れたクリスマスの夜、ネオン街の裏路地を一人の男が歩いていた。ポケットに手を突っ込んで俯きがちに歩く彼は、行き詰まった三叉路に差し掛かった折、はたとその足早な歩調を止めて顔を上げた。視線の先には、全身から薄ぼんやりとした光明を放つ異形の存在があった。分厚く着込まれた深紅の司祭服に、ストッキング帽から溢れ出した豊満な髭は頬骨以下を覆い尽くし、白銀。羆のように膨れ上がった異様な体躯に3畳ほどの巨大な頭陀袋を担ぎ上げ、汗ひとつかかず、深い皺の刻まれた瞼の奥に薄明のような眼光をぬ

          【小説】雪虫の幻想

          【小説】正しさは要らない。優しい嘘を

          僕が中学に入学した頃、とにかく野球部にだけは入りたくないと思っていて、卓球部に体験入部したけどグラウンド5周がキツくてやめた。僕の隣で、友人の大町が僕と同じく肩で息をしていたが、後日そいつは吹奏楽部に入るからお前もどう?と言ってきた。まんまとその誘いに乗った僕は、そのせいで就活もせずに音楽家を目指すことになり、対する大町は2019年夏に死ぬことになる。彼の葬式の日、高校の同級生と思しき人は誰もいなくて、会場にはただ中学時代の連中と、知らないスーツのおじさん達がわらわらと居ただ

          【小説】正しさは要らない。優しい嘘を

          僕が選び取った孤独・僕が選び取った自由

          昨日、僕は名古屋大学の文学部を卒業してきた。「学位授与式は11:50~」とホームページに書いてあったので、どんな式がどのように執り行われるのか全く分からなかったが、独り定刻通りに講堂へと赴いた。講堂前には、色とりどりの袴に身を包んだ女性たちとスーツを着込んだ男性たちが大勢集まっており、サークルの仲間と思しき集団や学科の友人たちと連れ立って写真を撮っていた。対する僕は、学ラン姿で独りである。僕は懐かしい孤独感を覚えていた。この孤独感は4年前、入学時に味わったものと一緒だった。

          僕が選び取った孤独・僕が選び取った自由

          【小説】神になりたい

          Zeusへ 僕は、昔から色々なことを考えながら育ってきた。幼稚園児の頃、朝のクラスで同級生の黒人に虐められない方法を考えた。小学生の頃、日当たりの良い廊下で人間の生きる意味を考えた。中学生の頃、冬のアスファルトで自分がどんなに愚かだったかを考えた。高校生になり、このつまらない世界で自分がどう抵抗できるかを考えた。大学生になり、だだっ広いキャンパスで自分が何者なのかを考えた。 高校生の頃から薄々勘づいていた。世の中に住んでいる人のほとんどは、僕よりもはるかに馬鹿でどうしよう

          【小説】神になりたい