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#17 内緒でめちゃイケ出演 ブチギレ上司の行動に感動

今回のテーマは「初めてのマネジメント経験」です。20代の頃はですね、死ぬほどキレていました。少しでも気に食わない、これは間違ってるだろうと思うと、もうすぐに言いに行く。ちょっとこれ違うんじゃないですか、と。

何度もね、上司と衝突をしてきました。例えば、当時報道のアナウンサー、夕方のニュースのリポーター・キャスターをやっていたんですけれども、今は大分時代が変わりましたが、当時はバラエティ絶対禁止だったんですね。
報道のアナウンサーはバラエティに出てはいけませんと。

その理由としては、もし万が一、大災害があったとき、ものすごく大勢の人が亡くなった。そんなときに、つい昨日まで、バラエティでワーワーキャーキャー騒いでいた人間が、翌日になって真面目な顔してニュースを伝えたところで、それって信用できるのかと。

その考えはわからなくもない。

ただ一方で、僕が当時許せなかったのは、選挙特番などは4時間以上とかすごく長い時間放送するんですが、そういう報道特別番組のときに使うアナウンサーはバラエティーに出ている知名度があるひとたち。僕はずっと、ずっとひたすら報道をやっていたので、バラエティに出てるアナウンサーほど知名度はない。すると、そうした場には呼ばれないんですね。これは違うでしょうと。

報道局の大幹部にキレてみたら

当時25,6歳で、ちょっと若かったってのもあると思いますけれども。報道のいちばん偉いひとのところに言いに行きました。これちょっとおかしいんじゃないですか、って。だったら、僕はバラエティからオファーもあるんだから、受けますよ、と。ものすごく怒られましたね。
「お前は誰に物を言ってんだ!!」て、報道センター中に響き渡る大声で怒鳴り散らされました。僕は口が裂けても「すみません」なんて言いませんよ。だってこっちが正しいと思ってますから。だから「いやいや
そういうこと言ってるんじゃないじゃないですか」みたいな感じで話したんですが。
そしたその上司は、ちょうど改編を控えた夏頃だったのでね。「お前クビ洗って待ってろ」なんて怒鳴り散らされて。すなわちそれは、秋の改編で報道から外されることを意味するわけです。

別のちょっと信用している上司に相談しました。こんな経緯があってこんなことがありました、どうしたらいいですかね、て。秋の改編を過ぎ去ってみると、まだ報道にいることができたんですね。つまり飛ばされなかった。
その一連の顛末をその信頼できる上司に話したときに「お前、森下それはな、一応謝っとけ。それでもお前を残したんだから」と言われました。

僕としては、サラリーマンというのはそういうものかと思って、謝りにいきました。そしたら、その上司、めちゃめちゃ頭良くて「お前、誰に言われてきた」なんて言われて。全部見透かされてる!って内心焦りまししたが「いや、私の考え一存でやってまいりました。すみません」とあくまで大人に徹して謝りました。

報道に内緒でめちゃイケに出てみた

でも、この話にはさらに続きがありまして、腹立っていたんで、報道に内緒で「めちゃイケ」に出たんです。

本来手続き的にはですね、例えばバラエティー番組からオファーがあります。その後、アナウンス室側が普段レギュラーで私がでている夕方の番組の責任者に出演させていいかどうか聞きます。で、バラエティ禁止の原則に沿って断られる、ていう一連のルーティンがあるんですけども、そこを全部すっ飛ばして、アナウンス室側に「もしオファーがあったら報道には言わないでくれ、僕が出るかどうか決めたい」と伝えたんですね。いまから思えばよくそれが通ったなと思ったんですが。

それで報道には内緒で「めちゃイケ」出ることが決まりました。しかも「男子アナスペシャル」という回です。男性アナウンサーが10人ちょっと出た番組でした。そこで、僕はもう主思う存分、素のままの自分で楽しんだ結果、MVPをいただきました。こんな面白いヤツいたのか!なんて岡村さんに言われて嬉しかったです。

ただ想定外だったのは、一番目立ってしまったこと。

こりゃいかん、と思ってですね、かつてブチギレられた一番偉い人、この人にはどうしようかなと思って、結局OAの事前には言いませんでした。だって、言ったらキレられるのわかっているし、それでテレビでているのみてさらにキレられるんだから、だったら一回キレられるだけのほうがいいと思い内緒に。

ただ一方でもう1人。2番目に偉い人。2番目に偉い人には僕のことを本当によく面倒見てくれたひとです。スッゴイ怖いひとなんですよ。この人にはちょっと筋通さないとな、と思ったんですけど言えないんですよ、怖くて。

あと、だいぶ前に言ってしまうと編集に口出すんじゃないかと思ったんですよね。僕の部分カットとかね、せっかくあんなに盛り上がって一番目立ったのに。

で、オンエア当日になっちゃいました。始まる3、4時間前に電話しました。「すみません、今日のめちゃイケでます」て。そしたら「お前、それは本来報道の許可を得てやらなきゃいけないことじゃないのか」なんていわれて、もう初めから喧嘩腰。
「いや、しかしですね、お言葉ですが、もしこれを事前にご相談したら、許可してくれましたか」
「するわけねだろう」
「だったらそれは許可を求めてお願いしてるのに、断られるという一連の儀式でしかないじゃないですか」なんてやりとりになっちゃって。

上司は当然ブチギレです。

「お前と俺の間ではある一定の信頼関係で結ばれていると思っていたけれども、そんな奴だとはおもわなかったよ!」でガチャン。交渉打ち切り。もう今でも覚えてますよ。かれこれ15,6年前の出来事ですけども。

で、オンエアを迎えました。「めちゃイケ」放送始まります。1時間わちゃわちゃやって、で、僕がMVPとって終わり。

そしたらその電話をガチャンとキレて切った人が、速攻、誰よりも先にメールを僕に送ってくれました。

「お前は確かに面白かった。ただもう二度とするな」

それでおしまいです。

なんて器のでかい人なんだろうと。だって、一番最初にメールを送ってきたんですよ。「お前は確かに面白かった」て言えます?そんなぶちぎれた後に。

ちなみにですね、最後まで知らなかった一番偉い人。その報道特番の件でもめた一番偉い人は週明け、会社にいました。
実はめちゃイケの中で、僕、彼の名前言ってたんですよ。「○○さんに怒られちゃうから、これ以上できません!」て何度も。

だから…キレられると思っていたら、もうめちゃめちゃ喜んじゃってて。「森下、俺の名前言ってくれてありがとう!」それで終わり。

なんなんだこの会社は!と叫びたくなりましたよ。しかも、後で聞いたら、一番偉い人はオンエアを見逃してしまってたらしいんですね。予定があって。で、秘書に言って「めちゃイケ」取り寄せて、わざわざプレビューしたんだそうです。何かその一連、可愛くないですか。何か私がこんなこと言うのもあれなんですけれども。

楯突いた相手が夢を叶えてくれた

さあここで僕が言いたかったマネジメント力というのはその後、そのお2人のお力のおかげで、僕は長年ずっとずっと行きたかったニューヨーク支局、特派員にさせてもらうことができました。

散々、こんな生意気なことをやってきたのに、夢を叶えてくれるなんて、と思っていたのですが、そのナンバー2の人と、あと誰しもが知る皆さんご存知の、かの有名なジャーナリストさんの三人でNYに行く前にご飯食べに行きました。

そのナンバー2の方がトイレに立ったとき、ジャーナリストの大先輩に聞きました。
「あんなに生意気なことを散々やっていたのに、なんで夢を叶えてくれたんですかね」て。そしたら彼がいました。
「あいつはな、ずっと言ってたぞ。森下は、陰で物事を言わない、悪口を言わない、全部ぶつかってくる。だから信用した」て。

なるほど。そんなこと言われちゃったら、なおさら言いづらいじゃんと思ったんですが、彼は確かにいつも僕に怒ってるんですよ。こっちはね、いつも反体制派みたいな感じでしたから。

でも、影では褒めてたんですね。僕のことを。あいつはすごい、あいつはできる、て。こんなことされると、やっぱりね、彼についていこうと思うんですよ。

だからね、人の悪口言う人たくさんいます。でもそれは本人に言わなきゃいけない、本人に言わないと意味がない。

もし、それで関係が終わるようなことになれば、ただそれまでよというだけの話。それを乗り越えた信頼関係というのは強いんだな、ということをすごく感じました。いい上司に恵まれたなと。

これが僕が22年間、フジテレビで働いていて、一番いい上司だな、と思った瞬間ですかね。

(voicy 2022年4月16日配信)

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