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ビジネス書を出版するという夢が叶った話

出版

この度、一般向けビジネス書『数理モデル思考で紐解くRULE DESIGNー組織と人の行動を科学する』を上梓することができた。

この本について語りたいことは山ほどある。本作は私の著作としては3作目だが、今までの2作はいわゆる技術書だったから、ビジネス書としては1作目である。実は、それだけでなく、本作の内容は10年ほど前から私が温めつづけてきたもので、真の意味での1作目なのだ。今でこそ、本を書く機会を頂けるようになったが、10年前、本を書く実力も知識もなく、知名度も皆無の学生であった自分が、いつかこのような書籍を出版できることを夢見てコツコツと準備しつづけたのが今になって実現したと考えると感慨深いし、(夢に向かって頑張る、というのは性に合わないのだが)これはある種、世間で言うところの「夢が一つ叶った」といってもいいのではないかと思い、筆を執ったのが本記事である。

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きっかけ

当時(今もだが)大学に所属して研究を行なっていた私は、大学内外のさまざまな制度に漠然とした不満を持っていた。要するに、「なぜこんな理不尽なルールがまかり通っているのだろうか」ということである。今思えば、これが本書が生まれる土壌になったような気がしている。もちろん、理不尽なルールが存在しているのにはそれなりの事情があったりするし、目を大学の外に向ければ、こうした問題はどこにでもある。ビジネスにおけるマネジメントやマーケティング、人事、サービスデザイン、システム設計などで、「人が想定通りに動かずルールが機能していない」という問題は日常茶飯事だし、政策に対する批判や問題提起も止むことがない。

私の研究の専門は「集団現象」である。要するに「要素がたくさん集まると、個々の振る舞いからは想像もつかない複雑な現象が起こる」ことについて広く扱う研究分野だ。例えば、人の集まりである社会や、神経細胞が集まってできた脳も研究対象となる。そこで日々感じられることは、「こうした複雑な対象を思い通りに制御するのはかなり難しい」ということだ。

そこで先ほどの不満とつながる。

人一人の行動ですら予測したり想定通りに動いてもらうのですら難しいのに、それを集団に対して行う「ルール/制度作り」がそんなに簡単に出来るはずがない。なのに、世の中では「ルール作りの専門的な訓練を受けてない人」が普通にルールを作っているし、そもそもそんな訓練をする場所はほぼ存在していない。結果として、ルールが「失敗」し、人々が不幸になっている。特定の領域における制度設計の理論というものは世の中に存在しているが、広く「ルール作り」ということについてまとめたものは存在していないのではないだろうか。

こんなことを考えた私は、「ルール作りについて体系化した本を書こう」と思い立つ。このような本が広く読まれれば、世の中で少しでも「失敗するルール」が作られるのを防ぐことができるのではないだろうかと胸が躍った。

しかし、「ルール」についての本だなんて、漠然としすぎて何をどうまとめたらいいかわからないし、そもそも無名の私が書いたところで出版社が取り合ってくれるかすらわからない。少なくとも、数か月といった期間で何とかなる話ではない。こうして本書の執筆プロジェクトが幕を開けるのである。

準備の日々

まずは、世の中にどんなルールや、ルールの失敗メカニズムがあるのだろうかを集めることにした。いわゆる普通のマネジメント系のビジネス書や社会科学の啓蒙書などを読み漁り、重要そうだと思った話はノートにメモしていくことにした。また、ニュースになっている事象も逐一保存した。面白いもので、普段、何気なく見聞きして気に留めないようなものでも、「いま自分はルールについて情報を集めているんだ」という気分で生活していると、意外に色々なものがアンテナに引っかかるものである。

加えて、中核となる部分は、自身の専門から広げていった。例えば、数理生物学、社会心理学、社会物理学といった分野には、集団におけるメカニズムに関連する話題が沢山ある。また、「法律とは何か」ということついて哲学的な議論だけでなく、機能論的な分析にもかなりの蓄積が存在する「法哲学」という分野があることを知り(専門の方にはそんなことすら知らずに始めたのかと思われるかもしれないが)、とりあえずいわゆる古典的名著から、標準的な教科書となっているようなものも含め色々読んでみた。

こんなことを続けつつ、セミナーや学会後の飲み会の席(コロナ禍が始まる前はそういうコミュニケーションの場も沢山存在した)には、よく知り合いの(自分よりキャリアが大分上の)先生方に本書のアイディアをぶつけてみた。反応は総じて良く、「それ面白いね、是非やってよ」と言っていただけることが多かった。そういった先生方(当然私よりも様々なことを広くご存じである)の目から見て陳腐ではないということは、大きな自信となった。(なお、最終的に出来上がった本作が陳腐だったとしたら、それは私の執筆力の無さゆえだ。)

本業の研究とは別に趣味で何年かこんなことを続けていたが、どうにも次のステップに移るきっかけがなく、情報収集のペースも落ち、たまに気づいたことがあったらメモに追加する、といった期間がしばらく続いた。この時点で、学生だった私は無事に博士の学位を取得し、ポスドクとして1.5年ほど働いた後、とある研究プロジェクトの提案が採択され、自分のプロジェクトを進める立場になっていた。

数理モデル本の執筆依頼

そんな日々を過ごしていると、ある日突然ソシムという出版社の編集者さんから「数理モデルというテーマで本を書きませんか」というメールが来る。

(このことについては以前の記事で詳しく述べてあるので興味のある方はそちらをご覧いただきたい)

この時、この本の出版を成功させた先に、「ルール本」を執筆できるチャンスがくるかもしれないなと感じていた。

お陰様で、一作目の数理モデル本は(この手の書籍にしてはかなりの)ヒット作となった。

二冊目の執筆

無事、一作目がヒットしてくれたということで、二作目はどうしましょう、という話を頂くことになる。ここで、ついに温めてきたルール本の執筆に挑戦できないかと考えた。しかし、そう甘くはなかった。出版社さんと議論する中で、どうやらビジネス書の市場で勝負するということは技術書の市場でそうするのとは全く話が違うらしいということが分かってきた。当時は、「頑張って面白いテーマ・内容で、イケてるパッケージにして出せば、勝負にならないか」とナイーブに考えていたのだが、実際は、有名人が出す話題書が群雄割拠している店頭でポジションを確保することは非常に難しいことだというのだ。しかもテーマが「ルールデザイン」という類書のない新奇なものなので(有名人が出すならともかく無名の私が出しても)需要が読めず書店も扱いにくいらしい。確かに。

そんなことも踏まえつつ、企画を考えていくと、ルール本の内容の前段階として「データをちゃんと見る技術・考え方」もどこかでまとめておかねばならないなと思い至り、別の独立した企画として二冊目の『データ解釈学』を執筆させて頂くことになった。これを書いておくことで、本丸のルール本の実現にも近づくだろうという期待もあった。

これは一冊目と対になるような技術書だが、より、一般向けを意識した内容になっている。技術書ながら、一般向け書籍を執筆する練習の意味も含め、「読んで面白いネタ」や事例を少し入れ込むことで、読みやすい本になるように工夫したりもしている。

お陰様でこの本も一作目を上回るペースのヒットを記録した。ちなみに、この企画はシリーズ化されることとなり、後に別の著者が書いた三作目、四作目も軒並み大ヒットを記録している。(なお、この方々はそもそも私より売れる本を出せる実力者だ。)

企画本格始動

二作目からしばらくして、そろそろ三作目を考えませんかという話を頂くことになった。私としては、前二作で今書ける技術的に面白そうな(&一定以上需要のありそうな)内容は全て出し切ったので、次、書籍を執筆するならばここでルール本の企画を実行に移す以外の選択肢は考えられなかった。ビジネス書を出すことの難易度は相変わらずだったが、ソシムさんにはどうしてもこれをやりたいという熱意を汲んでいただき、本格的に検討していただけることになった。

というわけで、ついに企画書&目次を書く、という段階に至った。ここまでくるのに約10年かかった。ここで、いままで集めたネタを全て整理し(時期によってメモする場所が変わっていて、紙のノートに書いていたものや、evernoteに記録していたもの、dynalistというアウトライナーアプリに書いていたものなどを全て一か所にまとめる作業からスタートする必要があった)、内容的に近いものはまとめて近くに置き、そして構造化していった。どう構造化するかについてのアイディアは、長い年月の間に、なんとなく頭の中に出来上がっていた。なお、ネタ集めは昔から実施してきたが、この段階でさらに最近の話題を大量に追加したので、目新しい内容も多く取り入れられている。

出来上がったものを出版社さんの方で検討してもらったところ、「確かに、内容は間違いなく面白い」ということで、これがちゃんと読者の方に届くようにするにはどういう見せ方、アピールの仕方をすればよいかを考えていきましょう、と言っていただくことができた。遂に、この企画が正式に動き出した瞬間である。

執筆作業

執筆作業に関する内容はまたの機会に詳しく述べたいが、前作までで一応、本1冊分の分量の文章を分かりやすく書く技術はある程度身に付いたようで、特に大きなトラブルもなく進めることができた。一つ大変だったことを挙げるとすれば、本書では大量の事例や研究論文を紹介しているのだが(これが面白いので是非読んでいただきたい)、それの調査や裏取りに相当の手間がかかったことくらいであろうか。しかし、お陰でかなりよいクオリティの一冊に仕上がったのではないかと思っている。クオリティのことで言えば、カバーデザインや誌面デザイン(誌面もオールカラーである!)、挿入されている図のデザインなども、すべて期待以上に仕上げていただき、思い残すことのない一冊となった。

遂に完成

以上のような長きにわたるプロジェクトがついに形となった。発売日は2022/11/17。現在は予約受付中なのでもしご興味のある方は是非ご予約いただきたい。後悔はさせない一冊になっているはずである。

なぜ、本書を書くというアイディアを諦めずに、最後までやり通すことができたのか。それにはもちろん多くの方にご協力頂ける幸運に恵まれたことが大きい。私の前作、前々作をお買い上げいただいた読者の方、お一人お一人にも本書実現のために確かな貢献を頂いたといえる。この場で深く感謝申し上げたい。

ただ、そもそも「どうでもいい企画」であれば私も途中で熱意を失っていたのは間違いない。ここまで続けられたのは、ひとえに、この本を世に出すことが必ず世の中を良くすると固く信じ、それを絶対にやらねばならないと感じていたからであろう。本書が多くの方に読まれることで、世の中の仕組みから無駄や失敗が減り、少しでも良い影響が与えられたときに、真に私の「夢が叶った」といえるのかもしれない。


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