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文芸部部誌 1号

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Twitterで知り合った有志で作った、文芸部の部誌です。 皆の個性が爆発してる作品ばかりですので、宜しければ見て言って下さい。
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#小説

【小説】玉手箱

 少女は太平洋の中心にある島の小さな家に家族四人で暮らしていた。この島には二三軒のご近所しかおらず、少女と同年代の子供も居なかった。電子機器の類は無く、住民は皆漁で生計を立てていた。何も楽しみがないような小さな島であったが、少女は家族を深く愛し、幸福を感じていた。
そんなある日のことである。彼女が島のはずれでうろうろしていると、浜に打ちあがった大きな鉄の箱を見つけた。箱は剥げかけたカラフルなペンキ

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【小説】風船病

 受験に大失敗した私は、帰りのバスで白く染まる街を眺めていた。今までの行動を顧みるでもなく、ただ外を眺めていた。不思議なことに、街はモノクロにも極彩のようにも見えるのであった。そのように見えるのは、失敗した時のあっさりした放心からだろうか、それともこれから始まる浪人生活への緊張からくるものなのか。
 街はいつも通りの賑わいであった。街灯のイルミネーション、しんしんと降る粉雪、楽しそうに笑う子供たち

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胡蝶蘭

先の、盂蘭盆に胡蝶蘭が届いた、

仏壇のそば、白い卓布の脇に

真っ白な花を咲かせ、

そこは俗世と切り離されたようであった。

胡蝶は人の魂を浄土へ運んでゆくそうである。

昔の人は洒落たことを考えるな、

そう思いながら萎れて壊れてしまいそうな

蘭の花を覗いた。

詩人

詩人

詩人。彼は生来の詩人であった。彼が口にする言葉の一つ一つは常に変化していくリズムを自ずから持ち、只「ああ。」と発する声ですらも詩の一行となり得た。それは彼がそう溜息を吐く時、彼が心の底から「ああ。」と思っているためであった。彼は真の人であった。全く嘘というものをつかず、たとえ都合が悪くなった時でも、ただ黙するのみであった。常に、誰に対しても、何よりも言葉に対して正直であった。それ故に彼の言葉には一

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カタツムリ

カタツムリ

 カタツムリはアジサイの歯を食べることはできない。人間ですら殺すような毒の葉だ。なのにあの小さな殻を着た軟体動物はそれと知ってか知らずか、我が物顔で居座る。
「カタツムリも花の傍にいると心が安らぐのかなぁ。」
 そんな筈はないと知っている筈なのに、彼女はそんな事を言いながら物憂げにため息をついた。
 湿った季節につきものの低気圧は順調に彼女の思考能力を奪っているらしい。
「さっさとお風呂入っちゃっ

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 コンクリートに出来た水溜まりを雲が泳いでいる。幼い頃の僕は片足をそっとその上に乗せた。雲に乗って飛んでみたかった。
 何も知らぬいたいけな子供は、無惨にも掻き消され散り散りになった雲に泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。僕があんまり重かったせいで、昨日隠れておやつを食べたせいで、君をこんな形にしてしまった!
 泣いて泣いて、泣き疲れたころ、隣に立っていた母がそっと空を指さした。綿あめみたいな雲は

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マネー・エイジ(星新一)朗読

朗読者:千寿、カバーイラスト:ノカさん

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星新一さんのマネー・エイジの朗読です。

聖女の呪い(5)

聖女の呪い(5)

昼食を食べた双子はトゥレプの手伝いとして、乾燥させた薬草を薬研で細かくしたり、色々な薬を小瓶に詰めたりと、獣の足で器用に手伝いをしていた。

そんな風に作業をしていると、あっという間に日が落ちた。その途端、トゥレプの姿が溶けるようにアナグマへと変わっていく。着ていた服がその場に残らず消えてしまうのが不思議ではあるが、皆毛皮に変化しているのだろうとあまり気にしていない。

「さて、日が暮れたね。お月

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聖女の呪い(4)

聖女から受けた呪いによって、身動きの取れなくなってしまったカントとアトゥイは、仲間たちの手によってトゥレプの小屋まで運ばれたのだった。

トゥレプの小屋には闇の結界が張られているおかげで、ぐったりとしていた双子たちはたちまち元気を取り戻した。

「おばば、あの人間は一体なんなの!?」

「憐れな…とか言いながら、いきなり魔法をかけてきたんだよ!」

「そしたらいきなり人型が溶けて、狐の姿に戻っちゃ

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聖女の呪い(3)

聖女の呪い(3)

双子やトゥレプの棲むこの森は、太古の昔から魔力と呼ばれる力が満ち満ちている場所なのだ。500年ほど前、この膨大な魔力に目を付けた人間たちは、自分たちだけがその力を使えるようにと、この地に結界魔法をかけ、人よりも多く闇属性の力を持つ、魔族やエルフ、ドワーフや精霊と呼ばれる者たちが立ち入れないようにしてしまったのだ。

しかし、この魔法の影響はそれらの亜人種たち以外にも影響を及ぼした。それが森に棲む動

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聖女の呪い(2)

聖女の呪い(2)

双子は香ばしい美味しそうな匂いで目が覚めた。鼻をヒクヒクと動かす。

匂いのする方へ目をやると、一人の老婆が竈にかかる鍋をゆっくりとかき混ぜていた。

「おや、お前たち目が覚めたね」

「オババ、おはよう」

先に起き上がったカントが、前足で器用に目をこすりながら、寝ぼけ眼で挨拶をした。
この老婆は今朝がた、双子をこの切り株小屋へ招き入れたアナグマだ。しかし、カントとアトゥイは狐の姿のままである。

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聖女の呪い(1)

聖女の呪い(1)

まだ夜の明けきらない群青の空の中、山の麓に深く広がる針葉樹の森の中を、双子が下草を踏み分けながら歩いている。

明るい赤黄色のつやつやした毛並みに大きくとがった耳、ガマの穂のような太いしっぽを持つキツネの兄弟だった。

「アトゥイ、早く夜露を集めてしまおう。朝日が昇ってきてしまう」

カントはそう言いながら、器用に夜光草の葉にたまる夜露を透明な硝子瓶へ集めていく。

「わかってるよカント」

先に

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タイトル『妻1』

その町には、死体をオルゴールに加工する職人が居る。

初めて見たその職人の作品はとても美しかった。
肋骨のボックスに入った宝石で作られたオルゴール、薄い黄色をしている。
なんでもこの宝石は血液や骨から作るらしい。
その宝石をオルゴールに加工しているのだ。

ネジを回してみる。
チュチュ、チチチ、鳥の声が歌い出す。
タイトルを見ると『メジロ』と書かれていた。
これはメジロの死体から作られているのだろ

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愛を食べる鳥

それは不思議なモノだった。
鳥の巣の中にある、キラキラとしたモノ。
卵型をした琥珀。
中には鳥のヒナの姿が見える。
それと少しの液体。
これは1週間前にとある鳥-鳥と言って良いのか分からないが-が産んだモノだ。

その鳥っぽいナニカは、クオンッと空に向かって一声鳴いた後、中が透けてみえる程薄い琥珀の卵を、巣の中に5つ産み落とした。
中には液体が揺らめいている。

私がその姿を見れたのは運が良かった

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