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詩人

詩人。彼は生来の詩人であった。彼が口にする言葉の一つ一つは常に変化していくリズムを自ずから持ち、只「ああ。」と発する声ですらも詩の一行となり得た。それは彼がそう溜息を吐く時、彼が心の底から「ああ。」と思っているためであった。彼は真の人であった。全く嘘というものをつかず、たとえ都合が悪くなった時でも、ただ黙するのみであった。常に、誰に対しても、何よりも言葉に対して正直であった。それ故に彼の言葉には一切無駄な言葉がないのであった。私は彼の言葉を聞く時、常に幸福と共にあった。常に彼を尊敬していた。彼に出会ってからというもの、私は自らを詩人と呼称する詩人を信じることができなくなった。彼はどんな詩人よりもまさしく詩人であったが、彼が彼自身を詩人と呼んだことは無かった為である。私は彼こそが詩人なのだ!と叫びたかったが、その言葉が途端に彼をつまらぬ枠に押し込めてしまうような気がして、とうとう彼が生きている間それを言い出すことはなかった。

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