コンクリートに出来た水溜まりを雲が泳いでいる。幼い頃の僕は片足をそっとその上に乗せた。雲に乗って飛んでみたかった。
 何も知らぬいたいけな子供は、無惨にも掻き消され散り散りになった雲に泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。僕があんまり重かったせいで、昨日隠れておやつを食べたせいで、君をこんな形にしてしまった!
 泣いて泣いて、泣き疲れたころ、隣に立っていた母がそっと空を指さした。綿あめみたいな雲は、逃げるように風に流されていた。
 この雲が流されてつぎはあの雲、あの雲が流されてつぎはその雲、かわるがわる僕の顔を覗き込んでは笑いかける彼らを僕は一心に見上げていた。 泣き顔から笑い顔、戸惑った顔、また笑顔。かわるがわる移り変わる僕の顔を見て、母は笑っていたように思う。

 それから時は雲のように矢継ぎ早に流れた。
 今、僕は空を飛んでいる。母に会うために。

文芸部企画【1文指定物語】
 1文はくろこ氏より。
「コンクリートに出来た水溜まりを雲が泳いでいる。」
 雲が泳ぐという柔軟な発想力から、連想したのは子供の頃の思い出。穏やかでどこかぼんやりと断片的な、水溜まりのような思い出。
 最後の1文の解釈をお楽しみいただければと思います。

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