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聖女の呪い(3)


双子やトゥレプの棲むこの森は、太古の昔から魔力と呼ばれる力が満ち満ちている場所なのだ。500年ほど前、この膨大な魔力に目を付けた人間たちは、自分たちだけがその力を使えるようにと、この地に結界魔法をかけ、人よりも多く闇属性の力を持つ、魔族やエルフ、ドワーフや精霊と呼ばれる者たちが立ち入れないようにしてしまったのだ。

しかし、この魔法の影響はそれらの亜人種たち以外にも影響を及ぼした。それが森に棲む動物たちだ。彼らの大半は夜行性であり、基本的に闇に属している。そのため、光魔法が強まる日中は、鳥でさえも行動することが出来なくなってしまったのだ。それだけならば、夜の間に森から逃げればよかったのだが、この結界は内側からも人以外の物を通さないようになっていたのだ。

魔族や他の種族たちは、ほかにも魔力の濃い場所を知っている為、人間のこの自分勝手な行動をさほど気にすることなく放っておいたが、魔族を束ねる闇の神である魔神は森の動物たちを憐れみ、一つの恩恵を与えたのだ。

それが日の出とともに人の形へと変化し、日没と共に獣の姿へ戻るという物だった。一見すると呪いそのものだが、日中一切動けなくなっていた動物たちにとっては恩恵である。そして、魔神へ感謝をした。

これを良しとしなかったのは人間たちだった。結界の思わぬ影響に気が付いた人間たちは、上質な肉や毛皮を持つ動物を、苦労せずに刈りとれる良い狩場としても、この森を利用していたのだ。

この事態をどうにかしようと、甘い汁を吸っていた王族や、それに近い人間、権力を拡大させたい教会の人間たちは、国の中で突出して光魔法の力が強い乙女を探し出し「聖女」と呼び、彼女達には魔神の呪いで本来の姿を失った憐れな動物たちを解放してほしいのだと、嘘を吹き込み、度々この森へ派遣し魔神の恩恵を受けた動物たちから、その恩恵をはく奪するようになったのだ。

恩恵をはく奪など光の神とは言え出来るはずも無く、魔神の恩恵に光魔法で阻害の魔法をかけているにすぎないのだが、聖女たちは周りからその魔法が解呪の魔法であると教わっており、心の底から憐れな動物たちを呪いから解放したのだと思っているのだ。

「魔神の呪いで人になってしまう、憐れな動物たちを本来の姿に戻したのだ。光の神に感謝せよ」

心の底から、この言葉を発する聖女という存在、彼女達の使う光魔法こそ呪い以外の何物でもなく、聖女が森に入ったと知るや否や動物たちは皆、姿を潜めるのだった。

そして、聖女がいなくなった途端、姿を現す狩人たち。毎年多くの動物たちが、この手法で狩られて行くのだった。

カントとアトゥイも聖女によって呪いをかけられた動物だったのだ。双子は狩人に狩られる前に、仲間が助け出してくれたので事なきを得たのだが、やはり昼間は腕の一本さえも持ち上げることが出来ないのだった。

-続-

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