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一次創作、短編小説やお絵かきをしています。 自サイト「もうふの民(たみ)」↓ htt…

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一次創作、短編小説やお絵かきをしています。 自サイト「もうふの民(たみ)」↓ https://sites.google.com/view/moum-na-teatime/  良かったら覗いてみてくださいね。

最近の記事

昔の自分と

 「若い頃の方が楽しかった」  「学生時代にまた戻りたい」  そう思える人がちょっとだけ羨ましくある。自分は歳を重ねた今の方が楽しいから。    学生時代、すごく苦労したわけじゃない。でもそれなりに嫌な事はたくさんあって。思い出すのは良かった事よりも暗い思いばかり。楽しかった思い出なんて。  今の方が言いたい事をしっかり話せるし、書ける、描ける。人と関われるのがずっと嬉しい  思う事がある。若い頃が楽しい、楽しすぎると、歳を重ね続ける現在、晩年、寂しいや辛いがより突き刺

    • 豆話/夢にくるまれて

       もう一つ、世界がある。それは夢の中。  覚えていたり、覚えていなかったり。  時折ふと思い出す風景。  初めて来た場所。  それが夢で見たあの場所に似ていて。  ただの既視感では片付けられなくて。  蝶の夢だなんて言われたとしても。  夢の中、どこにでも行けるのに。自分の意思だけでは行かれない場所。だけど広がる景色は確かに懐かしい。色彩が踊る。夢の中の色を描こうと足掻く心。  初めて会った人。  それが夢で出会った人かもしれなくて。  ただの偶然とは言いたくなくて。

      • 短編小説/水たまり行きの切符

         雨が降りそうな気配がする。空気が湿ってきた。当たり前か、梅雨の季節だ。道端には、紫陽花が密やかに咲く。時折アガパンサスがにょきり、顔を覗かせる。まさに梅雨の景色だ。  天気予報はやっぱり雨。どうやら今日の雨はしとしと、降るらしい。梅雨は不思議な時期だと思う。涼やかな雨が降りしきっていたと思ったら暑い暑い晴れ間が除く。雨の日はまるで晴れの日なんか無いみたいに空が曇るのに。晴れの日は雨の日が嘘みたいに雲が姿を消す。  今日は日曜日だ。私は散歩をしている。通勤時にはうっとうしい雨

        • 豆話/明日を振り返って

           どうして今日にいるのに明日を振り返っているのだろう。  明日を恐れて眠れない。明日が来ない内から明日をみている。明日のことは明日にならないと決してわからない。  それなのに今日、明日を恐れている。明日も恐ろしいに違いない、ろくな事がないと怯える。明日の結果までわかったように怖がる。  明日のあの事が気にかかる、きっと大変だろう、辛いだろう。明日のあの事が気がかりだ、明日など来なければ。  何度も何度もこんな事を思ってしまう。  それでもこう考える。自分には明日を生

        昔の自分と

          豆話/未知を道ゆく

           避けては通れない道。道は未知。  逃げ出したくなる。自分が居なくても何とかなる。遠くへ行ってしまいたい。  実行できるのにしないのはどうしてだろうか。やっぱり今ここ、この時が大切だから。離れてしまったら戻ってこられない。  晴れ間を見ては思う。何もかもを投げ出せたら。嫌なことも、不安も置いて、遥か彼方を目指せたら。太陽の昇る先へ、あるいは沈む先へ。そこまで行けたらどんなに暖かなんだろう。  雨降りの日に思う。悲しみを、怒りを、嘆きを、洗い流してくれたら。水をたたえて

          豆話/未知を道ゆく

          ちょっと暗い話

           気持ちがすっきりしない。失敗してしまった。    もちろんフォローしてくれる、声を掛けてくれる人もいる。それでも今回の失敗は、日頃自分でも足りないと思っていた所が原因のひとつになったと思う。  正しいからこそ突き刺さる言葉。叱責。自覚があるからこそ胸でずっとこだまする。反芻してしまう。一呼吸おいて冷静になれたはず。後悔しても遅いけれど。  自分のために今日の失敗はして良かったのかもしれない。自分のための言葉なのだから。そう思っても落ち込みはなかなかおさまらず。  書いたら

          ちょっと暗い話

          豆話/もうふの民

           毛布にくるまらないといけない。そうしないと安心できない。まわりの嫌なものから柔らかな毛布が守ってくれるはずだから。  時には頭巾のように、時にはケープのように。身体の一部みたいに、毛布を身につける。  側にないとうわの空。柔らかな感触を懐かしみ悲しみにくれる。落ち着かない、気もそぞろ。やり場のない手が宙を彷徨う。外の世界は刺激が強過ぎて。強い衝撃がそのまま自分にのしかかる。毛布にくるまれていない自分はとても弱くただ。ひたすら一日をやり過ごす。柔らかな毛布にくるまる時間を夢見

          豆話/もうふの民

          文学フリマ東京38 感想4

          『TOKIMAKE』コスメアンソロジー   揚羽はな様、甘木零様、実石沙枝子様   じゅりあ様、菅浩江様、中野怜理様   花草セレ様、真下みこと様、まだりん様   松本あずさ様  びっくりしました。とても良い意味でです。  題名に惹かれて購入させていただきました。 トキメイク、と書いてあります。きっとメイク、お化粧の華やかさや喜び、ときめきについて書かれているのかなと予想していました。    私にもメイクへの憧れの時期、ときめきの時期、がありまして。下手なりに楽しんでいま

          文学フリマ東京38 感想4

          豆話/新緑に染まる

           木々がざわめく音がする。  さらさら流れる風。新緑の木々。その一本の根元に腰掛け目を閉じた。髪が静かに揺れる。風に乱れた髪を整えようと目を開ける。後ろ髪を触りながら目線を上げた。頭上には木漏れ日。ウロコのように光が散りばめられている。陽の光も風に揺らめきまたたく。あたたかな光。眩しくて目を細めると、緩やかな眠気が訪れた。  そのまま目を瞑る。目の裏にはまだ新緑が焼き付いている。瞼を透かして木漏れ日が届くようだ。緑の間を楽しげに踊るそよ風たち。草いきれ、新緑の香りが鼻先をく

          豆話/新緑に染まる

          豆話/梅雨どきの花

           梅雨が来る。白い雲がだんだんと灰色に近づき雨粒を降らせる。じめつく空気が震え始めて空が泣き出す。  大きな花を片手に皆が外を歩く。色とりどりの一輪の花を片手に。身を縮めながら、花の影に隠れて歩く。それはどんな花なのか。透明で見上げれば空をうつしている花。雨のゆううつも忘れさせてくれる彩り豊かな花々。灰色の雲よりもさらに深い黒色。それぞれがお気に入りの、はたまたそれぞれの目的にあった花を咲かせている。時折、くるり、くるり。誰もいないことを確認して花を踊らせる。  花々はぬ

          豆話/梅雨どきの花

          豆話/波打ち際に描いた絵

           寒さの冬が遠ざかり、穏やかな春が訪れようとする時期だ。  貝も拾いたい。ひとつとして同じ色、形、大きさのない貝殻たち。貝殻を耳にあてたい。波の音がするからね、よく聞いた話だ。小さな頃、自分の頭くらい大きな貝殻に耳を近づけた。ゴーっと水が流れるような音がしたっけ。あれは渦潮の音なのか。海流の音なのか。波の音なのか。きっと海の声なのだろう。貝殻に閉じ込められた海の声。海が懐かしくて鳴いている。  桃色の薄い貝殻、桜貝だ。海の底にも桜が咲くのだろうか。優しく手のひらに乗せる。

          豆話/波打ち際に描いた絵

          文学フリマ東京38 感想3

          『ナビカトリア物語』  ちしまももこ 様  ナビカトリアに行ってみたい、あわよくば住みたい!、一言でまずそう言いたいです。  とても優しい語りで物語が始まり綴られています。敢えて終わりのない物語、すごく惹かれました。区切りのない物語が、流れゆくナビカトリアそのもののようで。島に住んでいる人々の悠久の穏やかさを表しているようで。    小さなエリィと頑固なトーヤの2人がとってもキュートです。女将と下宿人、家族みたいな近いようで遠くもある関係。距離があるようでそばに居る、絶妙

          文学フリマ東京38 感想3

          豆話/良い闇の光

           光に会いたい。そんな日は眼鏡を外して夜の街を歩きに行く。歩き慣れた道。そうじゃないと道を踏み外してしまうから。  信号機だ。歩道から車道を眺める。赤色の光がはじける。丸いはずの形はぼうっと光り、さらに丸く大きく見える。眩しい、と瞬きしたら青信号。停車していた自動車を見送る。たくさんの尾灯がゆらめき遠ざかる景色。  背の高い街頭が頭上を照らす。白っぽい光がほわりと広がる。点々と存在するそれらは街中を歩く人々を照らす。今日を終えようと歩く人々、今日が今から始まる人々、皆を迎えて

          豆話/良い闇の光

          文学フリマ東京38 感想2

          『大人のタメの童話 其ノ壱 「甲」』   釈迦堂入史 様  あっ、この作品は絶対に自分は好きになる、と購入させていただきました。  読んでいてよく思い浮かんだのは、この先どうなってしまうんだろう、です。展開にどきどきし、はやくはやく、とページをめくってしまいました。  善意が善意でかえってくるとは限らない、それでも。力強く生きる母と5人の息子たちが眩しかったです。「星の川」にあんな素敵な意味があるなんて。最後まで読みきり、その意味がわかって思わず微笑んでしまいました。  

          文学フリマ東京38 感想2

          文学フリマ東京38 感想1

           購入させていただいた作品の感想などを書いていきます。 『余白』    やまざき想太 様    これから先、何度も何度も何度も読み返していくであろう作品です。心からこの作品に出逢えて良かったと思います。読むことが待ちきれなくて会場の外で開いてしまいました。  読み始めてすぐにはっ、としました。私の今までに感じていた言葉にしきれない感情だとか形のない想いを言葉にしてくださったようでした。あたたかい夜の海辺でゆっくりひっそり、焚き火にあたるような。揺れる炎を見つめながらおだやか

          文学フリマ東京38 感想1

          豆話/夢に落ちる時なんて

           今日もまたこの瞬間を待っていた。覚醒と眠りの狭間。ゆらめく意識。引きのばしたくてわざと寝返りをうってみる。眠りに入ろうとする意識を必死になって引き上げる。いったりきたり。もうくたくたで眠りたくて仕方がないのに、この時から離れたくない。何もかもから解き放たれた心地。身体の浮遊感がたまらなくて。  「眠いなあ……」  独り言を言ってみる。室温は適温、あたたかくもあり涼しくもある。布団はふわり。今日は休日だったから物干し竿にばさりと干した。ぬくまる布団にくるまる時を想像し、待

          豆話/夢に落ちる時なんて