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豆話/紫陽花が白いのは


 白い紫陽花。色を失った後なのか、それともこれから色づくのか。もしかしたら初めから終わりまで真っ白なのかもしれない。
 
 今年は雨がまだ降らない。来るはずの梅雨が遅れている。夏か、と思うような日差しが肌を焼く。
 
 空の涙に触れて、紫陽花は彩られる。涙の色に生まれ変わる。青、紫、桃、赤、緑、色とりどり。
 
 けれども一向に降らない雨、待ちぼうけ。紫陽花は梅雨を待ち侘びる。それでも遠い梅雨の日。何色に染まれば良いかわからず途方に暮れる紫陽花たち。彼らは未だ白いまま。梅雨を懐かしみ、雨の温かさを思うばかり。
 
 紫陽花は白く輝く。雨に染まらず、涙に触れず、ただ白いまま。


 涙って良くない事でも、素晴らしい事でも流れていく。何も起こらない、感じない、知らないまま、白く輝くのも美しいけれど。

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