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豆話/良い闇の光

 光に会いたい。そんな日は眼鏡を外して夜の街を歩きに行く。歩き慣れた道。そうじゃないと道を踏み外してしまうから。
 信号機だ。歩道から車道を眺める。赤色の光がはじける。丸いはずの形はぼうっと光り、さらに丸く大きく見える。眩しい、と瞬きしたら青信号。停車していた自動車を見送る。たくさんの尾灯がゆらめき遠ざかる景色。
 背の高い街頭が頭上を照らす。白っぽい光がほわりと広がる。点々と存在するそれらは街中を歩く人々を照らす。今日を終えようと歩く人々、今日が今から始まる人々、皆を迎えて送り出す。
 少し高い位置から見たくて歩道橋へ登った。一定の間隔を開けて走る車の川。光の川がただ明るく照らす。
 遠くを見られない近視。光の景色以外を映さない都合の良い目。形も様々な光たちを丸、ひとつに変えてしまう。夜の街、全てが黒く塗り込まれ光だけを褒めたたえているようだった。
 しばらく浸った後、目を空中に向けた。黒を反射するビル群があるらしい。この瞳に詳しくは映らない。等間隔で並ぶ同じ大きさの光が見える。きっとビルの窓だろう。それはオフィスなのか住宅なのかわからない。しかしあたたかな光に違いなかった。
 さらに上を見上げる。あるはずの星々。まばゆい街の光に照らされてうっすら瞬いているらしい。ひときわ輝く明るい星、月だ。三日月すら丸くおさめるこの目。世界は丸くできている。
 霞む視界はおざなりで。遠くは見られぬもどかしさ。丸い光を包み込み、その輪郭を黒が導き出す。時には全てを丸くして。黒染めの中、散歩をしたい日もあるさ。

 時には眼鏡もコンタクトレンズもはずして、夜の街を見つめてみては。

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