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豆話/もうふの民


 毛布にくるまらないといけない。そうしないと安心できない。まわりの嫌なものから柔らかな毛布が守ってくれるはずだから。
 時には頭巾のように、時にはケープのように。身体の一部みたいに、毛布を身につける。
 側にないとうわの空。柔らかな感触を懐かしみ悲しみにくれる。落ち着かない、気もそぞろ。やり場のない手が宙を彷徨う。外の世界は刺激が強過ぎて。強い衝撃がそのまま自分にのしかかる。毛布にくるまれていない自分はとても弱くただ。ひたすら一日をやり過ごす。柔らかな毛布にくるまる時間を夢見て。
 帰宅して真っ先に毛布に触れる。何年も共に過ごした毛布。繰り返された洗濯、触れる手によってぼろぼろの端っこ。それすらも愛おしくて仕方ない。いつもは抱きしめてくれる毛布を、ぎゅっと抱きしめる。ほのかな安心が毛布から広がる。新品の毛布には感じられないぬくもり。ただ今日も今日を終えられそうなことに安堵して。毛布があって良かったなんて頬擦りをする。今晩もおやすみ、良い眠りに落ち着けることを祈って。ぎゅうと毛布を抱きしめた。

 毛布って本当にいい。やわらかであたたかで。当たり前に側にある。安心をくれる存在。自分はもうふの民(たみ)です。
 毛布以外にも安心をくれる人やもの、存在があるけれど。これを読んでくださったあなたにとって心地良い安心をくれる存在ってありますか、いますか?そんな存在があなたの側にいてくれたらいいな。
 

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