マガジンのカバー画像

映画大好き

22
運営しているクリエイター

#映画

『秘密の森の、その向こう』

『秘密の森の、その向こう』

『燃ゆる女の肖像』が大好きで、そのセリーヌ・シアヌ監督の最新作ということで映画館に足を運びました。寝不足だったこともあり、途中すみません、眠くなるところもあったのだけど、それぐらい心地が良い映画。音楽も後半までずっとなくて、ほぼサイレントな中で、木々が黄や赤に色づく、まるで絵画のような森を舞台にお話が進みます。おばあちゃんとの別れを経て、新しい道を歩もうとする8歳の少女とその母。ふたりは心の底まで

もっとみる
『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観て

『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観て

親友を傷つけた昔の同級生を断罪し、復讐をする物語。元医大生で現在はカフェ店員の主人公をキャリー・マリガンが演じます。彼女といえば『わたしを離さないで』『未来を花束にして』といった社会性のある映画が印象深いところ。聞いたところによると脚本を吟味して出演作を選ぶことで知られているそうです。そうと聞いたらますます放っておけませんよね。

映画は最初から度肝を抜かれます。キャリー・マリガン演じるキャシーは

もっとみる
5月某日

5月某日

映画『ファーザー』を観にいった。認知症になった父親の話で、取り巻く娘や夫など身の回りのことが描かれる。アンソニー・ホプキンズがアカデミー賞主演男優賞を受賞している。なぜここまで評価されたか、上映から数分ですぐにわかった。こんな作品は今まで観たことがないのである。最後まで観終わって観客の手元に残る確かなことは、現在、介護施設に入っていることと娘がいること。それは父親が抱いていることとほぼ同じなのであ

もっとみる

映画『わたしの叔父さん』を観て

人の善意とはこんなにもあたたかいものなのか、と思えた映画であった。それと同時に人生とはどうしようもないときもあって、優しさがいくつ集まっても越えられないものもあるという、切なさも感じた。

『わたしの叔父さん』は、家族を早くに亡くし、農場を営む叔父さんに引き取られたクリスの毎日を描いている。クリスは若く美しい。大っぴらに将来を望んでも咎められることはないはずなのに、自分で自分にブレーキをかけている

もっとみる
映画『この世界に残されて』を観て

映画『この世界に残されて』を観て

 『この世界に残されて』はナチスドイツの支配下にあり、約56万のユダヤ人が殺害されたハンガリーの戦後、1948年が舞台である。この年はソ連支配が強まり始めたころであった。ホロコーストの残酷な爪痕と社会主義化前夜の市井の人々が描かれる。

 両親と妹を失った16歳のクララ(アビゲール・スーケ)は、診療で出会った寡黙な中年医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に同じ境遇を嗅ぎとり、心を寄せるようになる。彼

もっとみる

映画『エイブのキッチンストーリー』を観て

主人公はイスラエル系の母と、パレスチナ系の父を両親にもつ、ブルックリン育ちの12歳の少年。家族の宗教観や文化の違いに迷い、翻弄されながらも、自分の好きな料理の力でなんとか歩いていこうというストーリー。

これはですね、もう少年・エイブが気の毒で仕方がなかったですね。当然ですが祖父母や伯父はそれぞれの価値観を深く信じており、できるだけ無宗教で育てようと決意したはずのエイブの両親も、互いの家族が激論を

もっとみる
映画『ミッドナイトスワン』(9/25公開)

映画『ミッドナイトスワン』(9/25公開)

 内田英治監督・草彅剛主演の『ミッドナイトスワン』が9/25に公開される。SNSを活用した宣伝員の公募で運良く50人のうちの一人に選ばれ、一足先に鑑賞した。紹介したく、短く記す。

 あらすじはこうだ。新宿のニューハーフクラブで働く凪沙(なぎさ・草彅剛)のもとに、中学生の一果(いちか・服部樹咲)が転がり込む。実の親により傷つけられた少女は自分との折り合いがつけられずにいた。間もなく少女はバレエと出

もっとみる
『ポルトガル、夏の終わり』を観て

『ポルトガル、夏の終わり』を観て

食事の良さは世界一、という話を聞いたかつての私は、半年後ポルトガルにいた。すぐに、料理もお菓子もワインも、出されるすべてが食いしん坊を十分に満足させることはわかった。と同時に、あくせくしていないこの国の、特別な何かに気づくことになる。ゆったりした空気に、余計に感情を引き出される感覚を覚えたのである。

『ポルトガル、夏の終わり』は、余命を覚悟した女優・フランキー(イザベル・ユペール)が、世界遺産の

もっとみる
映画『ペイン・アンド・グローリー』を観て

映画『ペイン・アンド・グローリー』を観て

 人は、少なくとも私は、落し物をしながら人生を歩いているのかも。何も間違いを起こさない人生、思った通りの人生なんてあるのだろうか。そう考えさせてくれた作品である。

 6月に観たスペイン映画『ペイン・アンド・グローリー』は、『オール・アバウト・マイ・マザー』の傑作で知られるペドロ・アルモドバル監督の最新作。主演はアントニオ・バンデラスで、年を重ねるほどに美しいペネロペ・クルスがまたいきいきとしてい

もっとみる
映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を観て

映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を観て

 スクリーンが暗くなってから、ああこのままうっとりし続けたい、映画館よ、どうか明るくならないで、と思っちゃいました。ロマンティックでちょっぴりエゴイスティックな、ウッディ・アレン監督「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」。

 大都市ニューヨークの裕福な家庭で育ち、金銭と教育という十分な資産を持ちながら自らを持て余している青年ギャツビー(ティモシー・シャラメ)と、銀行家の娘でジャーナリスト志望のアシ

もっとみる

映画『ラ・ラ・ランド』を観て

 「夢は追うものだよ、どんどん行けよ」というメッセージだったのか。それとも「夢は夢だろ?」といいたかったのか、どっちだろう。「夢は追うもの」と捉えられればこの映画の感想はハッピーだし、そうでなければ約2時間のうちの、1時間50分ぐらいは辛い体験となる。

 ジャズピアニストを目指す男と女優を夢みる女の恋愛や葛藤を、華やかさときらめきを盛り込みながら送る、ハリウッドを舞台にした映画。男女がそれぞれ、

もっとみる

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観て

 人は他人の力では癒されない。自分を救うのは自分だ。映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は忘れようと思っても忘れられない、心の傷を抱えた人の物語だ。

 主人公・リーは、兄の死をきっかけに生まれ育った街、マンチェスター・バイ・ザ・シーへと戻ってくる。兄や両親、そしてかつての妻や子供達と過ごしたわが故郷だ。街の人は遠巻きに見ながら彼の噂をする。彼はかつてこの街で悲惨な経験をしたのだった。

 人は

もっとみる

映画『ザ・トゥルー・コスト』を観て

『ザ・トゥルー・コスト』(2015)は、ファストファッションの罪について切り込んだ、ドキュメンタリー映画。ファストファッションは発展途上国の人々の安価な労働力なくては存在しない。それを知る人は多いと思うが、実はまだその先がある。人権までをも無視した労働環境、工業化された綿栽培による人体への薬品被害、先進国の人が捨てる服や余った生地のゴミの山など、ファストファッションが世界を席捲しているように、負の

もっとみる