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こいつ、おれのこと好きなんかな

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主人公の大学生は女の子に話し掛けられた全ての言葉を勘違いし、オチは全て「こいつ、おれのこと好きなんかな」で終わります。結末は全部同じなので、話し掛けられる台詞と、過程を楽しんでく…
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2020年5月の記事一覧

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑪』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑪』

「夜の匂いが早くなった、初夏がやってくるね」

彼女は言い回しが妙だ。
お婆ちゃんが日本を代表する俳人なのかもしれない。会話に必ず季語を入れてくる。
どこか情緒をプンプンに漂わせて。

朝会った時は、「おはよう、春眠が気持ちよかったねー」
授業を終え外に出ると、「風強いー!薫風だー!」
雨が降り続く午後は、「これは、送り梅雨かな?返り梅雨かな?」

僕は訳もわからず相槌を打って、別れた後にGoog

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑩』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑩』

「あー、私の人生こんなはずじゃなかったのになあ‥」

彼女は僕に弱みを見せてくる。
3回に1回はどこからか湧いてきた感情を、溜息混じりに吐露してくる。
汚れた消しゴムのカスを丸めながら、浮かない表情の彼女を見つめる。

授業中の表情も、学食での表情も、廊下を歩く表情も、彼女はどこか物憂げな感じがした。
その様は、こんな不幸な私を見てほしい、と言わんばかりだった。
こんな顔をしながら存在していれば、

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑨』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑨』

「火、貰ってもいいですか?」

「大事な話は喫煙所で決まる」という噂めいた言葉がある。
商談や人事決定など、ダラダラと会議が長引いていても、一服休憩で気持ちを落ち着けたところで話が進展する、ということだ。

そんな話をどこからか聞いたことに加え、大学の友達がことあるごとに「タバコミュニケーション」最強説を唱えていた。
彼はその一説だけを武器に大学中の喫煙所を渡り歩き、様々なネットワーク網の中心にい

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑧』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑧』

「久しぶりじゃん!こんなところで会うなんて!」

驚いた。

中学の同級生とバッタリ会ったことより、彼女が随分と綺麗になっていることに。
たしかに、今思い返してみれば、顔立ちはハッキリしていて、ちっちゃくて、かわいい部類だったかもしれない。
それでも、少し控えめな性格だっただけで、「イケてる女子グループ」に属していなかっただけで、自然と度外視していた。

そんな彼女と偶然出会って、しかも、自分のこ

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑦』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑦』

「あっ、髪切った?」

アルバイト先の休憩室は、シフトの30分前には出勤をするバイトの人数に見合わず、狭い。
僕の隣に置かれた、ガタガタするパイプ椅子に優しく座った彼女。
僕の存在を見つけた途端、嬉々として話し掛けてきた。

僕は毎月4,800円もかけて美容院に通っている。
「とりあえず、生」のテンションで「とりあえず、ツーブロック」とオーダーするこの髪型に、それほどの価値があるのか、と会計時にい

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑥』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑥』

「きみってサカナクションにいそうな顔してるよね」

すぐに脳内で「新宝島」のイントロが流れ、MVが投影された。

踊っているメンバーの、誰のことであろうか。
というか、半分くらい女だった気がするけれども。

この言葉の意味が、「カッコいい」か「カッコ悪い」かのどちらに分類されるかは、今後このバンギャと接していく上で非常に大切だ。
僕はYouTubeで、その真相に迫った。

驚くことに、全メンバーが

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『こいつ、おれのこと好きなんかな⑤』

『こいつ、おれのこと好きなんかな⑤』

「ブックカバーはおつけしますか?」

「あ、お願いします」と紳士的に答える。
1つ目。

駅前に80坪程の小さな書店がある。僕のアパートの最寄駅で新刊本を扱うお店はここくらいしかないので、特に用事がなくても毎週通い詰めている。
理由は2つ。書店の独特な匂いが好きということと、アルバイトの女の子がかわいいということ。
後者の理由が98%、残り2%の前者の理由は、こう言えば文学的且つ感受性豊かなイケメ

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『こいつ、おれのこと好きなんかな④』

『こいつ、おれのこと好きなんかな④』

「きみの書くひらがなってなんか、エモいよね。」

エモい?

響きだけ聞くと少し興奮してくるが、エモいのニュアンスだけで判断してはいけない。
ちゃんとした意味を調べるため、検索窓に「エモい」を入れた。
夕焼けの画像の下に、「英語の『emotional』を由来とした、『感情が動かされた状態』、『感情が高まって強く訴えかける心の動き』などを意味する」とあった。

恐らく褒められているのだろう。
ただ、

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『こいつ、おれのこと好きなんかな③』

『こいつ、おれのこと好きなんかな③』

「すいませーん!おちょこ2つ!」

数々のサークル勧誘を断ってきたが、クラスの新歓コンパはさすがに断り切れず、チノパンに青シャツ姿で居酒屋にやってきた僕。
目の前には、クラスで1.2を争う美人といっても過言ではない女の子。
どうやらお酒が大のつくほど好きらしく、余ってしまった生ビールピッチャーの敗戦処理をしている。

最後の一口を飲み干して飲み放題メニューを見た彼女は、日本酒の存在に気付くと同時に

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『こいつ、おれのこと好きなんかな②』

『こいつ、おれのこと好きなんかな②』

「ねー、今日の3限って出席した?」

友達リクエストが申請されました。

mixiの友達申請と一緒に、メッセージが届いていた。
仏教概論Ⅱという、限りなく興味が透明に近い講義であるが、単位の取り易さからいつも教室はパンパンだ。
学期末にある試験の模範解答とも呼べるプリントが毎回の授業で配られるため、友達の少ない僕は出席が欠かせない。

そんな授業が終わった27分後、携帯のホーム画面に通知があらわれ

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『こいつ、おれのこと好きなんかな①』

『こいつ、おれのこと好きなんかな①』

「きみ、そのリュックどこで買ったの?」

たしかに、少し派手かもしれない。

黒地ではあるものの、赤や黄色や紫で彩られたアルファベット達がさまざまな角度で散りばめられている。
もはや黒の余白はない。
新宿の百貨店で母親に買ってもらったこのリュックは、大学の進学祝いでもある。
それなりに高い値段がするが、このデザインなら大学で一目置かれると思い、反対する母の声を押し切り購入した。

キャンパスライフ

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