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『こいつ、おれのこと好きなんかな③』


「すいませーん!おちょこ2つ!」


数々のサークル勧誘を断ってきたが、クラスの新歓コンパはさすがに断り切れず、チノパンに青シャツ姿で居酒屋にやってきた僕。
目の前には、クラスで1.2を争う美人といっても過言ではない女の子。
どうやらお酒が大のつくほど好きらしく、余ってしまった生ビールピッチャーの敗戦処理をしている。

最後の一口を飲み干して飲み放題メニューを見た彼女は、日本酒の存在に気付くと同時に、「飲む人ー?」と点呼をとる。
6人掛けのテーブルには、下戸が2人と既にカシオレを飲んでいる2人。
僕は、「チキン南蛮には日本酒ですよねー」と訳の分からないことをほざきながら、手を挙げることしかできなかった。

正直にいうと、僕も苦手だ。
ビールですらジンジャエールを混ぜた方が美味しいと思っている僕なんかが、日本酒の味などわかるはずがない。
仮に、おちょこに水が入っていたとしても、酔っ払ってしまうだろう。そして、ドヤ顔で「水みたいに飲み易いですね〜」と言うに違いない。

そして、僕と彼女の間に置かれた、なみなみに日本酒が入ったとっくりと、おちょこ2つ。
6人掛けのこの席で、いや、30人ほどの大広間で、僕と彼女だけの晩酌。
「じゃあ、乾杯しようか」と差し出した彼女のおちょこが少し震えているような気がした。
この乾杯には、どういった意味が含まれているのだろうか。
ショットと間違えてイッキ飲みした5秒後、なんとなく理解した。

「こいつ、おれのこと好きなんかな」

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