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『こいつ、おれのこと好きなんかな④』


「きみの書くひらがなってなんか、エモいよね。」


エモい?

響きだけ聞くと少し興奮してくるが、エモいのニュアンスだけで判断してはいけない。
ちゃんとした意味を調べるため、検索窓に「エモい」を入れた。
夕焼けの画像の下に、「英語の『emotional』を由来とした、『感情が動かされた状態』、『感情が高まって強く訴えかける心の動き』などを意味する」とあった。

恐らく褒められているのだろう。
ただ、僕の字はお世辞にも褒められるほど綺麗ではない。
殴り書きすぎて「あ」も「わ」も「め」も「れ」も全部同じに見える。
「われめ」と書いても「あわれ」に見える。
ぼくは、われめだ。

では、ディスられているのだろうか。
汚すぎて、怒りの感情に突き動かされたのだろうか。
大学生とは思えない字体に驚きの感情が揺さぶられたのだろうか。
それとも、実は彼女はペン習字サークルの一員で、格好の勧誘ターゲットが見つかり、喜びの感情がふつと沸いて出たのだろうか。

エモいという表現の中には昔を懐かしむ感情も含まれている気もする。
別れた彼氏のことでも思い出したのだろうか。
最後の彼からの手紙には、「こわまでめりがとう」と。
涙で濡れたひらがなを優しく抱きしめる彼女。
その思い出は、今も胸のどこかに大切に閉まっているに違いない。
彼の誕生日であるパスコードの鍵をかけて。

「こいつ、おれのこと好きなんかな」

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