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【ショートショート】先生、久しぶり!
ハヤオ「この3人かな?」
ヒメコ「そうみたい」
サトシ「よろしくお願いします」
ハヤオ「ほら、あの門のそばにピカイッチー先生がいるぞ。卒業式が終わって生徒を送り出すところみたいだ」
ヒメコ「……行ってみる?」
サトシ「ちょっと待ってください、遠隔で先生に暗示をかけます」
ハヤオ「そっか! 忘れてた」
サトシ「…………よし、これで先生が僕たちを見ても変に思わないでしょう」
ヒメコ「1番年下なのにしっかり者なんだね」
サトシ「えへへ」
ハヤオ「よし、行こう」
先生「教師生活38年、君たちが僕の最後の卒業生だ。みんな本当にありがとう。そして、この学校の後輩たちがうらやむような素晴らしい中学生になってくれ」
生徒たち「ピカイッチー先生、今までありがとうございました。これからも先生のこと、ずっと、ずうっっっっっと忘れません」
ハヤオ「先生、今でもピカイッチー先生って呼ばれてるんですね」
先生「お? 誰かと思えばハヤオじゃないか」
ハヤオ「先生、お久しぶりです。先生が定年を迎えるって聞いたので会いに来たんです」
先生「ツルピカ頭の市川だから、他にあだ名の付けようがないんだろうな……いやあ、それにしても嬉しいねえ。みんな、先生の教え子が会いに来てくれたぞ。なあハヤオ、まだサッカー続けてるのか?」
ハヤオ「あ、はい、まあ……」
先生「そうかそうか。上手いんだから、その調子で頑張るんだぞ。そして、君はヒメコか?」
ヒメコ「はい、ご無沙汰してます」
女子生徒「この人、かわいい! 芸能人みたい! 先生の教え子にこんな綺麗な人がいたなんて」
先生「ヒメコはクラスのアイドルだったんだ。こう見えても君たちと同い歳……ん? いや、ほとんど歳は変わらんぞ」
生徒たち「うそー! 信じられない!」
サトシ「先生、お元気そうでなによりです」
先生「おお、君はサトシか。相変わらず賢そうだなあ」
サトシ「えへへ」
先生「今までの教え子も来てくれたし、こんな風に立派に卒業してゆく君たちみんなに囲まれて、先生は本当に幸せ者だよ」
男子生徒「やだなあ先生、泣くなよ。もらい泣きしちゃうだろ」
女子生徒「私もだよー」
先生「くっ…………よしよし、みんなありがとう。さあ、ここから君たちの未来が拓けていくんだ。みんな、元気でな!」
生徒たち「先生もね! ピカイッチー先生、万歳! 6年1組、万歳! さようなら!」
先生「気をつけてなー! ……みんな行ったな」
サトシ「先生は昔と変わらず慕われてるんですね」
ハヤオ「俺の卒業式のときを思い出したよ」
ヒメコ「ふふ、もらい泣き?」
先生「君たちも、わざわざ足を運んでくれてありがとうな」
サトシ「いえいえ…………ん? なんだかすごい騒音が近づいて来ますよ」
先生「本当だ……おいおい、何なんだこの音は。ちょっと行ってくる!」
生徒たち「キャー! 車が暴走してる!」
先生「みんな逃げろ! どけ、早く!!(ドン)」
生徒たち「!! 先生っ……!!」
ハヤオ「……こういうことだったのか」
サトシ「呼ばれた理由が分かりましたね」
ハヤオ「ピカイッチー先生らしいな……俺が中学のとき、サッカーの練習試合でヘディングしようとしたら、相手の頭と思いっきりぶつかって倒れたんだよ。気を失ってさ……。その運動公園は先生が日課にしてたマラソンのコースだったんだよな。俺のことに気づいて見ててくれててさ……倒れたあとに救急車を呼んで一緒に乗ってくれたんだよな。うっすら聞こえてたけどさ、病院に着く頃にはもうダメになってたよ」
サトシ「そうだったんですね……。僕は持病で長いこと小児病棟に入院してたんですが、ピカイッチー先生だけは、担任が変わってからも、月に1回は必ずお見舞いに来てくれましたよ」
ヒメコ「私も先生みたいに思いがけない事故だった……。男の人のことを嫌に感じ始めた頃だったから、先生にも反抗的になってて、やりにくい生徒だと思われてたんじゃないかと思ってたから、私のお葬式で泣いてる先生を見たときに、きっと親の手前だから大げさに振る舞ってるだけなんだろうなって疑ってた……でもピカイッチー先生、こんなにも教え子たちのことを愛していたんだね……うっ、うっ」
ハヤオ「まあまあ、泣くなよ、ヒメコちゃん。これから俺たちが先生にいろいろ教えて恩返ししていこうぜ。俺もまずはあのときの礼を言わないとな」
ヒメコ「ぐすっ……うん」
サトシ「あ、救急車が来ましたね。さあ、もう時間がないですよ。早く川の対岸で待ってないと、先生が迷ってしまうかもしれません」
ヒメコ「そうだよね。先生、おっちょこちょいのところがあるもんね」
ハヤオ「よし、先回りしよう!」
サトシ「はい!」
(了)
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