山本てら
四季折々
ショートショートは2000字前後まで、短編小説はそれより長めの読み切りです。
古典文学のお気に入りの部分を、現代を舞台に小説にしてみました。
さまざまな言の葉の綾
夢もうつつも一緒くた
いかづちにきほひし蝉の末路かな
星燦々夢見ごこちの夜濯や
うらぶれて雨によこたふ紫陽花や 雨音にかきけされゆく暑さかな
傾国のあふぎにくゆる紫煙かな
夏草とただ夏草の風の音
梅雨の間のふいの日差しに傘とぢて 罪深き雲を抱き込む夕焼や 梅雨冷にうれひ重ねし楽の音や
短夜の星は涙にとけて消え
月なき夜恋のほてりをいかにせむ
逆光の薔薇の庭にぬかづきて 石楠花やうれひの数を咲き誇り 鐘の音になほ光ある紫陽花や
はろばろと峰のみどりの鶯や 金糸梅あしたの蕾いま笑みて 蚕豆の夢にも出づる蜜月や
はかなさを糧にまばゆき夏の月 夏の夜の月にくまなき心かな *夏の夜の月と書いてから、芭蕉の「蛸壺やはかなき夢を夏の月」は昼間の月なのではないかとの疑念が生じた。明石、須磨を訪ね、源平ゆかりの地を見、壇ノ浦での二位の尼君たちの入水へと思いは及び、海の底に沈んだ数々の調度品が、漁師が準備中の蛸壺に重なる……これら全ては日のあるうちに起こったことだろう。短夜の月よりも、青空に消えかかる月の方がよりはかなげに感じられる。
泡盛草あの蜂蜜のにほひかな 眠りても光ひめたる若葉かな そこかしこいのちの声や風薫る
宝相華極彩色の五月雲 蚊につられ丑三つ時の語らひや 八ツ橋をならべて虹の帰り道
雨音や薔薇の庭をいろどりて 物語に飽きて卯の花腐しかな 古都に舞ふあの子を照らす緑雨かな
細胞の底ふつふつと若葉風 ささやきて若葉の風の甘きこと 俤は雨にけぶりし若葉かな
栗の花つり糸ゆらす風の中 半袖の群れを見送る茉莉花や 菖蒲湯につどひて夢を語るかな