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短編小説

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田丸雅智さんの講座本を参考に、ショートショートに挑戦しています。できれば毎日、週に3回は更新したいです。 興味がある分野:アート、社会問題、経済、コミュニケーション
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記事一覧

ショートショート「君に贈るランキング」

ショートショート「君に贈るランキング」

「17時に、体育館の裏で待ってます」
そんな手紙を彼の靴箱に入れてきた。

時計の針は16:50を指している。あぁ、あと10分もすれば彼がやってくる。心臓が口から出そうだ。

彼が来るまでの10分間にやりたいことランキング。

第10位 鏡チェック
顔に変なものついてないかしら

第9位 リップを塗る
緊張で唇がカサカサよ

第8位 周辺のチェック
人に見られたらお終いよ

第7位 お茶を飲む

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ショートショート「1分しまうま」

ショートショート「1分しまうま」

一匹のハイエナが、湖でフラミンゴの群れを見つめていた。美味しそうだな、ではなく、美しいな、と思いながら眺めていた。

ハイエナはふと、湖に映る自分の姿を見た。真っ黒な鼻と頬の、なんとも恐ろしげな顔。鈍い茶色と黒のブチ柄。

どうして僕はこんな姿なのだろう。

美しいものが好きなハイエナは、長い間獲物を狩らず、痩せこけていた。

ある時、怪我をしたシマウマが草むらの中で横たわっていた。ハイエナが近づ

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『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!5/22 【毎週ショートショートnote】

『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!5/22 【毎週ショートショートnote】

こちらは毎週ショートショートのゆる募をしている企画の記事でございます。はじめましての方は是非こちらからお読みいただけると幸いです。

というわけで【ショートショートnote】というカードゲームを使ってお題を決定し、有志でショートショートを書いている企画でございます。

さて、いつもの続きを。

先週の「結婚式ゾンビ」の投稿ありがとうございました!いやー、投稿数が多かったですね!さすが人気ワード【ゾ

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ショートショート「プロのバナナ」

ショートショート「プロのバナナ」

「今日こそ、結論を出そうじゃないか」
「懲りねえやつだな。俺の方が上手いに決まっている」

とある山の狐と狸は、どちらが上手に化けられるかいつも競っていた。熊に化け、兎やリスを怖がらせたり、大岩に化け、山道を塞いだり、いたずらばかりしていた。

「どっちが上手いか、山の主に決めてもらおう」
「勝った方が、化かしのプロだ。負けた方はアマチュアだ」

山には年老いた猿がおり、山の主と呼ばれていた。困っ

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ショートショート「みんなで動かない」

ショートショート「みんなで動かない」

「もうちょっとそっち行ってよ」
「むりだよ、こっちも詰まってる」
「そっちは?はしっこ空いてるんじゃ無い?」
「パンパンだよ」

真っ暗な部屋がゆらゆらと揺れる。
いい匂いが充満している。

「あんまり動くなよ、せっかくお母さんが綺麗に並べてくれたんだから」

ぼくらの階下から声がきこえた。

「あいつ、えらそう」
「自分が主役だと思ってんだよ」
「うそだろ、一番の引き立て役じゃん」
「喧嘩するな

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短編小説「虫刺され」

短編小説「虫刺され」

「たぶん昨日、刺されたんです」
口の横にできた、赤い虫刺されの痕を指差してエミリーは言った。

「最初は痒く無かったんですが、だんだん口がムズムズしてきちゃって」
ふむふむと、医者はカルテに書き込みながらうなずく。

「気づいたら、言っちゃったんです。『お客さま、それは似合いません』って」
エミリーは目を見開いて、前のめりになって医者に訴えた。医者は、ははあと言った。

「こりゃあ正直虫ですね」

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短編小説「となりのパイロット(3)」

短編小説「となりのパイロット(3)」

前回はこちら

*****

ロボさんは、他愛もない会話をしても「そうなんですね」としか言わない。アドバイスも無いし、感想も言わない。最初はつまんないな、と思ったけど、だんだん、そのジャッジされない聞き方が心地よくなってきた。

わたしはギターを弾くのが好きだけど、これまで人前で弾いたことがない。家族にだって聞かせていない。だけど、その日はなんだかできる気がした。

「ロボさん、ちょっといい?」

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短編小説「となりのパイロット(2)」

短編小説「となりのパイロット(2)」

前回はこちら

*****

私が赤木さん家のロボットのパイロットになって早ひと月。

赤木さんは4人家族。ご両親は仕事で忙しく、高校生の息子さんは部活で毎日遅くまで頑張っています。中学生の娘さんは、昼間こっそり帰宅して、部屋から出てこない日もあります。

私はそんな家族に代わり、ロボットとして日夜、家事のアレコレをしています。このお宅では「ロボさん」と呼ばれて頼りにされているのです。

ロボット

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短編小説「となりのパイロット(1)」

短編小説「となりのパイロット(1)」

ここはロボット会社です。

家庭用ロボットを作っています。近年、各家庭に1台はロボットがいて、家事をしたり、子供や老人の見守り役として家にいます。

人型をしていて、重たい荷物を運ぶとか、おじいちゃんをお風呂に入れるとか、子供の宿題をみるとか、大方のことはできます。会話もできるので、家族に頼むように話しかければ動いてくれます。

弊社のロボットはリーズナブルな価格帯なので、一般家庭に人気です。難し

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短編小説「記念日銀行」

短編小説「記念日銀行」

ここは「記念日銀行」。
ただの銀行ではない。預けるのは「記念日」だ。記念日を預けることを「預日」と呼ぶ。預日すると、預けた記念日は普通の日になり、あとで記念日として引き出すことができる。

誰でも預けられるわけではない。ごくごく一部の幸運な人間だけ。
ある街の、ある路地の占い師の元で、ある占い結果が出た者だけが、この銀行にたどり着く。

預日をすると、記念日を共有する全員の記憶から、記念日が消され

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短編小説「匂いのする彫刻」

短編小説「匂いのする彫刻」

ある街に天才彫刻師がいた。彼が彫る作品は匂いがするのだ。
ばななを彫れば、ばななの匂い。鹿を彫れば、鹿の匂い。
彫った彫刻が実物に近いほど、その匂いは強くなる。

写真を見せて彫刻をお願いすれば、そっくりに彫ってくれ、なつかしい匂いも蘇る。思い出の匂いを残しておきたい人々が、連日写真を手に彼の元へ訪れた。

とある富豪は、南国で食べた名も知らない果実を。
とある女性は、愛する人からもらったバラを。

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短編小説「課金の空」

短編小説「課金の空」

チャイムが鳴った。国語の時間が終わり、ぼくらは「健康服」に着替えて「空の下」に出る準備をする。

西暦2122年。約200年前から、土地も水も、いろんなものを手に入れるためにお金が必要な時代が始まった。結果、今では「空の下」に出るためにもお金が必要だ。

「空の下」には資源が多い。日光、雨、風。動物たちが生き、植物が育つのに欠かせないもの。そんな「空の下」がお金にならないはずがない。

ぼくらは普

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短編小説「おしゃべりな掃除機(後編)」

短編小説「おしゃべりな掃除機(後編)」

前編はこちらです。

*****

「ねえ、もっと話してちょうだいよ。今日何があったの?」
「ええっと、今日は午前中、部屋の掃除をしていたら掃除機が壊れちゃって…」
A子が切りの良いところまで話すと、掃除機は良いタイミングで言葉を吸い込む。そして興味深そうに相槌をうつ。

A子はだんだん、話をするのが楽しくなってきた。そうだ、普段の会話といえば、職場での当たり障りない話か、コンビニやスーパーの店員

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短編小説「おしゃべりな掃除機 (前編)」

短編小説「おしゃべりな掃除機 (前編)」

A子は都会で働く女性。毎日、朝から晩まで、決して高くはない給料で頑張って働いている。都会にでてきて三年目。一人暮らしにも慣れてきたが、仕事が忙しくて友人も恋人もできず、ちょっぴりさみしい気持ちで暮らしていた。

ある日の日曜日。1Kの部屋を掃除していると、掃除機がうんともすんとも言わなくなった。最新型の掃除機を買うからあげるわよ、なんて実家の母からもらってきた古いタイプの掃除機。大きなため息をつき

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