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短編小説「課金の空」

チャイムが鳴った。国語の時間が終わり、ぼくらは「健康服」に着替えて「空の下」に出る準備をする。

西暦2122年。約200年前から、土地も水も、いろんなものを手に入れるためにお金が必要な時代が始まった。結果、今では「空の下」に出るためにもお金が必要だ。

「空の下」には資源が多い。日光、雨、風。動物たちが生き、植物が育つのに欠かせないもの。そんな「空の下」がお金にならないはずがない。

ぼくらは普段、地下シェルターで生活している。「空」はみんなにとって必要だから、そんなに値段が高いわけではない。せいぜい、30分 500円くらいだ。頑張ればお小遣いで月に数回「空の下」に出られる。その分、他のものを我慢しなくちゃいけないけど、漫画やお菓子なんかより、空の方がいい。

それに、学校では「空の時間」があるので、子どもたちは毎日30分間、空の下に出ることができる。効率よく日光を受け止め、雨や風を感じるために「健康服」に着替えるんだ。

晴れの日もいいけど、雨の日はもっとテンションが上がる。大きくうねる重たい雨雲、水分を多く含んだ空気。ザーッと雨が始まると、みんなキャーッと大騒ぎする。

運がいいと「雷」も見られる!雷、みんなの憧れ。さらに運がいいと「虹」を見られるらしい。ぼくはまだ、「虹」を見たことがない。昔は「雪」というのがあったらしいけど、ぼくの住む国では降らなくなってしまった。

天気予報は大人気だ。「明日の三時間目、空の時間の天気はどう?」とか、「デートはぜったい台風の日!」とか、毎日みんなスマホの天気予報を見ている。

大雨や台風の日は、【空会社】はめちゃくちゃ儲かるらしい。ぼくも将来は空会社に就職して、空を管理したいな。

ある日、クラスメイトのうえの君が学校に来なくなった。どうやら、お父さんが「無断空出」を繰り返して捕まったらしい。空の下に出ることを「空出」というのだけど、その時間は衛星によって空から監視されている。だけど、裏の社会ではその監視をくぐり抜ける術を持っている人もいて、うえの君のお父さんは無課金で空出する「無断空出」を繰り返していたそうだ。

うえの君のお父さんは、空の写真家だった。貴重な空の写真を撮影した写真集は大人気だった。「空をとりもどしたい」と添えられた言葉と、圧倒的な空の写真は人々を虜にした。なのに、あの作品は「無断空出」で作られていたなんて…

怒った人々は、うえの君のお父さんをたくさん攻撃した。「空を盗んだのはおまえじゃないか!」「本当に空を愛しているのか!」と許さなかった。ぼくは、同じように怒りたくなったんだけど、でも、うえの君のお父さんが空を大好きだったことは、写真を見る限り本当だとも思う。

整列して、大型エレベーターに乗った。健康服のぼくらは空の下に向かって昇っていく。ぼくらは幸せだ。毎日、こうやって空の下に無料で出入りできる。空を管理してくれる国と企業のおかげだね。

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