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短編小説「となりのパイロット(1)」

ここはロボット会社です。

家庭用ロボットを作っています。近年、各家庭に1台はロボットがいて、家事をしたり、子供や老人の見守り役として家にいます。

人型をしていて、重たい荷物を運ぶとか、おじいちゃんをお風呂に入れるとか、子供の宿題をみるとか、大方のことはできます。会話もできるので、家族に頼むように話しかければ動いてくれます。

弊社のロボットはリーズナブルな価格帯なので、一般家庭に人気です。難しい専門的な会話はできませんが、日常会話や生活には困りません。ちょうど良い!と大評判でした。

ところが、今年に入ってピンチがやってきました。オリジナルのAIチップに必要な半導体が、世界情勢により入手困難になったのです。ただでさえ予約必須だったのに、納期がきても一向に納品ができない。とうとう痺れをきらしたお客さんのキャンセルがちらほら始まったのです。

困り果てた社長は、とんでもない判断を下しました。「ロボットを遠隔操作しよう」と決めたのです。

「なあに、半導体がまた手に入るまでの間さ。手に入れば、リコールの形で回収してチップを埋め込めばいい。」

そんなこんなで、秘密裏に「バイト」の募集がかけられました。役職は「ロボットのパイロット」。表立って募集はされません。ハローワークで、この人こそ、という人に声がかけられます。

各家庭のロボットの、目や耳や表皮から受信する情報を社内で得ながら、適切な反応や会話、動作をするのがパイロットの仕事です。

条件は「主婦(夫)歴20年以上」。そうです、これまで家庭のことをたくさん担ってきた人が、パイロットに最適なのです。そして「家族に内緒で最低2ヶ月泊まり込みの勤務ができること」。

そして、私はバイト歴ひと月のパイロット、静江(53)です。操縦するロボットは、宮田町3丁目の赤木さん宅のロボット。

コールセンターの様なオフィスに、ずらりと小さな透明の個室が並び、中には高級マッサージチェアの様なパイロット席があります。ヘッドセットとパイロットスーツを着用し、ロボットからの情報を全身で受け取ります。

パイロットは下は40代から、上は80代のスーパーシニア・パイロットまでいます。普段は、足腰が弱り階段も登るのが辛いとか、老眼で全然目が見えないとか、身体の不調に悩まされていますが、パイロットになればロボットの、超人の肉体を手にする事ができるのです。

(つづく)

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