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『潜水艦クルスクの生存者たち』見た直後の雑記

kino cinéma 立川髙島屋S.C.館でトマス・ヴィンターベア監督作品『潜水艦クルスクの生存者たち』を見てきました。

トマス・ヴィンターベア監督といえば『偽りなき者』、『光の方へ』、そしてアカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『アナザーラウンド』のデンマークの監督で、名匠が多いデンマークでビレ・アウグスト、ラース・フォン・トリアー、スザンネ・ビアに並ぶ名匠中の名匠。
そのトマス・ヴィンターベア監督の『アナザーラウンド』の前に作られたのが、2000年に起きたロシアの原子力潜水艦クルスクの沈没事故を取り上げた『潜水艦クルスクの生存者たち』。

原題はストレートに「Kursk」と潜水艦の名前で、邦題にもこの潜水艦の名前があるぐらいだから500%潜水艦映画、かと思いきや『Uボート』や『ハンターキラー 潜航せよ』とはちょっと違う。確かに映画の大半はロシアの原子力潜水艦クルスクを舞台としてはいるが、潜水艦で起こった海難事故がメインなので、潜水艦映画でありながら海難事故映画である。
なので、『ハンターキラー』というよりは『ポセイドン・アドベンチャー』や『タイタニック』、あと『海猿』の2作目や3作目と性質的には類となる。この手の海難事故の映画と比べてみても『クルスク』は軍部やロシア政府も絡む視点は社会派映画であり、さらにまた潜水艦の乗組員の妻・子どもから見たヒューマンドラマ映画にもなっており、潜水艦クルスクの沈没事故を縦の系列(軍部・政府)、横の系列(家族)、さらにはイギリス等他国とも連携を取るので、あらゆる方向から多角的に描いている。

この中で、潜水艦の第7区画の司令官(司令官というよりは班長っぽい)のミハイルの目線が中心となり、潜水艦内の惨劇と必死のサバイバルとなるんだけど、この事故が起こる前の潜水艦の仲間たちの牧歌的な雰囲気が良い。しかも冒頭は仲間の結婚式のシーンなので、その流れをくんだ雰囲気の良さから急転直下の惨事。この切り替えが凄い。
その上、惨事で水が漏れまくって、ぐちゃぐちゃの船内でとあるムードメーカーのおいしい見せ所がある。ああいう場面でのユーモアがキラリと光る。

で、
ストーリーの要所でロシア政府による対応、指示、対処があるが、そこにこの映画の本質とロシアという国の体質が色濃く出ている。そのベースにあるのはロシアという国のトップが持っているプライドと高慢、その割には管理の杜撰さ。結局、振り回されるのは国民というね。
この点では先に見たアンドレイ・コンチャロフスキー監督作品『親愛なる同志たちへ』の惨劇にも通じるし、それこそ現在のウクライナ情勢にも通じる。
その『親愛なる同志たちへ』と比べると、当事者、軍部、国、家族、他国の描写のバランスに優れている。

また、ヨーロッパ映画で派手なアクションが多いヨーロッパ・コープで、練り込んだヒューマンドラマの脚本を得意とするデンマークの監督を起用したのも珍しかったが、デンマーク映画の重いヒューマンドラマと、船内の爆発や浸水などの派手な描写にヨーロッパ・コープらしさがあり、ヨーロッパ・コープ側に過度な期待をしなければ、派手なデンマーク風の映画である。(フランス・ベルギー・ルクセンブルクの製作になる)

4年遅れの公開だが、やはりラース・フォン・トリアー、スザンネ・ビアに並ぶデンマークの名匠トマス・ヴィンターベア監督の作品。やや軽く感じた『アナザーラウンド』よりもずっしりとした重さは確かである!

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