ときめくコケ図鑑
以前よりほんの少しだけ識別できる植物が増えると、文字通り見える世界が変わる 。あれとこれが、どうして今まで同じに見えていたのかと、驚くばかり。そうなると後戻りはできない。前と同じ様に見えることは2度とない。そして1つ分かると、更に分からないものが目に止まり、キリがない。僕は根気がないから、とことんまではいかないけど、それでも今ほどには知らなかった頃に対して、郷愁の念を感じさえする。これは決して大袈裟ではない。もはやその頃の事は、想像するのも難しいのだ。
木、草、花となんでもそうであるが、コケ はまた格別である。コケなど昔はワサっとしたのとベタっとしたのの2種類くらいに思っていた。これは今考えれば、蘚類と苔類の特徴の違いで、ざっくりとは間違いではないが、知ってみると、コケは実に多様なのである。この2つの特徴に収まらないものも沢山ある。全く驚いた。
きっかけは妻と一緒に行った奥鬼怒で、多彩で美しいコケが溢れているのを目にした事だった。たまたま時期やタイミングが良かったのだろう。2人ともコケがある度に釘付けになり、写真を撮った。
帰って来てから、さっそく本屋に行き、買ったのがこの本「ときめくコケ図鑑」(山と渓谷社)です。
"糞土師"としても知られる写真家・伊沢正名さんの美しい写真。コケの良さを皆に知ってもらいたいという気持ちが伝わる田中美穂 さんの簡潔な文。なんともいい。この本 で、実に多くのことを学んだ。コケの胞子を飛ばす蒴もまた多様な事、ニョキッと伸びたりペタッとくっ着いたりする苔類の雌器托と雄器托の存在、乾いた時と湿った時で大きく様相を変えるコケ達、コケ好きのアイテム・小型ルーペと乾いたコケを湿らせる為の霧吹き についてなどです。(小型ルーペはすっかりスマホ用接写レンズ がその代わりとなり、霧吹きを持ち歩く事は、僕ら夫婦はほとんどしないけれど)
コケの識別が難しい事もあって、その後何冊も本を買った。藤井久子 著・秋山弘之監修の「コケはともだち」(Little More Books)というユーモラス なものや、この本と同じ田中美穂・伊沢正名コンビの「苔とあるく」(WAVE出版)、苔庭に焦点を絞った「苔三昧」(大石善隆 著、岩波書店)、182種のコケを紹介した「知りたい 会いたい 特徴がよくわかる コケ図鑑」(藤井久子著・秋山弘之監修、家の光協会)など名著は多い。コケの聖地である 屋久島の白谷雲水峡、北八ヶ岳の白駒池などに行くと、そこの特徴的なコケをまとめた図鑑も買ってしまい、いつしか家のコケの本は9冊になっていました。しかしそれでも、最初に買ったこの本の良さは、決して色褪せない。
京都の苔寺をはじめ、有名な苔庭にも行きました。大自然の中のコケ、庭としてのコケ、1つとして同じものはないその景観を目にする度に、コケ熱は再燃するのだが、それで帰ってくると、いや都会のコケはこれはこれでいい!と再認識する。なんともはや。今は無理だが、いずれまた出かけるとしよう。
昨年5月にブックカバーチャレンジがはやった時に、ただ本のカバーを紹介すれば良かったのを知らずにinstagram(philosophysflattail)に書いた記事その③でした。
私が撮ったコケの写真↓
1枚目は、スマホ用接写レンズを使って撮りました。
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