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「世界史の構造」とアフリカ文化

世界史の構造」の著者・柄谷行人が書いた本を若い頃から読んで来ました。ほとんど全て読んでいると思います。文芸評論 から始まり、哲学、社会問題 など、縦横無尽じゅうおうむじんに進んできた人だけれど、多くは決して読みやすくはない。難解と云っていいだろうと思います。なのに何故そんなに読み続けてきたかというと、何か言葉を受け取ったという感じがしたからだと思います。
若い頃、言葉で表現し難いものが僕の内にあって、それを言語化しようとする事を、半ばあきらめていたように思います。その事に苛立っていたからなのか、とても短気でもあった。そんな僕にとって、柄谷氏の独特な言葉は新鮮でした。こんな表現もあるのかと驚き、諦めずに言葉で表現しようとする姿勢を学んだ。
そんな柄谷氏の本は、およそ体系的とは云えなかった。ところが近年になり、急に体系的になり、その集大成ともいえるこの本「世界史の構造」(岩波書店)が出た時には、本当に驚いてしまった。 そのような事は想像もしていなかった。そして世界中の文化と文明と歴史を鳥瞰ちょうかんして体系化する事を可能にした、彼の膨大ぼうだいな知識と大胆だいたんな論理に驚くとともに、やるせない違和感を感じました。アフリカの諸文化しょぶんかと歴史が、考察からほとんど抜け落ちていると思えたからです。若干じゃっかんの記載があるにはあるのですが、全く不十分だし、現在まで結びつくものとしてはとらえられていないと思いました。
これは悲しかった。私はアフリカのポピュラー音楽(Thomas Mapfumoなど)(映像1)*の多くを好み、へっぽこなりに西アフリカの伝統太鼓(ジェンベ)(映像2)(映像3)*とダンス(映像4)*を続け、ケニアで東アフリカの伝統芸能(Ngoma)(映像5)(映像6)*にも接して来たからです。この本が優れていると思えばこそ残念で仕方がなく、それからずっと、この本に書かれている視点で見ると、アフリカの多様な文化と歴史は、どのように考えられるのだろうかという疑問が、頭の片隅かたすみよどんでいます。特に広範囲にある、太鼓のフレーズが言葉を表すという文化(母語を書き記す文字は持たない)は、どう位置付けられるのか?それは文字を持たないが、文字と匹敵ひってきする拡がりと派生はせいを持った文明と考えるべきなのだろうか?といった疑問を持つようになりました。(より詳しくアフリカの諸文化を知っている人からしたら、的外まとはずれな疑問かもしれないが。)
アフリカについて、ほとんど書かれていない本なのだけけど、アフリカの諸文化や歴史に接し、関心を持っている人にこそ読んで欲しいと、勝手ながら思っています。そして、ここに書かれている知見を、その点でおぎなう人が現れてこそはじめて、この本が 真に意味あるものになるのではないかと感じています。(私の父と同い年で、80才の柄谷氏に、これ以上を求めるのはこくというものだろう。)
私の太鼓(ジェンベ)の師アブドゥライ・ジャキテ(Abdoulaye Diakité)先生(映像7)*は「書くと失われる」と言っていました。そういう考えの文化を、書物をもとに考察するというのは、矛盾むじゅんしているのかもしれないと思いつつも。
P.S. 「霊と反復」柄谷行人(群像 第76巻 第10号 2021.10.1発行 所収)を読みました。柄谷氏はこの中で自分の書いてきた事を振り返り、それがどのように「世界史の構造」へ至ったかを述べています。そしてその時はもう書くことがないと思ったが、ほどなく物足りなくなり書き続けてきた事。そしてこれからも先に進んでいくという姿勢を示しています。何とも恐るべしです。2021.11.20

*文章中の(映像)はどれも真正のアフリカンの太鼓・ダンス・音楽です。参考になさって下さい。映像を上げて下さった方々に感謝です。

映像1 Thomas Mapfumo - Moyo Wangu (1994)


映像2 Grand Master Djembe Player! Sega Cisse

映像3 N`gri (Wassolonke) Djembefola Seydou Balou

映像4 Soungalo Coulibaly Live (Part 3)

映像5 マブンブンブ-レクチャーMabumbumbu-Kiganga-Ngoma-secret


映像6 Master Mzee Aziz's (Kapapa) 4 Drums Demonstration !!


映像7 Abdoulaye Diakite playing Dununba.WMV


昨年5月にブックカバーチャレンジがはやった時に、ただ本のカバーを紹介すれば良かったのを知らずにinstagram(philosophysflattail)に書いた記事その⑥でした。

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