AIと人間の “違い” と “共存”
column vol.893
昨日はフードテックについてのお話をさせていただきましたが
テクノロジーの進歩は私たちの「仕事」についても大きく影響を及ぼそうとしています。
その代表選手が「AI」でしょう。
最近は「AIが人間の仕事を奪う…!」という悲観論よりも「人間とAIは役割(強み)が違うからね〜」という共存論の語気が強まっているように感じます。
とはいえ、…どんな風に共存していくことが望ましいのでしょうか?
当社はマーケティング&クリエイティブ会社ですが、クリエイターの世界でも最近はAIの活用が進んでいます。
そんな中、AIとの協業のイメージをとても分かりやすく語っていらっしゃる方がいらっしゃいます。
小説家のRootportさんです。
AIと協業して生み出したマンガ『サイバーパンク桃太郎』がTwitterで大いにバスりました。
〈現代ビジネス / 2023年1月4日〉
AIのクリエーションはプロレベルに
同作はストーリーなどマンガ全体の構成はRootportさんが考え、イラストを画像生成AIソフトが生み出しています。
Twitterで昨年の8~9月にかけて約6週間かけて発表し、12月末の時点で7.7万いいねを獲得しています。
内容は桃太郎という日本人なら誰でも知っているストーリーを、近未来を舞台にしたSFサスペンスアクションとして再構築しているので、読者にとって親しみやすい話だったということもあります。
ただ、やはり画像生成AIソフトで信じられないほどクオリティ高く作品をつくり上げていることにも非常に驚かされます。
このクオリティを実現させているのが、昨年7月にローンチした「Midjourney」という画像生成AIアプリ。
これまでも画像生成AIアプリはありましたが、Midjourneyが誕生した時、「これならプロの世界で通用する」と確信したそうです。
ちなみに同アプリを使ってつくったRootportさんの自画像がこちら。
素晴らしいクオリティですね〜
ちなみに、
といったようなキーワードを入れると、あっという間に以下の4枚のイラストがアップされるとのこと。
…おおお…、信じられません…
私は小学生の頃、マンガ家を目指しつつも、圧倒的に低い画力に夢破れたので、今の時代に生まれていたら…と興奮しますね。
「ディレクション」能力がカギ
そして、このキーワードから導かれたイラストに対して、Rootportさんはこのように語っております。
そして、「CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)」と呼ばれるマンガ制作ソフトを使い、予めつくっておいたコマ割りしたネームに、イラストをはめていく。
恐らく時が進めば、指示をするだけでAIがマンガ作品を完成させる時代になっていくでしょう。
その上で、Rootportさんは人間の役割を「AIに上手く指示を投げる能力」や「上がってきたものをセレクトする能力」、そして「出てきたものを上手く使うアレンジ力」が重要だと結論づけています。
この結論をふまえて思ったのが、「ディレクション能力(ディレクターとしての能力)」の向上です。
例えば、広告制作の現場では、クリエイティブディレクターやアートディレクターが中心となり、コピーライターやデザイナー、フォトグラファー、イラストレーターなどのスペシャリストを束ねて、クリエイティブ作品を生み出していきます。
広告代理店や広告制作会社に入社すると、まずはコピーライターやデザイナーなどスペシャリストから始めるのですが、いずれはディレクターになっていく。
方向性を決め、スペシャリストに指示を出し、出てきたものを判断・セレクトし、全体を構成していく役割をいつか担うために皆、努力しています。
そう考えると、スペシャリストがAIに代わるイメージということで捉えると分かりやすいですね。
映画なら監督、音楽なら指揮者というポジション。
Rootportさんは今後、マンガの世界ではストーリーもAIが行ってくれるようになると予想しています。
そうなると、技術的なことはAIに任せて、より「何をつくるか」を突き詰めていくということが大事なのかもしれませんね。
AIと人間の違い、それは「心」
では、「何をつくるか」ということを考える上で大切なこととは何なのか?
もしかしたら…AIが “つくるもの” まで決めてしまう可能性もあると思います…
山口大学国際総合科学部教授で、哲学者の小川仁志さんは人間の得意なものは「想像力」、AIの得意なものは「情報処理」としながらも
と仰っています。
〈東洋経済オンライン / 2023年1月10日〉
それに、マンガの世界のようにAIが心を持つ可能性もある。
しかし、小川さんはその心とは
と、問いを立ててくださっています。
そもそも私たち人間は、脳(物質)と心の繋がりに対して2つの考えを持っています。
1つは、世界は心も含めすべて物理的な存在だけで構成されているという「一元論」という考え方。
そしてもう1つは、心は物質とは異なる非物理的な存在であって、世界は非物理的な存在と物理的な存在の2種類で構成されている「二元論」という考え方。
科学的に考えると一元論的な結論になりそうですが、二元論が信じられるほど、人間の心は単純ではないということです。
小川さんは、物質からAIの心を生み出せたとしても、そもそもの物質が人間とは違うわけで、人間の心と同じであると厳密的には証明できないはずと指摘しています。
なるほど…、確かにそうだと思います。
結局のところ、仕事の報酬が誰か(人間)を喜ばせることの対価であるというビジネスの原理原則に立ちかえるならば、人の心を知り、期待に応えられなければ稼ぎを上げることはできないでしょう。
近年、「哲学の時代」と言われていますが、AIとの違いは「人間の心の追究」と捉えると時代の声が帰結しますね。
「最適解」ではないところにも答えがある
いずれにせよ、今のところAIが導き出す答えは、どうやら膨大なデータから割り出した最適解だと言えそうですが、人間や社会は最適解だけを求めているわけではありません。
最近は、偶然の出会いやひらめきを意味する「セレンディピティー」に注目が集まっていますが、アルゴリズムなどでは見つからないような予期せぬ刺激的な出会いを求めるのも人間なのではないでしょうか?
ちなみに、セレンディピティーの反対語に「ジャパニティ」という言葉があります。
…「ジャパ」と聞くと嫌な予感がしますね…
そうです、この言葉は「誰もがやっていることを追いかけて、必然のところで 発見する能力」と定義されており、日本人研究者を揶揄した言葉とされています…(汗)
揶揄については一旦置いておいて…、意味するところに目を向けるとAIっぽいと感じるのは私だけでしょうか…
誰もがまだ目を向けていない社会課題や、自分の中に潜んでいる自らも知らない自身の心に目を向ける。
そして、そんな未開拓な領域に出会うための意識や行動が大切なのではないでしょうか。
まるで冒険するように日常を過ごす。
マーケターの世界でも「まだ顕在化していない課題」に目を向けることの大切さが説かれています。
ちなみに、小川さんは哲学とは
という4つのステップを踏むことだと話しています。
商品開発も、マーケティングも、クリエイティブも、全てのビジネスで「何を生み出すか」がポイントであるならば、やはり哲学していくことがキーポイントになりそうです。
これは人間とAIの共存を考える上での1つの側面に過ぎないのかもしれませんが、追究して損はない気がします。
そんなことを感じる今日この頃です。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?