仕事は「望まない」場面こそ好機
column vol.942
3月に入ってからお付き合いするいくつかの会社で人事異動の話を聞きました。
その中には、望まない部署異動もあったようです…
仮にAさんだとしましょう。
Aさんは新卒で営業部に配属され、マーケティング部に異動希望を出した後、ようやく適ったと思ったら、3年で再び営業部に戻されてしまったのです…
Aさんの上司に話を聞くと、Aさんはコミュニケーション能力が高く、入社以来、常に営業の成績が良かったそうです。
その会社は営業が主体であることもあり、適正に鑑みてそのような決断に至ったとのこと。
とはいえ、当のご本人はガッカリしている…
一般企業はこのように自身の望まぬ部署異動が行われてしまうのが定めですが、一方、私はAさんをちょっと羨ましいと思いました。
他者評価にこそ「鉱脈」がある
まず一般的、企業は自社に適している人間を採用しようとするわけで、ある程度どの部署でも対応できることが前提になっています。
もちろん適材適所は考えるにせよ、ユーティリティー性は必要です。
(ユーティリティー性がなぜ必要なのかは後ほど説明いたします!)
ですので、マーケティング部署一つとっても、良い意味でどなたがどの部署から異動になっても仕事が回るようになっている。
しかし、Aさんは「あのコミュニケーション能力は特筆すべきレベルで、その力は顧客の最前線にあってこそ活かされる」と評価されていること自体が凄いと思うのです。
私のような平均的な能力を持つ人間からすると、突出した能力を持つ人というのは羨ましいものです。
しかも、その会社は営業主体の会社です。
そこで成果を出せば、組織の中で頭角を現すのは必至でしょう。
その上、営業に戻されたことで落ち込んでいるということは、まだ営業の醍醐味や価値に心底気づいていないわけで、そこに気づけばまだまだ伸びる。
前途はめちゃくちゃ明るいと思うのです。
以前、【自分には「武器がない」と思ったら】という記事でも語りましたが、自分の真の才能は他者評価の中に眠っていることが多い。
だいたい人は、自分とは違うタイプの人に憧れるというのが世の常です。
「ないものねだり」というヤツですね。
だからこそ「望まない評価」であっても、前向きに受け止める方が得策なのです。
それに、営業部にいながら、マーケティングの勉強を続けても良いわけです。
仕事は「掛け算」によって個性が生まれる
営業もマーケティングも、ゴールは顧客のエンゲージメントを高めること。
マーケティングの知識とノウハウは、必ずや営業の現場でも活かされるでしょう。
ここで賢者のお知恵を拝借したいと思います。
ミャンマーを筆頭に、アジアの貧困地域で、25年以上にわたり無償の医療支援を行ってきた吉岡秀人さんは、これからは「才能の組み合わせで勝負していく時代だ」と語っております。
〈幻冬舎 GOLD ONLINE / 2023年3月5日〉
前提として、吉岡さんは「一人の人間にはいくつもの才能がある」というお考えをお持ちです。
確かに仰る通りです。
もちろん、日本トップクラス、世界トップクラスの才能ではなくても、誰にでもそこそこ凄い小さな才能はいくつかあります。
例えば、絵の上手な営業マンや、数字に強いデザイナーなど、○○なのだけど○○な能力を持っている人というのは数多いるでしょう。
吉岡さんも、専門性という軸は持ちながらも
と話しております。
「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、好奇心を持っている時点でそれは「小さな才能」があると言えるでしょう。
そういった興味のある対象を上手く掛け合わせていけば、その人は必ずオンリーワンになれるはずです。
吉岡さんはさらに
と仰っています。
仕事の本質が「目の前の人を喜ばせて、その対価としてお金をいただくこと」にあるなら、まずは皆から望まれる才能を軸にした方が良い。
その軸を肯定しながら、プラスアルファで自分の好きなことを加えていくことで、その人の価値はどんどん高まるのだと思います。
「花形」ではない部署に異動になったら…
ここで、「Aさんはその会社の花形部署に行ったのだから良いけど、残念な部署に異動させられたら、どうするんだよ!?」という意見が出てくるかもしれませんね…
しかし私は、これもチャンスだと思っています。
それは自分が経営する立場になって、つくづく思うのですが、全ての部署があってこそで「残念な部署」「残念な仕事」というのは存在しないとはっきり言えます。
スポーツでも演劇でも、いらないポジションなんてないですし、あったらそれはなくさないといけません。
そして、経営にタッチすればするほど「その仕事に興味はない」なんて言っていられないわけです。
経営トップになれば、全ての部署の最終決済者になるわけです。
正しい判断をするには、自分がその仕事を実際しないとしても、自分ごと化し、理解していかなければなりません。
当然、会社においても、スポーツにおいても、演劇においても、あまり人気のない役割というのはあるでしょう。
しかし、組織の中核を担う人ほど、その役割を理解し、承認・評価していく姿勢が望まれます。
もしも、社内で残念な部署と思われている所に配属された場合は、そこに所属している人たちの努力や気持ちを理解できるチャンスですし、何よりそのポジションの価値や必要性を社内に解ってもらう役目を自分が請け負うんだぐらいの気持ちで取り組めると、きっとその人の社内での信頼と評価は高まるはずです。
そういう人こそ、経営陣に向いている資質だと思います。
「何より楽しむ」工夫が大事
ここでも賢者のお知恵を拝借したいと思います。
今や「時の人」と呼べるテレビプロデューサー・佐久間宣行さんの仕事哲学です。
〈AERA.dot / 2023年3月3日〉
佐久間さんは期待に胸を膨らませ、テレビ東京に入社した一年目、仕事の現場に絶望します。
ADの仕事を「つまらないうえに激務」で、「誰にでもできる仕事」だと感じたそうです。
しかし、そんなある日、佐久間さんは「サッカー部の女子マネージャーの手づくり弁当」の小道具をつくるように指示されます。
しかも当然、佐久間さんは女子マネージャーの気持ちは分からないわけです。
それでも前向きに考え「おにぎりをボールに見立ててはどうか」と閃き、サッカーボール型のおにぎりをつくることに。
その時の様子をこのようにお話しされています。
ただの小道具をつくる仕事(雑務)だったのに、前向きに工夫したら脚本を変えるほどの仕事になったわけです。
ここにこそ仕事の本質があります。
よく「クリエティブな仕事をしたい」とクリエイターの肩書きを手にする人がいますが、本当にクリエイティブな人はきっとどんな仕事に就いてもクリエイティビティを発揮するのだろうと思います。
たとえ佐久間さんのように望んだ場所に入れたとしても、仕事とは「望まない」ことに多く直面するもの。
だからこそ
望まない場面に直面した時、どうその仕事を好きになるか。
どうその仕事に楽しく向き合うかと考えていくと、新しい自分の才能に出会える機会になるのではないでしょうか?
小さくてもそのカケラにたくさん出会い、集めていくことが、その人を特別な存在に育てていくものだと信じています。
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