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民俗の故郷・岩手県遠野市に伝わる怖くて不思議な体験談『遠野怪談』(小田切大輝/著)著者コメント+収録話「雪山トレッキング」全文掲載

令和版遠野物語!


あらすじ・内容

民俗学の金字塔『遠野物語』に記された怪異は、現代の遠野でも日々起きている!? 
民俗の故郷・岩手県遠野市に伝わる怖くて不思議な体験談を現地在住の気鋭が綴る

欠ノ上稲荷のご利益と恐ろしい神罰

神が棲まう聖なる早池峰山

遠野市立博物館に出没する人ならぬ子ども

訪問者にとり憑く鍋倉城跡の赤い女

仙人峠道路を彷徨う事故車の霊

伝承園オシラ堂に潜む黒い影

異界へ通ず! 土淵町柏崎に出現する光る山道

市役所、早池峰山、商店街… 市内各所で耳にする招待不明の鈴のような怪音

又一の滝で耳にした、生者を求める山の神の危険な呼び声

悪霊が蠢き訪れる者にとり憑く花巻の某ダム

柳田国男の『遠野物語』の舞台・岩手県遠野市――この地に暮らす著者が聞き集めた現代の怪奇譚集。
・観光地・伝承園内のオシラ堂で目撃された真っ黒い影の正体「伝承園」
・早地峰山付近で聞こえる謎の声。耳を貸してはならない理由とは…「雪山トレッキング」
・多くの人で賑わう市立博物館に現れる謎の子ども「博物館奇譚」
・霊験あらたかな神社が仇なす者に牙を?くとき戦慄の神罰が下る「欠ノ上稲荷のご利益」
・人ならざる霊の仕業か…日常に差し込まれた怪異を綴る八話「モンコ」
――など収録。この地には今も不可思議な怪異が息づいている…

著者コメント

『遠野』という土地にどんな印象をお持ちでしょうか。
 偉大なる柳田国男が残した『遠野物語』。今でもこの本を片手に遠野の地を巡る人が後を絶ちません。
 それほどまでに人々がこれらの不可思議な話に惹かれるのであれば、現代の遠野で起きた奇々怪界な話を集めてみようではないか。
 そんな気持ちで怪談を収集しました。
 この度、機会をいただきまして本になることになりました。
 どうぞ、この新しい『遠野物語』でお好きなだけ戦慄せしめられてください

小田切大輝より

試し読み

雪山トレッキング

 友人に誘われたEさんは雪山トレッキングに出かけた。
 スノーシューを履いて雪の積もった山道を踏み分けていく。
 附馬牛町つきもうしちょうの奥にある又一の滝は何度も訪れていた場所だが、雪景色となるとまた違った一面を見せた。冬にしか見られない景色も、雪山トレッキングの魅力だ。
 木々の枝には新雪が乗り、薄曇りの日差しを照り返し何とも清々しい。
 お互い言葉は発さず、黙々と歩き景色を堪能していた。
 静寂の世界。聞こえるのは自分たちの足音のみ、ではなかった。
 ボソボソ……ボソボソ……。
 何か聞こえる。
 いや、誰かが喋っている。
(自分たち以外にも誰かいるのか?)
 足を止めて辺りを見渡した。
 木々の間に目を凝らしても人の姿は見当たらない。
 耳をすませると、それは女性の声だった。
 喋っているというよりは、呼びかけているようだった。
「なあ、人の声が聞こえないか」
 後ろから呼び止めると、友人は振り返り同じように耳をすませてみせた。
「いや、何も聞こえないけど」
 どうやらEさんにしか聞こえていないらしい。
 不気味に思いつつも、そのままやり過ごし山を降りてきた。
 後日、集落の古老の人たちと喋っているときにこの話をした。
「もしかして、それは十二日だったんじゃないか」
 確かにそれは十二月十二日の出来事だった。
「十二月十二日は山神の日だ。山に入っちゃいけねえ日だぞ」

 山神の日は、山神が自分の山の木を数える日とされており、その日に山に入ると木として数えられてしまい、戻ってこられなくなると言われている。
「山神様は女性だ。きっと呼ばれていたんだろう」
 無事に帰ってこられたことに感謝したという。

―了―

★著者紹介

小田切大輝 (おだぎり・だいき)

山梨県出身。岩手県在住。幼い頃より怖い昔話が好きで、読み聞かされては泣いて眠れない夜を繰り返し過ごした。そのうち、取り憑かれたように怖い話ばかり聞き集め、気がつけば遠野に移住してしまった。怪談語り部としても活動中。

シリーズ好評既刊


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