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若手のキャリアを殺す事業責任者から優秀人材を守る方法~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:11~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は若手のキャリアを殺す事業責任者から優秀人材を守る方法を解説します。

少々過激なタイトルにしましたが、1人の人材のキャリアを台無しにするのは人殺しと同じくらい罪深いことだと思っています。特に、プロパー社員は無垢に上司や事業責任者を信じてキャリアを任せていることがあり、また、事業責任者や若手の上司もキャリアに無知がゆえに、無意識に悪気なく人殺しになっているケースがあります。

前職でも顧問先でも非常に残念なケースを見てきたので、その経験をもとに事象と対処法を解説したいと思います。


「若手人材のキャリアを殺す」とは?

そもそもキャリアを殺すとはどういうことかを定義しましょう。
従業員にはその人のマインドや能力の成長ステージに合わせて適切なミッション、業務、環境、報酬を用意する必要があります。キャリアを殺すとは、対象メンバーのステージを正確に把握せずに、難しすぎる、または簡単すぎるミッション、業務を与えてしまうことです。

▼「キャリアを殺す」とは?
①簡単すぎる業務を行わせることで視座や能力の成長が止まる
②難しすぎる業務を行わせることで心身ともに崩壊をきたす

②のイメージはつきやすいと思いますし、このような状態になった時には気づきやすいと思います。対処方法もシンプルなので今回は②のケースの解説は割愛します。

問題は①です。簡単すぎるがゆえに業務を行っていても痛みを感じることがありません。よって特にメンバーからの声も上がらないために、わからないうちに病気が進行してしまうのです。病気とは、現状維持バイアス醸成や成長意欲・挑戦意欲の低下のことです。

同じことを繰り返していれば経験によってできるようになります。新人の時はそれでも成長実感も持てるでしょうが、2年目、3年目になると同じことの繰り返しの中で飽きが生まれてきます。ここで対象メンバーのタイプがいくつかに分かれます。

1⃣同じ業務の繰り返しに危機感を持ち業務や環境の変更を考える人材
2⃣同じ業務の繰り返しに危機感を持つものの、会社や上司の方針を信じ切って同じ業務を続ける人材
3⃣同じ業務の繰り返しに危機感を持たず、以前よりも早く楽に仕事が終わることでストレスが減りプライベート時間を多く持てることに喜ぶ人材

1⃣は自ら声をあげたり行動をしたりします。外部セミナーなどに自費で申し込んで学ぶのもこのタイプです。彼らの言動に対して上司や人事は「あれ?放っておくと辞めるかも」という危機感を持ち、昇格を早めたり異動を打診するなどの対処療法を提示します。

問題は2⃣の人材です。特に新卒入社の人材は他の会社や業務を知らず、無垢にずっと同じ環境で同じ業務をしてきて、会社のビジョンや上司の戦略を信じていることが多いです。体育会系の人材などがこれに当てはまります。上司に異を唱えていいことを知らないのです。

こういう部下は上司からしたら非常に使いやすく可愛がられやすいです。上司は自分の傍にずっと置いておきたいという気持ちが強くなり、メンバーのキャリア開発という視点が抜けてしまうのです。誰でも優秀な人材、可愛がっている人材を他にあげたくはないですからね。

この自分ベクトルで考える、キャリア開発、能力開発にリテラシーが低い上司と、その上司や会社を盲目的に信じてしまう新人によって、気づかぬうちの『優秀人材のキャリア殺し』が行われてしまうのです。

なお、2⃣は優秀人材なのか?という疑問もありますが、複数社経験した人材ではなく新卒1社経験の20代は「無知の無知」状態であり、環境次第でいくらでも能力開発が可能なので優秀人材としています。ちなみに3⃣は優秀人材ではないので割愛します。3⃣が組織を蝕むマネージャーになる可能性もあるのですがそれはまた別のnoteで。

キャリア開発、能力開発の方向性

前述したように人には、その人のステージに合わせて環境やミッションを変える必要があります。具体的には以下のようなフレームを参考にしながら能力開発のステップを考えるとわかりやすいと思います。

ドラッガーモデル ※引用:ONE人事

ドラッカーモデルとは、カッツモデルを基準につくり出されたビジネスモデルです。経済学者・ピータードラッカー氏が提唱しました。ドラッカーモデルにおいてコンセプチュアルスキルは、すべての役職・一般社員に同じ割合で必要とされています。トップマネジメント層にいくにつれて必要とされるカッツモデルとは異なる点です。

コンセプチュアルスキルは業務を丁寧に振り返り、上司の視座からより高いレベルのフィードバック(≒薫陶)をしてあげることで養われます。実施した内容を抽象化し、構造化し、再現性のあるステップや方程式に脳の中で組み立てていくイメージです。ロミンガーの法則をイメージしてください。

ロミンガーの法則 ※引用:WONDERFULGROWTHの人事お役立ちブログ

他にもポータブルスキル・スタンス、テクニカルスキルというフレームもありますね。

ポータブルスキル・スタンス、テクニカルスキルの関係性 ※引用:CAREER DATABASE

ドラッガーモデルに比べて、ポテンシャル、スタンス、ポータブルスキルなど、より若手の採用時、育成時に押さえておくべきポイントが入っていますね。土台がグラグラな地面の上に立派な家は立たないように、能力開発の前に、能力の受け皿を広げるイメージを持つといいでしょう。

キャリアを考えるうえでは、I型人材、T型人材、、みたいな方向性をイメージしながら能力開発を行うとわかりやすいです。

●型人材一覧 ※引用:メディアイノベーション

今回のnoteはキャリア開発、能力開発の方法をテーマにしているわけではないので、いくつかのフレームの紹介で終わります。ポイントは、育てる側はこのようなフレームや考え方を押さえておいて欲しいということです。

上記のローミンガ-の法則にもありますが、人の成長に影響を与えるのは経験が70%です。これを逆手にとって「経験から学ばせる」という言葉を盾に、自身は何も教えずに放置して勝手に育つのを待っている管理職がいます。任せることと放置することが大きく違うように、育てることと育つ(≒放置する)ことも激しく違います。人は環境の生き物なのです。主体的で感が良い1⃣のような人材は自分で勝手に学び、外部にメンターを見つけるでしょうが、2⃣にはレシピ(先人の知恵)を授けることが重要です。

経験で学んだことに対して薫陶を行い、さらに座学で新たな知恵も知恵もつけたうえで実践させる。こういう取り組みを織り交ぜることで掛け算の成長をするわけですね。

▼ローミンガ-は割合ではなく掛け算で考える
経験 × 薫陶 × 研修

事業責任者が無自覚に若手のキャリア殺しを起こしてしまう理由

ここからは事業責任者が無自覚に若手のキャリア殺しを起こしてしまう理由について解説します。自覚、無自覚問わずキャリア殺しの責任者は以下のような状態であると考えられます。

①事業責任者に人材開発(キャリア/能力/マインド)のリテラシーがない
②事業責任者自身が縦のキャリアしか歩んでいない
③事業責任者への短期目標プレッシャーが強すぎる

①は前章のような知識やリテラシーを持っていないこと、または持とうとしていないことが問題ですね。特に①の人材は持とうとしていないというのが正しいと思います。本当にメンバーのキャリアを考えている責任者であれば、人材育成は個人の人生を預かることだと強く認識し、自ら主体的に学んでいくでしょう。管理職として「教えてもらっていないから知らなかった」は言い訳にはなりませんね。

②は日本では非常に多いですね。自分が同じ業務しかしていないため、それしか教えられないんですよね。で、その成功体験がその人の自信を支えているものまでなっていることで、違うことを教えるのは自己否定にも思えるのです。名プレイヤーが名監督になるわけじゃないことを日本社会全体で理解すべきですね。

③は思考停止または思考の狭窄タイプですね。自身の持つ責任へのプレッシャーが強すぎるために、思考がそこばかりに集中し、新人のキャリアや育成を考えるスキマがないわけです。短期を何とかすることに必死で長期視点を持った思考や行動ができないわけです。管理職である以上、そんな自分をメタ認知して早めに自分の上司(経営)や人事にヘルプを出す必要があるのですが、それすらできない環境もあります。この場合は責任者も被害者であるケースとも言えます。

経営者が無自覚に若手のキャリア殺しを起こしてしまう理由

責任者と経営者にあえて分ける必要もないかもしれませんが、僕の経験上、経営者でキャリア殺しをしてしまう傾向は責任者のそれよりも、より以下のような理由が大きいと考えるので分けてみました。企業や人によってはどちらの理由にも当てはまる人がいると思います。

①従業員を自身の所有物だと思っている
②自身の若手時代における成功体験の固執が強い
③優秀人材に投資をする覚悟レベルが低い

①は前時代的な上意下達の組織で育った経営者には非常に多いですね。また、独立心や独占欲が強いことが起因して起業した経営者にも言えることです。「俺のモノは俺のモノ。お前のモノも俺のモノ。」を地でやってしまう人ですね。また、このタイプは仮面を被っているケースもあるので要注意です。「自由にやっていいよ!」と口では言いながら、決断の場面になると「いや!でも!」と否定して、結局自分の意見を通したくなるタイプですね。

このタイプは価値観レベルで従業員を所有物だと思っているので、コントロールしていること、コントロールしたいと思っていることが無意識で無自覚なんですよね。側近ほどそのことに気づき愛想をつかしていきますが、経営者と距離がある現場は気づいていなかったりします。こういう経営者は優秀社員が辞めたことに対して人事から危機感を訴えても「あいつは会社の考えと違うので辞めるべき人材だった」と言います。裏返すと自分のコントロールが効かない人材は優秀ではないし、いなくてもいいってことを言いたいわけです。

②は責任者にも多いですが経営者も非常に多いです。経営者は特に、前回のnoteでも解説したポリシーレベルで人の成長、人の扱い方に対する考え方が凝り固まっている場合があります。経営者の「人はこうあるべき」というポリシーをひっくり返すのは相当難しいので、ここは入社前に自身をアップデートするためにアンラーンしたり、メタ認知できる経営者かどうかを確かめていく他ないでしょう。

③は経営者としての腹括りができないレベルの人です。僕の経験上、人材ポテンシャルは4レベルに分けられ、それぞれに合わせてミッション、環境を与え、マネジメントの方法も分ける必要があります。その中でも「投資レベルの人材」に対して本当の意味で投資ができず人材を消費するような使い方をする経営者が多い印象です。

▼人材ポテンシャルラベリングの4パターン
投資人材:経営者ポテンシャル人材。主体的に学び創造と行動できる。
教育人材:事業責任者人材。優等生で万能型。ルールの中で輝く。
機能人材:一般人材。得意不得意が明確で本人の適性配置で機能する。
見極人材:成長意欲がない、またはマインドが組織に合っていない人材。

人材ラベリング方法と扱い方は以下に詳細を載せています。

投資と消費の違いは言うまでもないですが以下です。

投資:使ったお金以上のリターンが得られるお金の使い方
消費:使ったお金に対してそれに見合った価値が得られているお金の使い方

「経営者は育てるのではなく育つもの」と言われるように、経営者ポテンシャルのある投資人材には様々な経験を投資して、長期的に経営者に育ってもらう必要があります。また、教育人材にも粘り強く教育し続けて事業責任者まで育ってもらう必要があります。しかし、いずれも一朝一夕にはいかず、時間がかかるものです。さらに、投資したからといって狙い通りに育つかは別問題です。途中退職も考えられるので成功確率が10%もあればいいのではないでしょうか。

それにもかかわらず、経営者は早めに使った分のお金の価値を回収したくなります。よって短期に黒字社員になってもらうために短期で成果が出やすく、会社にとって都合の良い人材配置をしてしまいます。しかし考えてください。将棋の飛車や角に歩の動きだけを強要させたらどうなるでしょうか。組織として非常にもったいないし本人のストレスも相当溜まるでしょう。でも、現実世界ではこれをやってしまいがちなのです。

将来の経営者育成や事業責任者育成はそのポテンシャルのある人材を見つけることが何よりも重要ですが、活かすも殺すも自分次第であり、特に投資をする(=成功確率は10%もないかもしれない)という経営者の覚悟が同じくらい重要ですね。

ちなみに投資方法として以下のnoteにある経験が参考になると思います。内容はCHRO向けですが、CHROを経営者に置き換えても使えるものです。


若手のキャリアを守る方法

最後に、キャリア殺しをする経営者、責任者からCHROとして若手のキャリアを守る方法を解説します。CHROができることは以下だと考えます。

①CHROとして信頼されることで配置権限を獲得する
②経営者や責任者にキャリア開発や人材開発を理解してもらう
③若手人材投資の成功事例を早めに作り重要性を実感してもらう

①CHROとして信頼されることで配置権限を獲得する

信頼されているというのは大前提ですが、同時に決裁権限表で配置の最終決定権限をCHROにしておくともめずにすみます。所有意識がめちゃくちゃ高いわけじゃなくても横からゴチャゴチャ言われるのは誰でも嫌なはずです。特に自部署の責任を持っている責任者からすると、責任がない人間に配置に口を出されたくはないでしょう。

だからこそ、人材は責任者や部署のものではなく、会社全体のものであり、個人自身のものであるという意識をきちんと共有し、議論は「人材開発委員会」のような場で行いつつ、最終的な配置権限に関してはCHROに委ねる旨を決裁権限表に記載しておくといいでしょう。

ただし、ルールを行使することとルールを全員が納得して運用できることは全く別問題なので、最終決裁をするに足る信頼を普段から獲得しておくようにCHROは心がけましょう。

ちなみに人材開発委員会はリクルートのそれが参考になります。

②経営者や責任者にキャリア開発や人材開発を理解してもらう

このnoteで解説した内容をはじめ、キャリア開発、人材開発についてのリテラシーや知識の向上を幹部層には全員持ってもらいましょう。知らないから自分の成功体験を踏襲したくなるわけです。

知ることで様々な視座や視点も持つことができます。開発の方法論だけではなく、世代間ギャップを埋めるための視点を知ることもまた重要です。
人は1年経つと1歳ずつ老いていきます。幹部層と若手とは年々考え方が違っていくわけですね。年齢が10年離れると外国人、20年離れると宇宙人、それくらい価値観や視点は違ってくると認識してもらいましょう。

知ってもらう、持ってもらう、と言っていますが、それを推進するのはもちろんCHROの役割です。人事に責任を持つものとして、CHRO自身が経営者や責任者に働きかけましょう。人を動かすために様々な策を講じることを楽しめるのも人事を行うモノの正しい資質だと思います。

③若手人材投資の成功事例を早めに作り重要性を実感してもらう

百聞は一見にしかずってやつですね。方法や視点を聞いても学んでもしっくりこないのは実際に見ていないからです。そこで一番手っ取り早いのが成功事例をつくることですが、前述の通り、投資には時間がかかるのですぐに成功事例をつくるのは難しいです。

よって、ベンチマークをしている企業の成功体験を持ち込みましょう。自分が仕入れて代わりに話すのもいいですが、ベンチマーク企業の経営者や責任者と繋がって、自社の幹部に直接話してもらう機会を設ける方が効果的です。

他社の成功事例を見つける情報網を持つこと、競合にも協力してもらえる信頼関係構築、全員を同じ場所に集めて実施するだけの巻き込み力。こういう力を持ち、普段から信頼関係構築に努めているからこそできるわざですね。

まとめ

今回は、若手のキャリアを無意識に殺してしまう経営者や責任者の特徴と、その対処法を解説しました。タイトルからキャリアを殺してしまう人が悪いように感じますが、それを防ぐために対策を講じる責任がCHROにあると言いたい内容でした。

人・組織に関することは当たり前のことが多いので「わかっとるわ!」と言われることが多いです。でも、わかっていてもできないのが人間です。その理由は脳のキャパにあります。経営や事業に責任を持ち、そこに一番思考力を注ぎ込みたい人が人事組織、ましてや個人のキャリアにまで思考を巡らすのは至難の業です。

一方で、CHROの思考は100%人事に向けることができます。だからこそ、CHROは常に人事組織を考えているし、個人のキャリアにも思考を巡らせることができるのです。それを理解せずに経営者や責任者の人事への視野狭窄を責めるのは止めましょう。人事の責任はCHROにあるのですから。


より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
takenoko1220

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