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「採用オペレーション思考」を「採用マーケティング思考」にパラダイムチェンジする~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:6~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は「採用オペレーション思考」を「採用マーケティング思考」にパラダイムチェンジする方法を解説します。


採用オペレーション思考の人事責任者がいる会社は、本業の勝負でも負けることが決定している

特に中堅から大手のレガシー企業に多いのですが、採用をオペレーションとして考えているために、現代の労働市場競争についていけず、大量に内定を出して大量の辞退に悩む企業様がかなりいる印象です。

戦略人事、人的資本、という言葉が生まれるように、「人」「個人」の重要性が上がり続ける昨今において、昭和の採用オペレーション思考を引きずっていては労働市場で勝てるわけはありません。また、労働市場で負けた場合、その後の商品市場でも負けることは目に見えています。だって、優秀な人材の獲得競争に負けたわけですからね。草野球とメジャーリーグが勝負することを考えてください。戦略とか資本力とかそんな話の前に、選手の能力の差が歴然では勝てるわけないですよね。試合の戦術を考える前にまずはドラフトで勝つ戦略を考えましょうってことです。

採用オペレーションが崩れ出したわけ

最近の3つの変化によって、ブランドが強い企業も昔ながらの採用オペレーションでは人材獲得が難しくなりました。その変化とは以下の通りです。

①リモートワークOKの会社が増えたことで地場という強みが薄くなった
②やりがい(≒情緒的価値)重視の高まりから機能的価値の強みが薄くなった
③個別性、多様性の高まりからマスアプローチの効果が薄くなった

①リモートワークOKの会社が増えたことで地場という強みが薄くなった

この変化で一番困っているのは地方優良企業と呼ばれる中堅JTCですね。地域という強みに守られていたために近くに採用競合がおらず、地元就職を考える人材を寡占することができていました。

しかし、新型コロナが蔓延したタイミングからリモートワークを可能とする企業が増えました。特に東京にいる新興企業ほどリモートワークを推進しているので、地元にいたいという理由で仕事内容や報酬を我慢していた人材がこぞって東京に本社のある企業を受け始めました。

これによって「地元で一番」という特権を得ていた地方企業が人材獲得に急に苦しみだしたのです。

②やりがい(≒情緒的価値)重視の高まりから機能的価値の強みが薄くなった

採用における企業の機能的価値とは、事業内容、仕事内容、報酬、待遇など事実情報であり、候補者によって捉え方の差が開かないものです。対して情緒的価値とは、事実情報を受けて候補者が素敵と思えるかどうか、という候補者それぞれが感じるメリット情報であり、候補者の捉え方によって大きく価値基準が違ってくるものです。

一昔前だと、大企業に所属していること、報酬が高いこと、海外赴任をしていることなどがステータスであり、会社員として働く人なら皆が憧れるものでした。よって、それらを用意できる大企業ほど人材獲得は優位でした。

しかし、時は流れ、機能的価値よりも情緒的価値を重視する人が増えてきました。まだ、かなり多くの人は機能的価値を重視しますが、情緒的価値を大事にする人が増えてきたのは紛れもない事実です。昔は中小企業として見向きもされなかったベンチャー企業、スタートアップ企業への就職転職が増えてきたことがその証明になるでしょう。

これによって「業界1位」という特権を得ていた業界大手企業が人材獲得に急に苦しみだしたのです。

③個別性、多様性の高まりからマスアプローチの効果が薄くなった

日本人は単民族であり「みんな同じが是」というのが無意識的な価値基準でした。だからこそ世界で一番マスメディアの影響を受けやすい国民だったのです。つまり、皆が同じ価値基準なので、ひとつのターゲットに向けて、ターゲットに刺さるメッセージを打つと大きな効果を得られたというわけです。テレビCMがアホみたいに高くても企業がお金を出すのは効果が絶大だったからです。

しかし、インターネットやSNSの台頭によって、マス広告よりもネット広告の効果が高まってきたように、採用の世界でもマス媒体でのアプローチだけでは効果が出なくなってきました。リクナビ、マイナビに高い掲載費を支払っておけば放っておいても説明会に予約が入る時代は終わってきたということです。

候補者へのアプローチの変化は集客媒体に限ったことではありません。説明会の内容、選考フロー、HPやパンフレットや動画に至るまで、候補者の目に付く情報すべてにおいて一律の情報では刺さらなくなってきました。

候補者に合わせた個別面談、個別選考フローを実施する必要が出ただけではなく、更新されないHPよりも、より個性が出る企業のSNS投稿に注力しなければならなくなりました。また、読まれないパンフレットを印刷して配るよりも、情報の鮮度や多様性を保ったオウンドメディアの方が、欲しい情報だけどを見たいという候補者に刺さるようになりました。

これによって「お金があるから広告の上位を独占できる」という特権を得ていた大企業が人材獲得に急に苦しみだしたのです。

採用マーケテイング思考のアプローチ

採用マーケティングとは「求職者に入社したいと思ってもらうための仕組みをデザインすること」です。とはいえ、抽象的な概念だとわかりづらいと思うので採用オペレーションとの比較を通じて解説します。

採用オペレーションと採用マーケティングの違い

真剣に採用に取り組んでいる人なら何をいまさらって感じかもしれません。しかし、過去の採用オペレーションを引きずっている会社は数多くあります。日本の伝統的大手企業(JTC)ほどその傾向は強いと思います。前述したような変化があるにもかかわらずなぜ?と思われるでしょう。それくらい今までの習慣や身についてしまった価値観を変化させることは難しいのです。

大手企業がモタモタしているうちに中小企業は採用マーケティング に舵を切って、労働市場での人材獲得競争に勝ってしまいましょう。人材競争で大手企業企業よりも優れていれば、商品市場で勝てる日が来るのもそう遅くはないはずです。

ここからは詳しい違いについて解説します。

誰に:「ペルソナ」の解像度をあげること

ターゲットとペルソナの対比

まず、似たような言葉なので定義を決めずに同じように使っているのがターゲットとペルソナです。それぞれの定義は種々様々あると思いますが、このnoteでは、主語の違いで説明したいと思います。

上記の対比のスライドで言いたいことは伝わると思いますが、採用オペレーション思考の強い会社ほど、主語が自分であり、ターゲットとは自分にとって都合の良い人材を並べているだけです。恋愛に例えると、ターゲットは誰ですか?という質問に、「かわいくて、スタイルが良くて、性格がいい子」と言っているようなものです。上記の流れで抽象度に沿って説明するとこんな感じです。

【抽象度高】
俺の好みの子

【抽象度中】
かわいい
スタイルが良い
性格が良い

【抽象度低】
石原さとみっぽい
スリーサイズは「〇/〇/〇」
ボランティアをしている

うん、抽象度を下げる、つまり具体的にすると採用基準は明確になりましたね。「俺の好みを捕まえてこい!」って命令だけだと部下の連れてきた子への上司の求めているそれが揃うのに時間がかかりそうですが、抽象度低のレベルだと基準が明確なので大きなズレはおきないでしょう。

しかし、今回のnoteで言いたいのは抽象⇔具体の話ではなく、「石原さとみに似ているくらいかわいくて、スタイルがグラビアアイドル並みで、性格も最高の子がなぜあなたのことを好きになるんでしょうか?」ということです。

無理だからあきらめろ、高望みをするな、ということを言いたいのではありません。仮にそういう人がいるのであれば付き合える可能性はゼロではないのです。しかし、そのターゲットとなる子の好みや価値感や期待や痛みなどを知らない限り、その子に自分を選んでもらうことはないということを言いたいのです。

つまり、ペルソナとは「完全にターゲットの子に憑依した状態になること」です。その子の頭の中が100%わかった状態であれば、その思考や価値観に合わせて自分を魅せることができるので、付き合える可能性はグンと上がりますよね。

「完全にターゲットの子に憑依した状態になること」を分解したのが上の表です。文字情報だとイメージできないかもしれないので図解化すると以下のようなイメージです。

ペルソナに憑依するために考えるべき要因の図解化

ターゲット人材に、自社に入社してもらうという「行動」をとらせるために、自社に入社すると合理的に納得という「思考」と自社に入社するのが一番ワクワクするという「感情」を高める必要があります。

ただ、一方的に伝えても変わらないので、ターゲットの価値観要因や環境要因を正確に理解するとともに、本人はどの感覚器から情報を得ていて、且つ、どこからの感覚器を通すと得やすいのか、ということを理解しにいきます。

これを正確に理解しようとすると、相当、ターゲットに寄り沿わないと難しいことは理解できると思いますが、これができると「思考」と「行動」に影響を及ぼすことができるイメージはわきますよね。

一方で、これが正確にできていないと、次の「メリット(情緒的価値)」を伝えることができないですし、伝えても外すので意味がなくなるのです。まずは何よりもペルソナを芯まで理解しましょう。

何を:「情緒的価値」の言語化を磨くこと

ファクト(機能的価値)とメリット(情緒的価値)の対比

採用の4P(Philosophy/Profession/People/Privirage)は有名ですが、私はいつも違和感を持っていました。4Pは企業の魅力をわかりやすく分解するフレームとしては使えるが、このまま求職者に伝えるのは一方的すぎる、または、魅力の押し売りになるのではないかと。

人は誰しも自分語りが好きなモノです。そして、自分の話を聞いてくれる人に惹かれます。それは個人だけではなく法人も同じです。自分の魅力を語ることに陶酔し、それをきちんと聞いてくれる求職者を良い人材だと判断します。

対して、求職者はそのような企業の魅力を聞いているだけで満足するでしょうか。候補者も人です。もちろん、自分の話を聞いてくれる人に惹かれます。特に人材の獲得が厳しくなった現在では、より個に主語を移す必要が出てきました。つまり、「相手のために自分が魅力的だと思うことを伝える」でのはなく「相手の立場に立って相手が魅力的だと思うことを伝える」ということが必要なんです。

『相手のために』と『相手の立場に立って』というのは似ているようですが大きく違います。

「あなたのために言っているのよ!」と勉強をせずに遊びに行こうとする子どもにお母さんは諭します。お母さんの言葉は本当に相手である子どものために言っている言葉ですが、子どもには押しつけがましく聞こえます。なぜなら、子どもの立場に立てば、友達との遊びを断るとハブられてしまうかもとか、自分だけ話題についていけなくなるかも、という恐れがあるため、勉強が重要なことを理解していても遊びを優先したいのです。

相手のために ☛ 「自分の立場」から見た相手のため
相手の立場に立って ☛ 「相手の立場」から見た相手のため

機能的価値が重要視されていた時代は、ファクトさえ伝えていれば「相手の立場にとって」すごく魅力的な情報でした。しかし、多様性の時代に情緒的価値が重要視されるようになると、ファクトの魅力は必ずしも相手の立場に立つと魅力的なものではない、という事象が生まれてきました。

これは、求職者に迎合するというようなことを言っているのではありません。例えば、Philosophyの伝え方を例にとって考えます。これまでは「我々のPhilosophyはこれだ!(合わない人は来なくていい!)」という一方的な伝え方でよかったのです。一方現在では、「あなたのBeliefは●●なんですね。当社のPhilosophyは◎◎なので、あなたがBeliefに沿って生きることは結果的に当社のPhilosophyにも沿っていますし、あなたが当社で活躍することで、あなたのBeliefが達成し、且つ、当社のPhilosophyの達成にもつながりますね。」と、抽象度を上げると共感していますね、ってことを丁寧に伝えた方がいいのです。

これは、次のアトラクトジャーニーにもつながる話ですが、人の脳は『情報』という点ではなく、『ストーリー』という線で伝えた方が伝わりやすいのです。上記の例のように伝えようとすると、一方的な伝え方ではなく、相手の人生のストーリーと自社の将来ストーリーを繋げ、候補者をストーリーの中に没入させる形でナラティブに伝える必要があることがわかると思います。

どのように:「アトラクトジャーニー」の運用力を高めること

選考オペレーションとアトラクトジャーニーの対比

最後にアトラクトジャーニーです。これも一般的なマーケティングのカスタマージャーニーの考え方と同じです。先ほど「ストーリー」を伝えると言いましたが、ストーリーは線であり、選考フローを通したジャーニーの中で、目や耳や体感を通して、一貫したストーリーのように候補者をジャーニーに導く必要があります。そして、適切なタイミングでアトラクトすることが重要なのです。恋愛に似ていますね。

✓フィーリング
✓タイミング
✓ハプニング

恋愛には上記の要素が必要だと言いますが、これらを戦略的かつ計画的に選考フローに盛り込み、あたかも偶然のようなタイミングで自分にとって重要な出来事が起きたり、言葉をもらったりするので人は無意識に惹かれだすのです。

例えば、前職での採用実績を分析すると、東京本社よりも大阪支社での内定承諾率が高いことがわかりました。数字だけを見た仮説では、関西人の気質が自社に合っているのではないか、大阪支社のメンバーのクロージングがうまいのではないか、ということが思い浮かびました。しかし、入社した人にヒアリングを行うと全く違うことがわかりました。入社の決め手になった理由はほぼすべての人が「人」と答え、選考フローでの覚えている出来事では、「大阪支社では面接に待っている間に、目の前を通る社員全員が自分に笑顔で挨拶をしてくれる」ということでした。

逆に東京オフィスは広いため、求職者の待合室と社員の通る道が分けられていて、物理的に接触しないようになっているため、大阪のようなアトラクトができていなかったのです。これと似たようなことはモノを買うときやサービスを受けるときにもあると思います。人は、モノやサービスを買うときに、その対象物の魅力以上に、店員の態度、お店の雰囲気に影響を及ぼされることがあります。つまり、これらのように人の感情を揺さぶる魅力的な接点を計画的に作るのが重要になるということです。

例えば、面接日程調整メールで考えてみましょう。会っている時はすごく親しみやすいのに、メール文章でのコミュニケーションは定型文で無機質であったらどう思われるでしょうか。丁寧な印象よりも「自分は他の求職者と同じ寿司ネタのひとつのように選考コンベアーに乗せられているだけなんだ」と思うかもしれません。こんなこと思うか?と疑うかもしれませんが、これは実際に私が辞退理由を聞いたときに求職者から言われた一言なのです。

オペレーションを均一化することはミスを減らすしコストを下げます。一方で、人を相手にしている以上、合理的に進めようとしたことで、本人の感情的な部分を見失う可能性もあります。個の時代の採用では、大量に集め、選考を通じてふるいにかけ、最後に残った人だけを上から吸い上げる、という画一的な選考フローでは、欲しい人ほど選考中に辞退するという事態になるのです。

特に新卒採用ではその傾向が顕著です。中途採用に比べ、一度に大量の人が説明会に参加してくれるので、その大量人員を「さばく」という考えになりがちです。人数が多いことで安心感が生まれてしまうのでしょう。「これだけいれば何人かは残るだろう」と。

しかし、1,000人ほど説明会で出会い、そこから10人内定を出したところ、承諾に至ったのは1人だけだったというのはよくある話です。ここで企業は内定から承諾に至るまでの過程で承諾率を上げるための方法を考えようとするのですが、大きな間違いです。最終選考という点に問題があるのではなく、選考ストーリー全体に問題が大きくあるのです。

再度恋愛に例えますが、選考フローはデートのようなもの。合コンを経て出会い、夜のディナー、日中のデート、様々な体験を経て、プロポーズ(内定通知)を行います。そこで断られるのはプロポーズの仕方や言葉が悪かっただけではないんです。デート中の態度、LINEのやり取り、将来の考え方、様々な面を総合して考慮した結果、「あなたではない」と思われたということです。

プロポーズ(最終選考)の場まで来てくれたということは自分のことを好きに違いない、と企業は思いがちです。いいえ、それは単にあなたが振らなかった(不合格通達)だけです。相手は何人も同時にデートをしているのです。まだ誰と結婚するかを決めていない間は、振られない限り、または、よほどの嫌な出来事がない限り、デート(選考)には来てくれるのです。奢ってくれる(何かしらの学びがある)わけですので。

このようなアトラクトジャーニー(デートプラン)を候補者ひとりひとりに合わせてデザインするのは大変な作業です。しかし、これをちゃんと行うのが現在の人事に求められることです。つまり、オペレーション思考では絶対に無理なのです。

まとめ

私は常々思っています。営業だと数字を外すと切腹張りのプレッシャーがあるのに、採用にはなぜそれがないのだろうと。さらに、集客ができないということでエージェントに頼りっぱなし、アトラクトも頼りっぱなしの人事採用担当が多いように思います。営業ならテレアポでも飛込でも何でもしてリードを作ってこいって話だと思うんです。でも、人事はそれをやらなくてもなぜか許されてしまう。おかしな話です。

ペルソナを設定する、相手にとっての情緒的価値をジャーニーを通じて伝えるということも、営業の世界では今や当たり前すぎていまさら解説するのは恥ずかしくなるほどです。でも採用ではそれをやっていない会社が多いのです。それはやはり、経営や人事も人的資本や戦略人事と耳障りの良い言葉を並べているだけで、労働市場の中で絶対に勝つという意識や、候補者や従業員の一人一人の人生に真正面から向き合うという覚悟が乏しいからだと思います。

経営者は人に頼るのではなく、仕組やプロダクトに頼るような戦略を考えることも重要です。一方で、人事は人に向き合うことから逃げることはできません。採用マーケティング思考を持つことは、テクニックではなく、目の前の人に真剣に向き合うという意識のパラダイムチェンジからスタートします。それができて初めて戦略人事だと名乗れるようになると考えます。

まずは行動を変え、意識を変える訓練をしてもらえればと思います。

より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
takenoko1220

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