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呪いを解くために小説を書こうとしているのかもしれない

noteのイベント歴史エンターテインメントの名手・木下昌輝さんに学ぶ「小説がレベルアップするリサーチ・テーマ・構成」をみました。

わたしは通信制大学の大学生です。いまちょうど大学の卒業論文の小説に取り組んでいて、2回目の卒論レポートの提出が迫っています。それなのに、悩んでしまって、書き進めることができなくなっていました。そこで、何かヒントになればとこのイベントを視聴したのです。

スピーカーは、歴史エンターテイメントの名手・作家の木下昌輝さんです。

歴史小説は、わたしにとってあまり馴染みのないジャンルですが、とてもとても参考になりました。アーカイブ動画が公開されています。

呪いについて

特に印象的だったのが、「呪い」というキーワード。そこが、歴史小説であっても現代人が共感できるポイントなのだとか。

怖がりなわたしは、共感どころか「えっ、怖い」と思ってしまいました。でも、わたしが最初に思ったようなファンタジックな呪いではなく、「親の期待」「洗脳」「自己暗示」「思い込み」のような、現代人にも通用するような「呪い」のことなのだそうです。

たとえば、木下さんは町工場の長男だったそうなのですが、「工場の後継」という呪いをかけられていたと。他にも「いい大学に入ってほしい」とか「いいお嫁さんになってほしい」と言った親の希望も「呪い」の一種なのです。

呪いというのは、かかってしまうと解くのがむずかしい。それを解くための物語を書きたかったそうです。

はっ。

としました。

わたしも、「呪い」を解くために、小説を書こうとしているのかもしれないと思ったのです。大学に入り直してまで、わたしが小説を書こうとしていたのは、そのためだったのかもしれないと。

名前は、親にかけられた呪いなのかもしれない


わたしにかけられた呪いは、明確です。自分で、わかっています。それは、「ジェンダー」「美」という呪いです。

なぜそれがわかるのかというと、わたしの名前です。
「ヒロミ」という名前。

木下さんの小説では、「名前を書く」ということが「呪い」を発動するのだとおっしゃっていました。なるほど、名前は親にかけられた呪いだと言えるのかもしれない。

いつ頃だったかな、自分の名前の由来を母親に聞くことがありました。すると、わたしにとっては衝撃の答えがかえってきました。

第一子として生まれたわたしには、「跡取り」が期待されていました。つまり、男の子が望まれていた。嫁に来た若い母親には、「跡取りを産まなければならない」という重圧がかけられていたのです。

ですから名前も「ヒロユキ」という名前を用意していたそうです。ところが、生まれてきたのは女だった。なのでしかたなく、用意していた「ヒロ」の漢字に「美」をつけて、「ヒロミ」にしたと。

こんなひどい話ってあります?
そうとうな呪いです。

最初からジェンダーの呪いです。女が生まれてしまったから、男の名前から最初の漢字をとって、そこにまさにとってつけたように「美」をつけるなんて。女だから「美」という呪いをつける。なんというおそろしいことを。

「美」という呪い

ところが、「美」という名前を娘につけておきながら、母親はいっさいわたしの容姿を褒めることをしませんでした。そういう時代と、育て方だったのかもしれません。じっさい小さい頃の写真を見たら、かわいくない。まぶしかったのでいつも目を細め、眉をしかめた不機嫌そうな顔をしています。それは瞳の色素が薄くてまぶしかったからなんだけど、親くらいは「かわいい」と言ってくれてもいいのに。

しかし、それなのに、わたしが選んできた人生はことごとく「美」に関係するものなのだから皮肉なものです。「美術」を学び、人生で最高の「美」を追求するウェディングドレスを自分の仕事にしてしまった。美はわたしの呪いであり宿命なのです。

「美」への呪いは、年頃になって恋人ができたら少し溶けました。

ああ、そして、今書きながら気がついたことがあります。

わたしほんの短い間だったけど、わたしの「ヒロミ」という名前から「美」をとった漢字一文字の名前の男の子と、付き合ったことがありました。彼は、同い年で、同じ月の生まれで(誕生日が10日しか違わなかった)、同じ血液型でした。

でも趣味や洋服の好み、そういうものはまったく違っていて、短い間とはいえなんで付き合ってたのか不思議だったんだけど、そういうことだったのか。彼はわたしの名前の呪いを解いてくれた人だったんだ。

名前の呪い

名前の呪いは、会社を辞めて自分の名前で仕事をする上でも解けていきました。わたしの名前をカタカナにすると、ジェンダーレスなイメージになることを、仕事をしていて発見しました。

展示イベントの告知のために、とあるショップにDMを置かせにもらいにいったときのこと、わたしのブログを読んでくださっていたオーナーさんが、「男性だと思っていました」とおっしゃったのです。確かに、ヒロミは男性にもある名前です。そのときわたし、すごくうれしくて、解放された気持ちになりました。そして自分がそんな気持ちになったことも新たな発見でした。わたしはそこにこだわっていたんだと。生まれたのが男の子じゃなくて悪かったね、ってずっと拗ねてひねくれていたんだと。

でも、この名前で仕事をしていれば、わたしはジェンダーを超えることができる。それはわたしにとっての大きな発見でした。

それでも、わたしの呪いはなかなか強固です。解いても解いても、またわたしの手首や足首に絡みついてくる。木下さんもおっしゃっていたように、かかってしまった呪いは解くのがそうとうむずかしい。

だからわたしも、小説を書こうとしているのかもしれないなと思いました。

小説を書いています

そして今、小説を書いています。

今通っている通信制大学の文芸コースの卒論は、論文系と創作系に分かれていて、創作系は小説を一作仕上げて卒業論文にできるということ。大学も卒業できて小説も完成させられるなら一石二鳥だと思って。

なんならこの一作だけ頭の中から表に出せたら、もうそれでいいかくらいの気持ちで書き始めたんだけど、もうことばにして出すのが大変で大変で。頭の中にある物語はとても美しい(はず)なのに、ことばが追いつかない。

でも、なんだかこのイベントを拝聴したら、がんばれそうだと思えてきました。

小説を書きあげて、自分の呪いをさっさと捨ててしまいたい。そうしたら、もういちどまっさらな気持ちで「美」と向き合うことができるかもしれません。




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だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!