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【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.1


【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を
毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.1

午前11時30分。派手な音を立ててスマホのアラームは作動する。
片目を閉じた状態で音の在処を探す。画面に映る``停止``の文字を押し、酒の抜けきらない身体を起こす。倦怠感に苛まれながらよろよろとキッチンに向かい、マグカップに水を注いで電子レンジで温める。毎日毎日、同じことの繰り返し。出来上がった白湯をすすりながら窓の外を眺める。緊急事態宣言で憂鬱とした世間に反するように、今日も空は清々しい青さを見せていた。

3月下旬から居酒屋のアルバイトはしばらく出勤停止である。コロナ渦により経営が悪化し、アルバイトは全員強制休職になった。実家暮らしなので、生活自体はなんとかなっているがこれではただの親のすねかじりニートだ。「27歳男性・実家暮らし仕事なし」、世間からはいい目で見られない部類だろう。ひたすら家にいて、パソコンをいじったり本を読んだり映画を見て過ごすだけ。両親から向けられる目が日に日に冷ややかになっていくのを感じる。

実は私はYoutuberだった。
今はもう動画の更新は止めているのだが、当時はYoutuberのはしくれだった。扱っていたコンテンツは『恋愛心理学』。恋愛というのは、人類が歴史を創造していく中、いつの時代も普遍的な悩みだった。誰かを好きになった時の胸の痛み、身を引きちぎられるような失恋の悲しみ、背徳的性欲に負けた夜の後悔など、様々な感情をもたらす。これは過去も現在も全く同じである。ゆえに、『恋愛心理学』であれば時流に関係なく多少は視聴者が増えるのでは?という安易な考えから選んだコンテンツだった。

しかし、現実は甘くなかった。約10ヶ月かけて80本近く動画をアップしたものの反響はほとんどなかった。動画の台本制作に1時間、撮影に40分、編集に6~7時間を費やすのが平均だったが、その努力もむなしく再生回数は全く伸びない。売れてるYoutuberの編集も参考にしてみたがそれでもやっぱり伸びない。TwitterやFacebookなどのSNSで宣伝をしても効果は薄く、ココナラでインフルエンサーの方に依頼しても大して現状は変わらなかった。
飲み友やバイト先の学生たち、行きつけのガールズバーのお姉さんたちにチャンネル登録をお願いするのが関の山だった。

アルバイト先から通告された出勤停止命令により、動画制作をする時間が大量に与えられた。だが素直に、「よし、この時期を利用していっぱい作っちゃうぞー」という気持ちにはなれなかった。緊急事態宣言が明けるまで動画を作り続けても、今までと同じく人々の目に留まることはないのではないかという不安が大きかったからである。


「専念できる時間が目の前にあるのに逃げるのか。」
「今はモチベーションがガタ落ちしてるから納得できる動画は作れないんだ。」
自身へ叱咤の言葉をかけたが、言い訳がましい弱音に飲み込まれてしまった。膝を抱えて座り込む男を見つめ、ハァとため息をつきながら呆れたように問いかける。
「じゃあどうしたらモチベーションが上がるんだ。」
「見てくれる人が増えたら上がる。」
「見てくれる人を増やすにはどうするんだ。」
「ひたすら宣伝しまくるしかない。」
「自分にとって効果があった宣伝方法はなんだ。」
「飲み屋で出会った人に直接プレゼンして、チャンネル登録をお願いすること。」
「直接語りかけることが自分にとって一番の方法ならそれを試せばいい。」
「今はどこの店もやってないじゃん。」
舌をリズミカルに鳴らしながら、男は人差し指を左右に振った。

「では、飲みに行かずに直接人とコミュニケーションを取る方法はなにか。」


自己問答の末、頭の中に一閃の稲妻が走る。
私はすぐさまベッドに投げられていたスマートフォンに手を伸ばした。

【vol.2】に続く



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