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(8) 武器輸出三原則って、何なんですか? (2024.1改)

年明けから就航するロイヤルブルネイ航空機が富山空港に着陸する。
クルーのテスト飛行を兼ねてやって来た機体は、ここから先は富山県にチャーターされており、積荷を搭載するのと同時に富山県庁と富山県内のメディア一行を乗せて、ロシア・ウラジオストクへと向かった。
2時間も掛からずにウラジオストク国際空港に到着すると、一行はタラップから地上へ降りて、ロシア沿海州州知事、サハリン州州知事、ウラジオストク市長の手厚い歓迎を受ける。

欧州寄りのモスクワ周辺とは異なり、オホーツク海寄りのロシア東部はマスクをする必要が無い様で、金森鮎知事と村井幸乃副知事はタラップを降りている途中でマスクを外して、出迎えた州知事達とロシア式の抱擁を交わして空港施設に入っていった。
真新しい空港内は東の玄関口としての存在感を誇っており、地方空港に過ぎない富山空港の力負けを素直に認める。国際線の就航が予想以上に決まっている中で、ターミナルビルの新設を検討せざるを得ないと知事も考える。副知事の村井は金森に岐阜北部に新空港を建設するか、岐阜基地、小松基地の民間機着陸を打診しようと提案していた。

ロシア・ウラジオストク市とサハリン州ユジノサハリンスク市のローカルニュースでは、県庁職員・漁業組合関係者と共に来露した金森知事一行を大きく取り上げる。
富山県は日本海側の県の一つに過ぎないが、江戸時代から製薬事業と金融事業に特化した経済県であり、日本の中でも金融資産・不動産資産を多く持つ人々で構成されている。
コロナ感染者数が突出して低く、世界に先駆けてコロナ明け宣言を出したのも、バスターCなる特効薬を開発したからだ。

また富山はプルシアンブルー社の日本の拠点でもあり、東京等の日本の大都市との経済サプライチェーン網の外にある。
食糧自給率が100%を軽々と超えているので、太平洋の大都市からの物資供給に頼る必要がないからで、県内で唯一不足しているのが畜産業だ。
県知事の求めに応じて、食肉や乳製品やロシアの海産物加工食品などを空輸する。
富山から輸入するのは日本製中古車と家電品となる。冬季では東南アジア産の夏野菜とビール、日本酒等が空輸される。

富山はオホーツク海、日本海圏内を繋ぐ新たな交易ネットワーク網を構想しており、中国、韓国の沿海都市との一大商圏化を提唱している。
それに先んじてロシア沿海州とサハリン州と富山のトライアングル交易を来月4日からスタートさせる・・と報じた。

ロシア東部ではプルシアンブルー製家電品と同社製エンジンを搭載した中古車が既に流通しているので、人々の関心も高かった。
ロシア沿海州とサハリン州の観光局も、冬季の日本観光プランとして、富山と岐阜の世界遺産・合掌造り住宅と、飛騨・高山温泉郷宿泊、加賀百万石・金沢観光の3点セットで観光紹介を始めており、週イチの空便と定期航路就航でロシアから直接訪問出来るようになると宣伝している。

ロシア企業も富山の製薬と製造物の交易を求めており、自ずと大々的に取り上げられたようだ。
それもそのはず、台湾と日本で海運事業を行っているサザンクロス海運が、1月からシベリア鉄道を経由してポーランド着となる「Sea&Rail定期混載サービス」を開始する。
東京、名古屋、神戸の各コンテナ・フレイト・ステーションから搬入した荷物を、富山コンテナ・フレイト・ステーションで混載貨物に仕立て、富山新港からウラジオストク港へと海上輸送を行う。
ウラジオストク駅からはシベリア鉄道の貨物輸送を利用してポーランドのクトノ駅へと輸送する。
クトノ駅から先は、サザンクロス海運の欧州代理店となるポーランドのポズナン社のコンテナ・フレイト・ステーションに保税転送し、陸上輸送でポーランド国内や周辺国・欧州全域に配送を開始、特にトルコに車両が大量に届けられる・・という内容だった。
シベリア鉄道を活用して、コロナ用製剤とプルシアンブルー製品が欧州全域に安定的に供給される事となる。

金森知事が掲げた「環日本海経済圏構想」はこうして2021年からスタートとなる。
富山県から見れば、太平洋側都市の数十倍規模の商圏となるので、コロナでマゴついている環太平洋側よりも、日本海県としての地理的優位性を活かす方が手っ取り早い、と考えるのは当然とも言える。

富山県内が異様なまでに盛り上がっている模様を日本の首都圏、在阪のメディアが伝える。
太平洋側はコロナシフトを未だ敷いている中で、また富山絡みの明るい話題で、中身も経済再開の報道だけに、見事なまでの「明暗」を晒していた。
日本政府の裏金疑惑騒動で大荒れの状況に加えて、経済マイナス成長の更なる更新と、経団連企業の大赤字の大行進という悲惨なまでの状況が、同じ国の出来事として、海外では面白おかしく伝えられていた。

ーーー

「高インフレで換物需要が強いロシアやトルコのような国では、中古車市場が発展し続けています。
インフレが国内で加速しても中古車市場で扱われる自動車が高価格帯で取引されるのは、自動車の資産価値が担保されている為なのです。中古車市場が盛んな国では新車市場も好調となりますが、プルシアンブルー社はこの間隙を縫う様に打って出たのです」
新井内閣補佐官は首相に説明する。

「なるほど。ロシアはトルコとも親密な関係にある。共に高いインフレで苦しんでいる。安くて長期保証が付いている中古車は大歓迎と言う訳か・・見事だな」
首相が頻りに頷いている。

トルコでは60%を超えるインフレが続いており、金利水準は極めて高い。トルコ中央銀行はこの年末に政策金利を5%ポイント引き上げ、年40%と定めている。プルシアンブルー社はトルコの高金利にも注目しているのだが、それはさて置き、まずはクルマだ。
ロシアやトルコのような高インフレ・高金利の国で、新車が売れまくっている背景には換物需要がある。高インフレやハイパーインフレを経験した国では、自国通貨に対する信認度が弱くなるのは周知の事実だ。
トルコリラやルーブルよりもドルやユーロの方を人々も商店も扱うようになる。
強い通貨の他に人々が縋るのが、インフレ耐性に強い貴金属や不動産、そして自動車等となる。
トルコでは60%超の高インフレ社会となり、インフレ率に比例するかのようにトルコの自動車市場が好調になるという、漫画のような状況になっている。
トルコの人口も億を越えて増え続けている。
ロシアは1億までには至らないが、旧ソビエト圏内も合わせて広大な面積を誇り、クルマは生活必要材でもある。
プルシアンブルー社はそこに目をつけ、中国内の左ハンドル日本車を中国で掻き集めて、鉄路でベトナム・ハノイに陸送し、ハノイ郊外の工場でディーゼルハイブリッドエンジンに載せ替え、足回りとシート類を交換して、プルシアンブルー製である保証を付けて、ロシア東部と旧ソビエト圏内の中古市場で販売を始めた。
中古車としては割高でも、燃費が良く、軽油という安価な燃料を使うので逆に割安だと人々は判断した。
ロシアと旧ソビエト圏ではコロナ前までは新潟や山形・秋田の港から日本の中古車が入り込んでいたので、日本車に対する安心度が高い。
そこに左ハンドル車を持ち込んだのでウケた。
更にシベリア鉄道経由でEU加盟国で左ハンドル国のトルコの中古車店にも納入する。トルコの隣国のアルバニア・ジョージアなどでも需要があるだろうと見ていた。

「EV車は中国車の方が強いだろう。日本の中古のEV車はどうだろう?」
首相が新井補佐官に問うた。
「日本車に限らず、中古のEV車はバッテリーが劣化しているので、新車に比べるとかなり割り引かれて取引されているようです。もし、バッテリーを交換して刷新したとしても、中国の安いEV車との価格差が無くなってしまいます」

「そうか・・それじゃ取引も成立しそうにないか・・」

「中古車の価格は低く過ぎても高か過ぎてもダメだ、と言われているようです。プルシアンブルー社はまさに絶妙なラインを付いてきたと言えます」

「ハノイに自動車工場を構えたのもいい判断だね・・中国内を通過してウラジオストクまで貨物列車で運べてしまうだろう。尤も中国政府が許すかどうかはあるだろうが・・」

「拉致被害者開放とコロナ製剤の提供で、富山と中国政府の関係は悪くありません。ご推察の通り、中国内の軌道利用を踏まえてのハノイでの改造で相違ないと考えております」

「分かった。それと、モリが滞在しているらしいブルネイの件はどうだね?」

「申し訳ありません。ブルネイ内のセキュリティレベルが上がり、バンダルスリブガワン駐在の日本大使も工場地区ですら近づけないそうです。
大使館員も「プルシアンブルー社は日本企業ではないだろう?」と言われているそうでして・・」

「そう言われるのも仕方がないが、工場では武器や兵器を作っていても分からないという話だ。工場から港と空港に運ばれる物資を監視するしかないか・・」
首相が腕を組んで目を閉じているが、それより国内の諸問題に取り掛かってくれ!と新井は願っていた。あなたが選んだ大臣は仕事ができない。目立ってるのは、3名の社会党大臣だけだ、と。

ーーーー

年末29日に、首相でもある国王が毎年正月に放映している「2021年施策と方針」の収録が首相官邸で行われていた。
これが終われば、3が日明けの4日までお休みだという。”三が日”という概念があるのかどうか知らないが、似たようなものだろうとモリは思っていた。

年末年始はマレーシアで過ごすので国営放送を見ることが出来ないのだが、ブルネイ政府の発表した内容が映像や動画と共に紹介されると、具体的で実現性の高い事由ばかりだ、といった称賛の数々のコメントと共に各国で報じられる。
理由は簡単明白で、富山と全く丸かぶりな内容なので、ブルネイ政府のバックにプルシアンブルー社が噛んでいるのが周知の事実となる。

一次産業振興策、国内産業活性策への取組に加えて、来年方針の要となるエネルギー政策についてはCG動画が公開され、人々の想像力を掻き立てた。ブルネイは石油・ガスに依存しない国家に転換するのだと人々は察したようだ。

「有り余る太陽光を最大限に活用することで、ブルネイの新しい未来を創造する。
しかも、未来の為の巨額の投資を必要とせずに、我々の国を豊かなものにしてゆくだろう。
人は夢物語だと笑うかもしれない。そこで、国民の皆様にご覧いただきたい、我々国営企業の工場群の数々を。
半導体、家電、自動車部品工場が既に操業しており、24時間体制で製品の製造を始めており、ASEAN各国へ向けて出荷が始まっている。
私は宣言する。来年のこの放送で、我が国の経済はシンガポールを抜きASEANトップとなり、韓国・台湾経済に肉薄する国になっている事を。
また、我が国が属するボルネオ島はこれまで森林資源と地下資源を供給する役割を果たしてきたが、世界市場や国際景気に左右され、市況の顔を伺ってばかりで居た時代は間もなく終わると、申し上げておく。
また、自然エネルギーの導入についても触れて置きたい。これだけの数の工場が可動し始めたのだが、ブルネイ電力は発電量を上げていない。
理由は至極簡単で、工場が必要とする電力の8割を工場の敷地内にある自家発電施設で賄っているからだ。エネルギー関連と自家発電施設に関する詳細は年明けの会見で産業大臣から発表する。
いずれにせよ、ブルネイ電力は供給不足にならずに済んでおり、逆に工場の余剰電力を買い取っているので発電量をセーブしている状況にある。

それが出来うるようになったのが太陽光発電だ。
海底油田のプラント施設に隣接する海域に、総面積20haの海上太陽光パネルが浮かんでいる。海上ソーラーシステムによって生み出された電力を国は受け取り、その分、発電所での発電量を抑えるので非常にエコな発電事業へと転じた。20haの太陽光パネルの下部では養殖用の生簀があり、漁師たちの新たな財源になるのと同時に、国民への安定的な食材提供を更に確立した。1つの施設が複数の利益を民に齎し・・」

ブルネイは電気水道ガス等の公共料金はタダなので、国民には直接の影響はない。
国としてのブルネイが自然エネルギーを導入して、化石燃料による発電量を抑えてCo2の排出量を大幅に削減したので、ブルネイ政府の国際的な評価が高まるのと同時に、燃焼するガスが削減できたので国営電力会社の支出経費が削減できました、という話になる。

国王の収録が終わると閣僚を交えた昼食会となり、首相顧問であるモリが国王の隣に座らされる。「当然だろう?」と閣僚達から言われて、少々居心地が悪い思いをした。

食後、「お開きかな?」と思ったのだが誰も去ろうとしない。疑問に思いながら紅茶を啜っていると、お付きの方がキャスター付の配膳車を恭しく転がしてくる。
「またデザートかいな?」と思ったが、閣僚たちがニヤニヤしてモリを見ているので構えていたら、配膳車ではなく恩賞運搬車だったと認識を改める。

「受け取って頂きたい。来年も宜しく」そう言われて受け取ったアタッシュケースはめちゃくちゃ重かった。
「当然だろう?」という顔をして閣僚たちが拍手しているが、中身は金塊だそうで困ってしまう。まさにキックバックであり、裏金だ。そんなの日本には持ち込めないのでアタフタしていると、財務大臣が近寄って来て渡されたのは、モリ名義の通帳とカードだった。
ブルネイバンクの閣僚用の秘密口座だと言うので驚いたが、この口座が手に入ったのは何よりも大きかった。ドラえ〇んの4次元ポケットか、冒険者のマジックバッグを手にしたようなものだ。資産を幾らでも預け入れられるようになったのと同時に、代償としてブルネイに永久に関与し続けなければならなくなった。

ーー

話は約1週間前へ遡る。在韓米軍平沢基地で小型戦闘機の離発着訓練が行われていると、韓国のテレビ局が伝えていた。
テレビ局が韓国空軍を取材し、レーダーで捕捉出来ない機体だと言う。管制の担当者で、匿名レーダー担当から「2.5mで無人機」という情報を得ていた。
「安全なのか?」と韓国政府が米軍に確認を求めたが、仮に危なかろうがゴリ押し出来るのが米軍だ。
「万が一を想定して、訓練飛行は家屋の無い地形を抜けて、船舶の居ない海上での訓練をして欲しい」と要請し、米軍から了承されたという。レーダーに映らない以上、最低限の安全配慮義務を求めたようだ。

在韓米軍がテストしていたAIで飛ぶ機体はプルシアンブルー製「B-117」で、米軍にテスト導入された。米軍はB-117に在韓米軍機のF22で採用しているステルス塗料を塗り、視認レベルを大幅に下げる事に成功した。
機体全長が2.5mと通常の戦闘機よりも小さく、米軍戦闘機F35を縮小したような構造をしている為にレーダーで捕捉し辛い。更にF22と同じステルス塗料を塗れば驚異となる。B-117機体の表面にレーダー波吸収素材を含んだ塗料が用いられており、表面のレーダー波を熱変換してしまう。熱変換により生じた熱もレーダー反射断面積を低減したものにする。  

実際、中国機が韓国領空内スレスレの空域まで近寄ると、韓国空軍機に混じってB-117がスクランブル発進するようになっているのだが、中国機のレーダーに全く映らない。
突然中国語によるAI音声が中国機に流れて、気が付いた時にはB-117に背後を取られており、いつでも射撃可能な距離をキープし続ける。
相手が2.5mの航空機だと言う事実を目撃して中国空軍のパイロットは不安を抱だく。
2.5mのサイズに猿は乗れたとしても、ヒトは乗れないので無人機だと瞬時に判断する。
威嚇射撃弾を仮に撃たれても、無人機なので威嚇にならずに当たるかもしれないと動揺する。ヒトが乗っていない方が怖いのだ。両翼の下にある小型ミサイルが突然放たれて「AIによる誤射だった。申し訳ない」と形ばかりの謝罪を受けても、死んでしまえば帰らない。無人戦闘機B-117に背後を取られたパイロットは、偵察飛行に怯えるようになる。

29日になって新政権でも国防相を務めるデザルグ・コードヴェインが会見で述べた。

「NATOとアジアでAI戦闘機の配備を進めて、航空戦闘機とヘリの予算を軽減する。取り分け在韓米軍と在日米軍でのAI機体の導入を促進して、韓国と日本からヘリ部隊をグアムに撤退させる」と発言すると記者席がどよめき、騒がしくなった。

アメリカの記者たちが騒ぎ出したのは、沖縄が頭に浮かんだからだ。
「長官、日本で問題になっている普天間基地を軍はどうするつもりだ?ヘリ部隊のグアム撤退を表明すれば、変な誤解が日本側に生まれるのではないか?」
ABBCの記者が訊ねると、国防相は笑ってから返答した。

「失礼をしたようだ。遠回しの発言になった事をお詫びしたい。
米軍は普天間から撤退する。同基地は撤退完了後に日本政府と沖縄県に返却する。従って代替基地も米軍は必要としない。我々米軍は環境破壊してまで基地を作っている某国とは違うのだ」
暗に南シナ海に進出して新基地を幾つも牽制する中国を揶揄しながらの国防長官の発言に、沖縄県は揺れる。「普天間解放、辺野古建設無期限停止へ」の2文字が踊る号外が流れた。

それと並行して新型AI戦闘機B-117の製造元は何処なのか?国防総省に問い合わせても守秘義務があるとして回答を拒まれていまう。
しかし、人々も記者達も容易に推察出来る。
シンガポール資本のプルシアンブルー社ならば、日本の武器輸出三原則に触れないので、出来うるだろう?と考える。
プルシアンブルー社子会社の日本法人に質問が寄せられるのだが、
「(日本法人である)当社では武器・兵器の製造をしておりません」
と分かりやすい回答が返ってきただけだった。

B-117の組立て工場は、セキュリティが施されたブルネイ内の工場群にある。
同機は全長2.5mなので、梱包すれば輸送船でも輸送機でも積み込めるので、何処へでも運搬可能となる。厄介なのは梱包してしまえば中身が全く分からない、その"コンパクトさ"の1点に尽きる。

(つづく)


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