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福田恆存を読む

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『福田恆存全集』全八巻(文藝春秋社)を熟読して、私注を記録していきます。
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#小林秀雄

【閑話】直観の系譜

【閑話】直観の系譜

 私は、実生活から出発し足を地に着けてものごとを考えるという態度を、シェイクスピア、福田恆存、ゲーテ、そして小林秀雄等から学んだ。

彼らの書いたものを読む以前の私は、何か曖昧な観念によってものを考えがちな、いやむしろそれらの観念に振り回されているような人間だった。大学時代、文学部に所属し、古今東西の古典文学に惹きつけられるものを感じていた私であったが、その理由は、心の中でおぼろげに求めていたもの

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『小説の運命 Ⅱ』すなわち批評の運命

『小説の運命 Ⅱ』すなわち批評の運命

 『小説の運命 Ⅱ』は昭和二十三年に発表された。まず冒頭の引用から始めたい。

明治以来、近代日本の作家たちがそれぞれの方法でもって一途に探求してきたのもこの「精神が明確にみづからの存在を確証しうる様式」であったといえよう。

二葉亭四迷をはじめ、近代日本文学の発想と系譜は、大方、十九世紀ヨーロッパ文学の文学概念にその様式の模範を求めてきた。

しかしその後に誕生した日本的私小説という文学形式はつ

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『人間の名において』政治的理論からつくられた文学のくだらなさについて

『人間の名において』政治的理論からつくられた文学のくだらなさについて

 福田はこの論文で、一九三〇年前後の日本のプロレタリア文学運動が犯した過誤に焦点を当てる。

当時ひとびとはプロレタリア文学に関連したむなしい議論をくりかえしていたという。それらの議論のむなしさの主な原因は、「ブルジョア文学」乃至は「芸術派」の反撃の矛先が相手の構えた盾に向いていたことによるという。

その盾とは、プロレタリア文学理論という名の磨き抜かれた完全な防備であった。そのため反撃は総じて遠

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『理解といふこと』③わからないものに対する態度

『理解といふこと』③わからないものに対する態度

 仮に、『理解といふこと』に副題が付くのなら、「わからないものに対する態度について」とでもなるだろう。

この論文は比較的短いものでありながら、福田恆存という人間の思想の深部を凝縮したような感を与える。だからこそ、最初にこの論文を取り上げて改めてじっくり読んでみた。

文中、福田は漱石について述べる。漱石は「自己の誤解の能力を大切にした」人間であると。誤解の能力とは、ものごとは自分がわかるようにし

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