『ノートの旅』(超短編小説)
6歳の息子が机にかじりついている。
珍しいこともあるものだと思って手元をそっと覗いてみると、自由帳に何かを書いている。こちらに気づかないくらい、純朴な眼差しは真っ白な紙に向かって集中していた。
「何やってんの?」
「迷路」
「迷路書いてるんだ?」
「うん」
細い腕で2Bの鉛筆を動かしている。感心しながら横で見ていると、隠すように息子は両腕でノートを覆った。
10分ほど経つと、息子は自信に満ちた顔でやってきた。
「パパやってみて」
「おっできたか」
ちょっと離れた場所で私の様子をうかがう息子。
迷路は4ページにも渡る大作だった。息子の頭の中を旅するように指で道を進めていくと、あっという間にゴールに辿り着いた。迷路なのに1本の長い道がつながっているだけだった。
6歳はまだ分かれ道を知らない。これから歩く人生という迷路には分岐点が山ほどあるんだぞ。
「難しかった!」
「へへっ」
読んでもらえるだけで幸せ。スキしてくれたらもっと幸せ。