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台湾のツボ

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舞台は台湾。台湾で暮らす人たちの日常を切り取った短編小説集です。 普通のガイドブックや旅行記に飽きた方へ。 小説の舞台となっている台湾の観光スポットへあなたも行ってみたくなる… もっと読む
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故宮博物院

故宮博物院

ほんの些細な違いで、本人も周りも気が付かないような些細な違いの積み重ねで、結果として大きな違いが起こるものなのだと思う。

今年で42歳になる。俺の人生はどこで違いが起こったのだろう。

なんとなく、いつかは結婚して子供を持つと思っていた。何歳までに結婚したいとか、そういう女の子みたいな甘い想像はなかったが、当然のようにいつかは結婚して子供を持つ、そう思っていたのだ。そして俺は28歳の時に結婚した

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足ツボマッサージ

足ツボマッサージ

足のツボで体の悪いところがわかるように、その人の本音もツボでわかればいいのに。

わたしは毎日、お客さんの足のツボを押しながらそう思う。

他の国から見たら、台湾の足ツボマッサージって、悲鳴あげちゃうくらい痛いっていうイメージがまだあるみたい。「痛くしないでね」と注文を言うのは、決まって外国人だ。

実際のところ、痛いだけの足ツボってもう古い。そういうお店もあるけれど、お店の内装も、マッサージの手

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コンビニ

コンビニ

コンビニの自動ドアに人が出入りするたびに、正確にはそのドアに人が近づくたびに鳴る、あの音が不快だ。

生粋の台湾人の両親のもと、台北で産まれたが俺だが、親の仕事の都合で小3まで日本の群馬県で暮らしていた。だから、やや方言が混じるものの、一通り日本語が話せる。台北に戻ってきてから中学生くらいまでは、けっこうそれだけで話題に困らなかった。クラス替えをしてすぐの自己紹介でそのことを話せば、だいたいクラス

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ランタン

ランタン

みんな何をそんなに願うんだろう。

と冷めた目で、僕は毎日観光客を見ている。僕は十分でランタン上げの仕事をしている。

台湾で最も有名な観光地と言えば、九ふんだろう。根拠がないと聞いたこともあるが、「千と千尋の神隠し」のモデルになったということで有名だ。

九ふんとは全く別の場所に、十分という場所がある。その名はあまり知られておらず、九ふんのニセモノだと思われることもしばしば。あるいは、何時何分の

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占い屋

占い屋

わたしの仕事は占い屋の客引き。龍山寺の地下街にある占い屋で働いている。

数年前までは、龍山寺地下街で「日本語OK」という占い屋は、ウチくらいだった。そもそも台北で「占い横町」といえば、行天宮の地下街が有名で、団体客なんかはだいたいあっちに行く。

龍山寺地下街はそもそも占い屋が少ないし、ぶっちゃけお客さんも多くはない。だから行天宮より、龍山寺の方が楽そうだなと思って、ここを選んだ。

日本には学

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