長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。12.函館山から余市へ。
平成七年十二月二十九日午後三時、男は函館山山頂のロープウェイ乗り場につながる室内展望台のベンチに腰をおろしていた。外は降りしきる雪だが、この前面ガラス張りの、本来なら函館市街が一望できる室内展望台は暖かだった。それでも、時折冷たい凍りついた寒風が流れて足先から冷えるのを感じた。
こんな雪の中、それでも、どこかからやってきたのか何人かの観光客がいる。だが、展望台眼下は降りしきる雪のため何も見えない。土産物店の従業員が手持ち無沙汰にしている。夏の夜などは、函館山からの夜景を見るた