鈴木敦雄

公認会計士、著述家。著書に「公認会計士亡国論」(エール出版社)。現在、短編を投稿中です…

鈴木敦雄

公認会計士、著述家。著書に「公認会計士亡国論」(エール出版社)。現在、短編を投稿中です。長編小説「急行八甲田の男」、「夏の旅」が完成しました。無料でブログが読めます。 鉄道政策、マネジメント、事業戦略に関するブログ。ヘリマネでなぜ悪い、を投稿しています。無料でブログが読めます。

記事一覧

短編集、彼岸花。紙魚(しみ)

(この短編集は、平成十年・1998年に書かれたものです) 紙魚 その秋の夜長、午後八時過ぎのネオンサインのあふれる、名古屋、栄の安酒場で、河田は友人の葛木と酒を飲ん…

鈴木敦雄
10日前
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短編集、彼岸花。娘の恋人。

娘の恋人 平成十年十月の平日、東京は雲一つない秋晴れだった。都心の皇居の森が少しづつ色づいてきた、心地よい日であった。 東京有楽町駅前にある二十階建てのオフィス…

鈴木敦雄
1か月前
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短編集、彼岸花。赤穂線の風景。

赤穂線の風景。 秋の深まった、平成十年十月の中旬、羽生田和樹、独身三十五歳は旅に出た。 東京駅を出発したのは、昨日の深夜だった。十月号のJR時刻表を入れた大きなシ…

鈴木敦雄
1か月前
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短編集、彼岸花。彼岸花。

彼岸花 秋、九月二十三日の秋分の日近くになると、彼岸花の真っ赤な花が、早稲の黄金色の稲穂が揺れる水田の畦(あぜ)に連なるように鮮やかに咲く。彼岸花というのは、別…

鈴木敦雄
2か月前
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短編集、彼岸花。足切りの男

足切りの男 (時は、紀元前、古代中国、群雄割拠する春秋戦国時代。衛の国の宰相であった孔子は、悪臣の讒言(ざんげん・人を陥れる根も葉もない中傷)によって、反乱者の…

鈴木敦雄
2か月前
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短編集、彼岸花。使い込み。

目次 使い込み 足切りの男 彼岸花 赤穂線の風景 娘の恋人 紙魚 特攻 (これらの小説に登場する人物、団体、事件等はすべて架空のものであり実在しません) 使い込み 夏…

鈴木敦雄
3か月前
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「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。

第三次産業革命と政治 私は、最近になって、社会が「1%の富裕層」と、「持たざる99%の人々」に分かれる、第三次産業革命の経済的基礎の変化により、政治の世界が、従来…

鈴木敦雄
4か月前
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「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。

目次 ・第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。 ・第三次産業革命と政治。 第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。 衆議院議員総選挙が近く行…

鈴木敦雄
4か月前
3

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。終章、旅路の果てに。

終章、旅路の果てに。 吉田警部補は話が終わると、殺害された福本の経歴を話し始めた。 「まず、この殺害された福本というのですがね、年齢は四十五歳、住所不定、前科六…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。14.東京からの来訪者。

14.東京からの来訪者 平成七年十二月三十一日大晦日。余市署のコンクリート製の拘置所は冷え冷えとしていた。そのコンクリートの上に畳が敷かれ、狭い鉄格子の入った窓…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。13.余市警察署。

13.余市警察署 余市警察署に勤務する市川警備課長は、降りしきる雪の中、四駆のホンダ・オデッセイに乗り、男が余市駅についた年の暮、十二月三十日朝八時半、余市警察…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。12.函館山から余市へ。

平成七年十二月二十九日午後三時、男は函館山山頂のロープウェイ乗り場につながる室内展望台のベンチに腰をおろしていた。外は降りしきる雪だが、この前面ガラス張りの、本…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。11.新宿の雑踏のなかで。

平成七年十二月二十八日午後七時、道雄と初江は新宿駅に手を取りあって走っていった。 道雄は叫んだ。 「さあ、これでお前は俺のものだ!」 初江はこれに嬉しそうに頷いた…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。10.再会

平成七年十二月二十九日、午前7時40分。沼宮内(ぬまくない)駅に停車していた急行八甲田は、ガタン!という衝撃とともに再び動き出した。雪はさらに勢いを増し、街は凍て…

鈴木敦雄
5か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。9.解雇

男は郡山駅を過ぎたあたりで浅い眠りについた。ふと気づくと列車は夜明け前の雪あかりの中を、カタンカタンと静かに走っていた。やがて列車は岩手県中部の水沢駅へとすべり…

鈴木敦雄
6か月前
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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」8.長谷寺にて。

平成元年の春、四月の海風が心地よく吹いてくる。江ノ島の展望台から眼下の海を見下ろしながら、初江は自分の悩みを語り終えた。初江は言った。 「今日は、とてもすっきり…

鈴木敦雄
6か月前
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短編集、彼岸花。紙魚(しみ)

短編集、彼岸花。紙魚(しみ)

(この短編集は、平成十年・1998年に書かれたものです)

紙魚

その秋の夜長、午後八時過ぎのネオンサインのあふれる、名古屋、栄の安酒場で、河田は友人の葛木と酒を飲んでいた。河田は、切り出した。
「とにかくね・・僕は、あの出版社、『薩長同盟』のやり方に、非常に腹を立てているんだ。あんなのは滅茶苦茶だよ!」
そう河田が言うと、ジョッキの生ビールを、つまみの枝豆を肴にグイッと一呑みしてしまった。葛木

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短編集、彼岸花。娘の恋人。

短編集、彼岸花。娘の恋人。

娘の恋人

平成十年十月の平日、東京は雲一つない秋晴れだった。都心の皇居の森が少しづつ色づいてきた、心地よい日であった。

東京有楽町駅前にある二十階建てのオフィスビルの十二階に、「丸の内スタッフ」という人材派遣会社の本社があった。その専務取締役である野本博は、事務室の一角を仕切った取締役室のデスクで、日本経済新聞、日経ビジネス、プレジデントというような雑誌に目を通していた。
「丸の内スタッフ」は

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短編集、彼岸花。赤穂線の風景。

短編集、彼岸花。赤穂線の風景。

赤穂線の風景。

秋の深まった、平成十年十月の中旬、羽生田和樹、独身三十五歳は旅に出た。

東京駅を出発したのは、昨日の深夜だった。十月号のJR時刻表を入れた大きなショルダーバックを下げて列車に乗った。「鉄道の日記念、JR全線乗り放題切符」という便利な切符があって、連続三日間JR全線の普通列車が乗り放題で、九千百八十円である。東京駅を23時43分に発車する夜行の「ムーンライトながら」に指定席券と東

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短編集、彼岸花。彼岸花。

短編集、彼岸花。彼岸花。

彼岸花

秋、九月二十三日の秋分の日近くになると、彼岸花の真っ赤な花が、早稲の黄金色の稲穂が揺れる水田の畦(あぜ)に連なるように鮮やかに咲く。彼岸花というのは、別名、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも呼ばれる植物である。その鮮やかなまでの赤に、昔の信仰心厚い人々は極楽浄土を連想したから、そういう名前が付いたのかもしれない。

愛知県三河地方の、ある町の寺の墓地から、この物語は始まる。

平成十年、秋の

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短編集、彼岸花。足切りの男

短編集、彼岸花。足切りの男

足切りの男

(時は、紀元前、古代中国、群雄割拠する春秋戦国時代。衛の国の宰相であった孔子は、悪臣の讒言(ざんげん・人を陥れる根も葉もない中傷)によって、反乱者の汚名を着せられ、衛の皇帝から捕縛の命令が出される。孔子は弟子たちとともに、衛の国を逃げ出した。
なお、岩波文庫『韓非子』金谷治校注、外儲説(がいちょぜい)の一説話から話を創作した)

世の中が乱れると、必ず孔孟の書物が手に取られ人々に愛読

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短編集、彼岸花。使い込み。

短編集、彼岸花。使い込み。

目次

使い込み
足切りの男
彼岸花
赤穂線の風景
娘の恋人
紙魚
特攻

(これらの小説に登場する人物、団体、事件等はすべて架空のものであり実在しません)

使い込み

夏の岐阜は美しい。岐阜市内を流れる長良川の、岐阜公園から長良橋を渡った北岸のほとりに立ち、南の、頂きに岐阜城がある金華山を望むと、緑の自然林に覆われた美しい山容を望むことができる。
先週、土曜日の晩は長良川で花火大会があった。そ

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「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。

「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。

第三次産業革命と政治

私は、最近になって、社会が「1%の富裕層」と、「持たざる99%の人々」に分かれる、第三次産業革命の経済的基礎の変化により、政治の世界が、従来の「資本家対労働者」の闘争という図式から、「1%の富裕層」と、「99%の持たざる人々」の闘争という図式に変わっているのではないか?と考えるようになった。

第三次産業革命のコミュニケーション媒体であるスマホやインターネットは政治の世界を

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「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。

「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」補論。第三次産業革命と政治。第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。

目次

・第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。

・第三次産業革命と政治。

第三次産業革命は何をもたらすか?1%と99%の戦い。

衆議院議員総選挙が近く行われると言われる。これから二回に分けて、第三次産業革命と政治について、私の考えを発信したいと思う。

アメリカのサンライズムーブメントにせよ、ティパーティ運動にせよ、日本で起きている政治変動にせよ、第三次産業革命の進展による経

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。終章、旅路の果てに。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。終章、旅路の果てに。

終章、旅路の果てに。

吉田警部補は話が終わると、殺害された福本の経歴を話し始めた。
「まず、この殺害された福本というのですがね、年齢は四十五歳、住所不定、前科六犯という札つきのワルでしてね」
「ほう・・・」
署長と市川課長は身を乗りだして、吉田警部補の話に聞きいった。
「なにせ十五歳の時、傷害致死で少年院に送付されてから、出所後も傷害、強盗などの凶悪犯罪を繰り返しておって、今はどうやらソープラン

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。14.東京からの来訪者。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。14.東京からの来訪者。

14.東京からの来訪者

平成七年十二月三十一日大晦日。余市署のコンクリート製の拘置所は冷え冷えとしていた。そのコンクリートの上に畳が敷かれ、狭い鉄格子の入った窓の外では、鉛色の空に真っ白な雪が狂ったように舞っていた。
道雄は、狭い拘置独房から出され、余市署の取調室で市川課長の取り調べを受けていた。もっとも、それは、取り調べというよりは事情聴取に近かった。道雄は二日間何も食べず、目だけが異様に光っ

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。13.余市警察署。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。13.余市警察署。

13.余市警察署

余市警察署に勤務する市川警備課長は、降りしきる雪の中、四駆のホンダ・オデッセイに乗り、男が余市駅についた年の暮、十二月三十日朝八時半、余市警察署に出勤した。
オデッセイを駐車場に止めると、雪を避けるように余市署の中に入った。署の入口には新年にそなえて大きな門松が置かれ、しめ飾りが飾られている。今日の昼過ぎから署内で大掃除をやる予定である。市川警備課長は余市署の警ら車(パトカー)

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。12.函館山から余市へ。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。12.函館山から余市へ。

平成七年十二月二十九日午後三時、男は函館山山頂のロープウェイ乗り場につながる室内展望台のベンチに腰をおろしていた。外は降りしきる雪だが、この前面ガラス張りの、本来なら函館市街が一望できる室内展望台は暖かだった。それでも、時折冷たい凍りついた寒風が流れて足先から冷えるのを感じた。
こんな雪の中、それでも、どこかからやってきたのか何人かの観光客がいる。だが、展望台眼下は降りしきる雪のため何も見えない。

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。11.新宿の雑踏のなかで。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。11.新宿の雑踏のなかで。

平成七年十二月二十八日午後七時、道雄と初江は新宿駅に手を取りあって走っていった。
道雄は叫んだ。
「さあ、これでお前は俺のものだ!」
初江はこれに嬉しそうに頷いた。
「早く!福本に見つかると大変よ!」
その時、道雄は初江を立ち止まらせ、初江の肩を両手で持つと初江の顔をじっと見つめた。
初江は叫んだ。
「どうしたの!早く行かないと!」
その時、道雄は初江を固く抱き締めた。初江はこれにはっと驚き、喜び

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。10.再会

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。10.再会

平成七年十二月二十九日、午前7時40分。沼宮内(ぬまくない)駅に停車していた急行八甲田は、ガタン!という衝撃とともに再び動き出した。雪はさらに勢いを増し、街は凍てついていた。沼宮内駅を発車してしばらくすると、東北の雪の広野が再び広がった。急行八甲田は静かに、しかし早い速度で一路青森へと驀進(ばくしん)した。
列車は猛烈な雪のなか、八戸、三沢、野辺地(のへじ)、小湊(こみなと)と停車して、野辺地駅を

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。9.解雇

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」。9.解雇

男は郡山駅を過ぎたあたりで浅い眠りについた。ふと気づくと列車は夜明け前の雪あかりの中を、カタンカタンと静かに走っていた。やがて列車は岩手県中部の水沢駅へとすべりこんだ。ほの暗い駅のホームに何人かの乗客が降り立った。しんしんと雪が降っている。車内放送もなく、静かに列車は水沢駅を発車した。
暗い車内から激しい雪が降っているのがわかった。東北の雪である・・・。急行八甲田は凄まじい雪に逆らうように走ってゆ

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長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」8.長谷寺にて。

長編トラベルミステリー小説「急行八甲田の男」8.長谷寺にて。

平成元年の春、四月の海風が心地よく吹いてくる。江ノ島の展望台から眼下の海を見下ろしながら、初江は自分の悩みを語り終えた。初江は言った。
「今日は、とてもすっきりしたわ。まるでこの湘南の海みたい」
「もう・・行こ・・」
「そうね・・」
江ノ島を弁天橋に降りる海の見える坂道で、道雄は尋ねた。
「これからどこ行くの?」
「そう、水井さんによると、まず長谷寺ね。そこでお昼ご飯。ほら、これ」
そう言って、初

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