「世界遺産」

 昼間から酒を飲んでいた。世界遺産の上で。
 
 俺がガキの頃から地元に聳え立っていたオンボロな城。

 それが近年の研究により歴史的に価値のある城だという事が分かり、数日前に世界遺産認定された。

 この白を一目見ようと外から観光客がたくさん来るようになった。辺鄙な田舎町に流れてきた。

 町からすれば大助かりだろうが僕はそうじゃない。ここは元々、俺が一人、ゆったりとする場所だった。

 そこに多くの人が来たのだ。ゆっくり出来ん。世界遺産やろうがなんやろうが関係ない。

「あの」
 ビールを飲んでいると後ろから声がかかった。警察官だった。

「観光客も多いですし、少し退席していただいても良いですか?」

「嫌です。ここは元々、俺が一人楽しく過ごしていた場所だ。そんな場所を奪われてたまるか」

「そもそもここは飲食厳禁ですよ」

「お前らが勝手に決めた事だろうが」
 俺は揉めた。大いに揉めた。側からスマホを向けられている気がしたが、知った事ではない。

 数分後、駆けつけたもう一人の警察官に取り押されられて、城の外に運ばれた。

 アパートの部屋の窓から城を眺める。目に沁みる蛍光色の光を放つ城。

 ため息をこぼしながら、背を向けてビールを飲んだ。

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