見出し画像

英国における理学療法士の訴訟経験

📖 文献情報 と 抄録和訳

臨床過失と理学療法:理学療法士の訴訟経験に関する英国調査

📕Yeowell, Gillian, et al. "Clinical negligence and physiotherapy: UK survey of physiotherapists’ experiences of litigation." Physiotherapy (2024). https://doi.org/10.1016/j.physio.2024.02.007
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 英国の理学療法専門職に対する訴訟の程度と影響を調査すること。

[方法] オンラインによる横断的質問紙調査を用いた。調査対象は、NHS(National Health Service, 国民保健サービス)、非NHS、個人診療所を含む、英国で開業している有資格の理学療法士で、専門、グレード、環境は問わない。

[結果] 688名の回答者がアンケートに回答した(信頼度96%)。英国のすべての国から回答があった。73%が女性で、44%が20年以上の資格保持者であった。ほとんどの回答者はNHSに勤務し(74%)、神経筋骨格系の仕事に従事していた(62%)。回答者の10%が訴訟に関与したことがある。128件の請求が報告され、1件以上の訴訟に関与した回答者もいた。

■ 理学療法士の職務形態と訴訟を受ける頻度

これらのデータは、調査に回答した理学療法士の職務役割が、訴訟に関与する頻度と関連していることを示している。プライベートプラクティショナーやジュニア理学療法士が特に訴訟に巻き込まれやすいことが分かる。

✅ 英国における理学療法士の職務形態について
・プライベートプラクティショナー:プライベートプラクティショナーは、主に個人診療所や民間クリニックで働く理学療法士である。彼らは患者に直接サービスを提供し、自営業としての自由度と責任を持つ一方で、診療の質と効率性を維持することが求められる。
・若手理学療法士:若手理学療法士は、経験が少ない新卒者や初任の理学療法士を指し、上級理学療法士やスーパーバイザーの指導の下で業務を行う。彼らは基本的な治療技術を習得し、臨床経験を積む過程にある。
・アドバンスドプラクティス理学療法士:アドバンスドプラクティス理学療法士は、高度な専門知識と技術を持ち、診断や治療計画の立案、患者の管理を行う。彼らはしばしば多職種チームの一員として働き、複雑なケースを扱うことが多い。
・コンサルタント理学療法士:コンサルタント理学療法士は、最も経験豊富で専門的な知識を持つ理学療法士で、臨床現場での指導や教育、研究を行う。また、政策立案や専門職の標準を設定する役割も担う。
・ファーストコンタクトプラクティショナー:ファーストコンタクトプラクティショナーは、患者が最初に接触する理学療法士であり、初期評価と診断を行う。彼らは迅速な対応が求められ、多くの場合、患者を適切な専門家に紹介する役割を担う。

訴訟は、経験者にとっては非常にストレスの多い経験であり、他の多くの人々にとっても悩みの種であった。個人的な影響は、ストレス(76%)、心配や不安(67%)であった。専門的な影響として最も多かったのは、防御的実践(68%)であった。ほとんどの回答者が、法的支援を提供すべき人物を誤って認識していた。46%が受けた支援に満足していない。ほとんどの回答者(77%)は、登録前および大学院(68%)のプログラムに訴訟研修を含めるべきだと回答した。

[結論] これは、英国の理学療法専門職の訴訟経験を調査した初の英国調査である。調査に参加した理学療法士の10%が訴訟に巻き込まれた経験があった。訴訟は理学療法士の身体的・精神的ウェルビーイングと臨床実践に影響を与えた。精神的、法的なサポートの改善が必要である。臨床的過失のトレーニングを登録前および大学院のプログラムに含めるべきである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

医療の仕事に携わっていて感じることは、すべてがうまくいく訳ではない、ということ。
一生懸命患者さんのために、勉強して、考えて、治療しても、それがうまくいかないことはある。
驚愕の事実に、後から気がついてしまうことが、やっぱりある。
そんな歯車がうまく回らなくなった時に、医療訴訟というものが起こりうるのだろうと思う。

今回の抄読研究は、イギリスにおける理学療法士の医療訴訟の実情を報告してくれた。
注目すべきは、職務形態による医療訴訟頻度の違いだろう。
個人開業者は、医療訴訟を受けやすい、自由と責任は表裏一体、というところだろうか。
そして、日本の理学療法士も注意したいのは、若手理学療法士の頻度の高さだ。
若手は失敗が多い、もちろん。
それに対して、若手は知識、技術以外の人間としてどうあるか、に重々注意しなければならないだろう。
そして、失敗が多いということが最初からわかっているのだから、周囲の先輩はそれをカバーできるように動くことが求められるだろう。
とても学びの多い論文だと思う。

⬇︎ 関連 note & 𝕏での投稿✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪

↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集