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もう転ぶことはない。転んでも転ばせないロボット

📖 文献情報 と 抄録和訳

日常生活における歩行支援・転倒介助ロボット「Mobile Robotic Balance Assistant(MRBA)」の開発

📕Li, L., Foo, M.J., Chen, J. et al. Mobile Robotic Balance Assistant (MRBA): a gait assistive and fall intervention robot for daily living. J NeuroEngineering Rehabil 20, 29 (2023). https://doi.org/10.1186/s12984-023-01149-0
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[背景・目的] 加齢に伴い、虚弱体質や病的状態により、バランス能力、運動能力が低下する。このため、運動能力の回復や自立を支援し、生活の質を向上させるためのバランスリハビリテーションやアシスト技術が求められている。しかし、家庭や地域社会で使用することを想定した歩行リハビリテーションロボットや歩行支援ロボットは存在しない。

[方法] この問題を解決するために、Mobile Robotic Balance Assistant (MRBA)と名付けたデバイスを開発した。MRBAは歩行支援ロボットと電動車いすのハイブリッドである。MRBAは歩行支援ロボットと電動車椅子のハイブリッドであり、ユーザーが日常生活活動を行う際に、ロボットが人に追従し、バランスを崩した場合に骨盤部をサポートする。また、ユーザーが座ったり、座って移動したりしたい場合は、車いすに変形させることができる。

転倒を防ぐ様子を動画で見ることができます↓(40秒くらいからが転倒予防シーン)

不安定さの検出を実現するために、ロボットからの感覚データをあらかじめ設定した閾値と比較し、値が閾値を超えた場合に転倒と判定します。実験には、健康な若い被験者と脊髄損傷者(SCI)の両方が参加した。歩行時の下肢関節運動に対するロボットの影響を評価するために、Spatial Parametric Mappingを使用している。不安定性検出アルゴリズムは、正常な歩行と模擬転倒を識別する際の感度と特異性を計算することで評価した。

[結果] MRBAを使用して歩行した場合、健常者は速度が低下し、歩幅が小さくなり、歩容が長くなることが確認された。脊髄損傷者では、同様の変化とともに、安定性を示す歩幅の減少が見られた。両グループとも関節可動域が減少した。力センサーの測定値を較正された閾値と比較することにより、不安定性検出アルゴリズムは、93%以上の自己転倒を誤警報率0%で識別することができた。

[結論] ロボットのコンプライアンスと不安定性の識別にはまだ改善の余地があるが、本研究は歩行支援技術を家庭に導入するための第一歩を示したものである。我々は、ロボットがバランス障害者の日常生活活動を促し、彼らの生活の質を向上させることができることを期待している。今後の研究としては、バランスに問題のある被験者をより多く募り、デバイスの機能性をさらに向上させる予定である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

『七転び八起き:7F-8R project』、の必要性について以前noteに書いた。

簡単に述べれば、以下のような感じだ。
・近年、転倒リスクやそれによる弊害が明らかに示され、制度がいよいよ厳格化している
・つまり、「転びたくても転べない」「転びそうなことには挑戦できない」状態になっている
・それじゃ、学ぶ機会、生長する機会自体が奪われ、望ましくはない
・だったら、転ばせないことではなく、転んでも大丈夫(骨折はしない)を目指した方がいい

今回のロボット開発研究は、まさにその方向にある1つのDotだと思った。
ただ、動画を見ていただければ分かるように、今回のロボットは「転んでも大丈夫」よりもう少し早いタイミングで転倒予防の制御が入るので、どちらかというと「転ばせない」側面が強い気がする。
すなわち、これではまだ十分な転倒経験(feedback)になりにくいと感じた。

映画ドラえもん「ブリキの迷宮」で、ロボットを発達させすぎた人間は「イメージコントローラー」というものを普及させた。
これは、思うだけでそれをロボットが実現してくれるシステム。
その世界では、人間は自分で歩かず、カプセルに乗って移動していた。
そして、そのカプセルは、人間が転びたくても、絶対に転ばせないシステムをもっていた。
この映画の主人公であるサピオは「転びたくても転べないんだ」のようなことを言っていた(気がする)。

支援と機会の剥奪。
その境界線は、どこにあるのだろう?
これは、考えていかなければならない。

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