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down the river 最終章①

時は流れた。
カーブの無い川の様なスピードで流れていく。

「ぐぁあ…頭痛ぇなぁ…」

春の昼過ぎらしからぬ冷たい空気は二日酔いの身体に強烈な打撃を加える。
ユウは高校を卒業すると進学はせずにそのまま就職をした。
音楽で生計を立てると豪語する自称カリスマは当然の事ながら両親とぶつかり、高校3年生の半年はほぼ毎日言い争いをしていた。
しかし、周囲が本格的に進路を決め始め、焦ったユウはとりあえずどうでもいい小さな会社の面接までとりつけるもあえなく不採用、更に焦ったユウはもう一社面接に臨むも不採用となり焦りはピークに達したのだ。
そして三社目は捨て身で地元大企業の二次募集の試験に挑み、何と採用の通知を貰う事に成功したのだ。
しかもその地元大企業はユウの父親が働いている会社の親会社だ。
普段強気で、ユウに立ち入る間を全く与えない母親と威厳と威圧感のある父親は涙を流してその事実を喜んだ。
その涙に濡れた目の透明感にユウの心は少しづつ世間一般的に言うところの良い方向へと変化をしていったのだった。
そう、一部分を除いて。

・・・

ユウは激しい二日酔いの身体をゆっくりと起こした。

「あ、佐々木に電話しないと…。帰ったら電話するって言ってたのに…そのまま寝ちった…怒ってっかな。うわっ…一杯電話来てんじゃん…」

ユウは高校3年生になった時にアルバイトをして買ったPHSを就職してからも継続して使っていた。
傷だらけのPHSでユウは慌てて佐々木へ電話をかけた。
佐々木はすぐにと言っていい程のスピードで電話に出て、すぐにと言っていい程のスピードでユウを捲し立てた。

「ちょっと!ユウ!なんで約束守らないのよ!ベロベロに酔ってたからあたし心配してたんだから!」

「あぁあぁあぁ、ごめん、ごめんて。悪かった…。頭痛いから勘弁してくれよ…。」

「もぅ!バカ!」

「だぁもう…悪かったよ…」

「ところで昨日は楽しかった?満足したかしら?」

「あぁ…なんか最高だったよ。皆優しかったしな。あんなに優しい人達ばかりだとはね。2回もあんな優しい人達に囲まれて良かったよ。1人は必ずいそうじゃん、ガツガツした奴さ。」

「まぁ昨日は年齢も落ち着いた人ばかりだったからね。」

「また集まりたいな。週明けは会社の研修で3日間こっちにいないし、来週末はバンドのリハーサルがあるから再来週になっちまうな。」

「うん、わかったよ。まぁまた連絡ちょうだいね。私も勉強しないと。もうついて行けない感が凄いんだけど。」

「タハハ…早い早い。ハハハ。まだ4月末だぞ?まぁお互いまた楽しめる日までってことで。」

「うん、じゃあまたね。仕事頑張って。」

「まだ研修中だけどね。まぁ頑張るよ。んじゃね。」

ユウと佐々木時敏(ササキトキトシ)との友人関係はより濃密なものとなっていた。
ユウのライブでの演説を聞いてふっ切れた佐々木はユウと友人関係になり、傷心のユウを救ったのだ。
そして3月、就職が決まったユウと大学への進学が決まった佐々木は初めて危険な宴にユウを招待した。
先日ユウはその宴への参加は2回目を迎え、盛り上がってしまい帰り際に泥酔してしまって本日この時間に至る。
危険な宴とは言うまでもなく、佐々木とユウを複数人で犯すという所謂、乱交である。
佐々木は歳の離れた腹違いの姉がいる。
その姉の友人が会員制のクラブの様なものを経営しており佐々木はその友人に自分の性の不一致を相談していたのだ。
姉の友人はこれを経営に活かそうと、昼間や閉店後の店で着飾った佐々木を複数人に抱かせ、その客から場所代を徴収するという商売を佐々木が高校2年生の頃から密かに行なっていた。
これだけ聞くと実に酷い所業の様に聞こえるが、実際には案を出したのは佐々木本人である。
何度も佐々木と話し合いをして利害が一致した姉の友人は本格的に、そして密かに経営に乗り出したという。
この姉の友人が経営している店も地元ではなく佐々木が住んでいる地域から3駅程離れた場所にあるので周囲に知られる可能性も低い。
そして未成年に性行為をする、させるということから姉の友人はかん口令を敷く意味で2重、3重の手続きを取らせた。
この姉の友人の厳重な管理により高校在学中佐々木の淫らな行為は周囲に知れ渡る事は無かった。
複数人から自分の身体を求められる事で、佐々木は女としての欲望は最高の満足を得て、姉の友人は場所代が手に入る、そして佐々木を求める客は若い男を破格でたっぷりと味わえる、損をする者は誰もいない状態で三者は上手くそのサイクルを回していたわけである。

「と、とりあえずトイレ…痛っ…!」

ユウは社員寮の一室で、備え付けてある簡素なベッドから身を起こすと肛門の痛みに一瞬飛び上がった。

「昨日、さっとシャワーかかっただけだった…っけ…?あれ?歯磨きしたっけ?口の中も気持ち悪いな…。うわァ…なんか鼻の中が精子の匂いがすんな…。風呂…入ろ…。」

ユウは石鹸やシャンプー、歯磨きセットが入った洗面器と着替を詰めた古ぼけたナップサックを持つと内股でトイレに向かった。
日曜日の昼間の社員寮の廊下は独特の雰囲気だ。
シーンと静まり返り、死刑執行前の拘置所の様な雰囲気だ。
これは大げさな表現ではない。
翌日確実に訪れる出勤という刑が待ち構えているわけである。
まるでそれに怯えている様な雰囲気がそこら中に漂っているのだ。
そんな廊下をユウは歩き、トイレの洋式便器に座り小便を出した。

「ウッ…クッ…」

軽い痛みと共にどろりとローションが肛門から出てきた。
ビュチビュチと肛門からローションが出切った音を聞いてユウは男性の象徴の先端をトイレットペーパーで拭き、肛門を拭いた。

「うへぇ…やっぱ血ぃ出るわな…。」

肛門を拭いたトイレットペーパーを見てユウはガックリと頭を垂れた。

「イテテ…」

ユウはトイレから出ると再び内股で歩き1階にある大浴場へと向かった。

・・・

「あぁ…あの店も風呂がありゃいいのになぁ…濡れタオルで身体拭くだけってお前…」

日曜日の昼間の大浴場はユウの貸し切り状態だ。
ユウはそれを良い事にシャワーを浴びながら大きな独り言を放った。
誰のかわからない精子を全身に浴び、誰のかわからない唾液が付着した身体を、皮膚が剥がれそうな程よく洗い流した。
そして最後に鼻を思い切りかみ、シャワーで流すと浴槽に滑り込んだ。

「ぬあぁ…。」

綺麗な身体に生まれ変わってからゆっくりと入る浴槽内は正に天国そのものだ。

「今、俺、最高かもしれんな。タカちゃんがいなくても全然いいや。一時的なモンだけど愛してくれる人がたくさんいる。俺にはたくさんいる。たくさんな。」

敬人はあの日アルバイト先で1度再会したきりだ。
様子のおかしかった敬人は数日後、アルバイト辞めていた。
まるで逃げる様だった。
彩子に色々聞こうと試みたが、まるでユウを避ける様なシフトで働いており数ヶ月後、気が付いた時には彩子もアルバイトを辞めていたのだ。

「栗栖さんが俺から逃げていくのはまぁ分かる。酷い事したしな。タカちゃんがあんな逃げ方するなんて酷すぎだぜ。情けねぇ奴。」

ユウはフンと鼻でため息をつくと肩まで湯に浸かった。

「フン、まぁいい。今の俺は最高だ。一流企業に就職できて研修も順調、Blue bowも地元じゃ知らない奴いないくらいに成長したし、あの店では佐々木と俺はアイドルだ。かわいい下着着けてかわいい服着て…メイクまでしてくれて…うん、男の幸せ、女の幸せ両方絶好調だ。」

ユウの鼻息は荒い。
まるで自分がそうであると言い聞かせているかの様だ。
そうでないといけないと暗示をかけているかの様にすら見える。

「さて…」

ユウは浴槽から出て脱衣場の鏡の前で身体を丁寧にバスタオルで拭いた。
胸元、乳輪の周辺、下腹、首、いたる所に明らかに吸引された痕跡がある。
乳輪の周辺にいたっては青く変色してしまっているものもある。
どれほど壮絶な場であったかが見て取れる。

「ふふん…。」

ユウは身体を拭きながら、そのキスマークを見て片方の口角を不気味に上げた。
ユウは胸を突き出し、乳輪の横にある青く変色したキスマークを人差し指でなぞっていく。

「愛された証拠だ。こんなにも愛されてる。フフ…こんなに強く吸っちゃって…。フフフ…。俺は逃げないからゆっくり順番にしてくれればいいのに…ンフフ…。」

ユウは鏡の前で昨日の出来事を反芻していると男性の象徴が反応し、そそり勃っていく。

「おっと、いけねぇ…こんなところで…」

下腹に男性の象徴の先端が付く程にそそり勃った状態だ。
しかし勤め先の社員寮の大浴場で粗相をするわけにはいかない。
ユウは急いで服を着て備え付けのドライヤーで髪を乾かすと再び拘置所の廊下の様な雰囲気を纏う道のりを経て自分の部屋へと戻っていった。
明日から泊まり込みの研修だ。
色々準備をしなければならない。
会社が準備したバスで2時間揺られて会場に行くらしいのだ。
会場はユウの住む県では有名な私立大学だ。その大学はかなり優秀で、その大学からユウの勤め先には毎年必ず数十名は採用している。
その関係を鑑みると何かしらの癒着関係があるのだろう。
ユウはスポーツボストンバッグに着替えやら洗面用具やらを詰め込み、鼻歌まじりで準備を進めた。

「いよしっ!出来た。こんなもんだろ。」

ユウは乱暴にスポーツボストンバッグを部屋の出入口付近に放り投げ、その上に筆記用具等が入った薄いビジネスバッグを放り投げるとビデオテープがたくさん入った段ボール箱をあさり始めた。

「どうしよう…人妻モノ…いや、あの店に来る人っておじさんが多いからな…。どんなんがいいんだろ…。どんな仕草とかが好みなんだろうな…。まぁ俺と佐々木を抱くんだから結局男が大好きなんだろな、タハハ…男らしくしてりゃいいか。」

ユウはこの「仕事」に関しては非常に勤勉だ。
「仕事」といっても金銭を貰っている訳ではない。
食事が2食提供され、酒、煙草の世話くらいなものだ。
しかしユウの心の中には参加2回にしてプロ意識が湧いてきてしまった様である。
どう相手を満足させるか、どうすれば佐々木よりも自分が相手してもらえるかを本職以上に考える様になったのである。

「これで…いくか…。」

ユウはたくましい中年男性がガリガリに痩せた若い男性を森の中で乱暴に抱くという内容のビデオテープをデッキに入れると全裸でベッドに転がり、一人の時間をたっぷりと過ごしたのだった。

※登場人物紹介
佐々木 時敏(ササキトキトシ)
S高校軟式テニス部出身でユウと秘密を共有した仲である。
たまたまユウのライブを見て、ユウの話を聞いて自分の性癖や性の不一致をユウへカミングアウトした。
身長175センチ、体重70キロとやや太めであるが佇まいは痩せて見える。
女装し、女性言葉を使う。
歳の離れた腹違いの姉がいる。
姉の友人や、乱交目的の客からは「トット」の愛称で親しまれている。


※未成年者の飲酒、喫煙は法律で禁止されています。
本作品内での飲酒、喫煙シーンはストーリー進行上必要な表現であり、未成年者の飲酒、喫煙を助長するものではありません。

※いつもご覧いただきありがとうございます。down the river 最終章②は本日から6日以内に更新予定です。
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今後とも、本作品をよろしくお願いします。






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