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映画『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』

2020年/製作国:南アフリカ/上映時間:85分
原題 My Octopus Teacher
監督 ピッパ・エアリック ジェームズ・リード




予告編(日本版)


予告編(海外版)



STORY

 舞台となるのは、南アフリカ。
 主人公は長年の過酷な就労により、心身のバランスを崩してしまった中年のおじ様、クレイグ・フォスター(奥様と息子さん有)。
 2年間の休息も彼に回復をもたらすことはなく、辛い日々を過ごしていましたが、ある日、海で遊んでいた子ども時代を思い出して再び海で泳ぎ始めます。すると彼の心身は、徐々に回復してゆくのでした。
 そんなある日、彼は海の中で一匹のタコ(主人公は名前を付けずに「彼女」と呼びます)と、運命的な出会いをします。
 今、彼の人生のみならず人類の運命をも左右する可能性を持つ、稀有な物語の幕が上がる。


レビュー

 タコと出会い、タコに恋し、タコのストーカーとなり、タコに友人と認められ(入門を許可され)、タコを師と仰ぎ教えを請い、タコとなり、やがて悟りを開いて自らの人生をその手に取り戻すに至ったタコ男が紡ぐ、タコ魂に溢れる、愛と命の物語。

 ジャンルはドキュメンタリー枠となっていますけれども、ラブストーリーあり、アクションあり、サスペンスあり、ドラマあり、ホラー、コメディ、SF、なんでもありの・・・(以下略)
 まるでタコが体の色彩を千変万化させるように、映画も変幻自在に、軽々とジャンルの枠を超えてゆきます。
 宇宙的な広がりと美しい調和に彩られた、とても素敵な作品です。

 主人公は「水陸両性の生き物を目指す」ということで、出来うる限りの軽装にて海に潜り続けます。
 しかしその姿は、どう見ても変態チックな(タコっぽい)感じになってしまっており、加えて前半から中盤にかけてかなりの頻度にて(12回くらい)自撮りの、それも自分の真正面からの接写をかましてきます。

この写真はまだマシなほうです

 また、その自撮りの映像がワンパターンであるのとは対照的に、彼女(タコ)の接写は非常に芸術性が高く、また且つバリエーションに富んでいることにより中盤くらいから、観ているこちら側は撹乱かくらんされてしまい、混乱&錯乱さくらん状態へと陥り、一体どちらが人間で、どちらがタコなのか。もしくはどちらもタコで人間なのか・・・と、もう何が何んだかよくわからなくなってきてしまい、人間とタコの区別が全くつかなくなってしまいます。
 (注:主人公自身の「タコになりきって考えるようにした」との証拠発言有り。本編26:52)
 
 そして海中を漂う主人公の姿が完全に珍種のタコにしか見えなくなってしまったその時、私はふと、ある重要な点に気がつきました。
 もしかするとそのような状態に鑑賞者が陥ってしまうのは、製作者側の思惑通りであり、用意周到に仕組まれた斬新な視覚効果による影響なのではないかということに・・・
 その視覚効果の威力は絶大で、観る者は完全に一匹のタコとなり作品を鑑賞するよう、知らぬ間に「誘導」&「洗脳」されてしまい、それにより未知の映像体験を、自分の意思とは全く関係なく意図せずに経験させられてしまっていた・・・という・・・
 (注:主人公が生粋の生物研究魔であることは作品内でも描かれており・・・そう・・・、実は私たちの感覚も既に研究し尽くされており、鑑賞後に自発的に「水陸両性生物」を目指すよう、視聴開始直後から誘導と洗脳とが行われていたという衝撃の「ホラーサスペンス」展開となっているわけです)

 作品はその後も、様々なジャンルの要素を縦横無尽に駆使し、海の音(海中含む)、中途半端にエモーショナルな音楽、かなり強引にねじ込まれるテレンス・マリック風のこれまた中途半端にエモーショナルで意図の希薄な映像、タコをはじめとする海洋生物達のSFチックな姿と動き、「水陸両性偽タコ生命体(主人公)」の水中と陸上における映像のギャップと陰キャラ丸出しの語りと声、その他、が絶妙に響き合い影響&共鳴し合うことにより、異次元の調和を生み出してゆきます。

 またそれだけではなく、主人公が真顔にて話す真面目な語り部分に笑ってしまったり(真面目なフリして絶対ウケ狙いと思います)、彼女(タコ)のピンチの場面にて心臓がバクバクドキドキしてしまったり、水陸両性偽タコ生命体(主人公)の水中での決断力の甘さに各所でヤキモキしたりと、とにかくあらゆる場面にて感情をかき乱され、揺さぶられ、刺激され続け、しかもそれら諸々の感情体験が一部の隙も無く完璧なハーモニーを奏でながら混然一体となり、最終的には鑑賞者の全ての感情を同時に飲み込んでゆく巨大な津波と化して押し寄せてくる、圧巻の構成となっています。
 人間の、纏まりなく乱雑に散らかった、しかしそれゆえに複雑で豊かな感情のひだ。そして生と死のあわいに漂う透明な感覚とを見事に捉え、それらを鑑賞者へとしっかりと届けてくれるわけです。
 それはあらゆる哲学と文学が、神話の頃より探求(追求)し続けてきた最良の部分を、この作品も内包しているということでもあります。

 一例を記します。

 酸素ボンベを背負わずに(←重要)、海面と海底を行き来しながら、自らの身体能力だけを頼りに息継ぎを繰り返し、彼女の元へと行き来し続ける主人公の姿は、まるで『ロミオとジュリエット』のベランダシーン天地逆転バージョンが、あたかも無限に繰り返されているかのように感じられます(しかも数分で息が苦しくなり一度海面へと浮上しなければいけないという切なさ満点の、斬新にもほどがある状況設定のオマケ付き)。
 一見、ただの非効率的且つ原始的な行動の中に内包された、その切なさ。その想い。その愛。もうその行動を見ているだけでも胸の高鳴りが抑えきれなくなりキュンキュンしてしまい、ついにふたりが身を寄せ合うシーンでは、これまでの人生において感じたことの無い強烈なカタルシスに襲われ、全身が熱くなってしまいました。
 それにしても、まさか彼女(タコ)と彼(水陸両性偽タコ生命体と化した主人公。しかも毛深くてお腹が出ている)の海中逢引きシーンに、これほどまでの愛おしさを感じてしまうなんて・・・。
 「生命の神秘」を学ばせていただきました。

 というわけでこのように、非常に奥深く魅力的且つ蠱惑的な場面が多数存在するため、観終えた後は、第一級の叙事詩やラブストーリー、SF小説等の複数のジャンルの書籍を同時に読み終えたかのような、圧倒的な余韻に心が満たされました。
 そして私も主人公同様、水陸両性生物でありたいと強く願うに至ってしまったことを、ここに告白させていただきます。

 最後に・・・
 なんとこの作品にはキャッチコピーがありません。
 それなら「私がキャッチコピーをつけよう!」と、100個程キャッチコピーの候補を考えてみたのですけれども、イマイチピンとくるものが無く、全て没にしようかとも思ったのですけれども、作品内にて主人公が彼女(タコ)を好きになり過ぎて(生態に興味を持ち過ぎて)、ロビン・ウィリアムス主演の『ストーカー(One Hour Photo)』の一場面のように、部屋の壁を(厳密には壁ではないのですけれども)写真で埋め尽くしているシーンを思い出し、「そっか・・・この作品に深く共感したのであれば、私もこのくらいしなければ」となり、ただの自己満足にて、考えたキャッチコピー100個全てを記載することにしました。
 しかしそれは私にとっての、本作の探索マップ的な感じの記録(メモ)であり、思い出としての記載となりますゆえ、他の方が読む価値はゼロです。
 貴重な時間を無駄になさらないためにも、スルーしていただけましたら、幸いです。


【本作に捧ぐ「キャッチコピー」100個】

1 人生の学校は 「海」にある

2 運命の人以外に 運命のタコもいる人生は最高だ

3 彼女はタコだった つまりぼくにとっての 天使だった

4 君の6本の腕と2本の足が ぼくに素敵な魔法をかけた

5 君の存在は 質問であり 答えだった

6 変わりゆく世界の中で 変わらずに受け継がれてゆく想いが ここにはある

7 ともにゆこう 食物連鎖の向こう側へ

8 世に蔓延する美の基準は 実は「まやかし」に過ぎないということを 彼女(タコ)を見れば理解できます

9 海の中では恋に出会えないと あなたは思っていませんか?

10 タコに恋しなくなってから 人間なんだかおかしくなった

11 遠い未来の果てで ぼくらはきっと また会える

12 真っ直ぐな背骨を持たない クネクネした生き方も いいもんだ

13 照れたら負けよ 見つめ合いましょ あっぷっぷ (鑑賞したら意味を理解できるようになります)

14 偶然の恋は つねに美しい

15 自由の反対は 記録と記憶なのかもしれない

16 その友情は 君がぼくにくれた情熱 そして光

17 交流不可能と言われた世界で 僕らの出会いは 奇跡を奏でた

18 海に潜った  君と出会った

19 タコの心臓は3つ 脳味噌は9つ ご存知でしたか?

20 いつまでも君と 泳いでいたかった

21 愛しさだけをブレンドしてくる この優しさに満ちた作品を あなたはきっと好きになる

22 この世でいちばん遠くて近い場所は 自分の身体と心なのだと 君が教えてくれた

23 絶望とともに希望があり 悲しみとともに愛がある

24 彼女(タコ)を好きだと語る貴方の横顔は なんだかとても 素敵だった

25 君は教えてくれた 愛は見ることはできないが 触れることはできるのだと

26 あの日 ぼくは初めて海を見たときのように 君に一目惚れした

27 あなたのソウルメイトは 海に居るかもしれません

28 君は僕で 僕は君。 見つめ合った海の中 確かに そう感じた

29 君がいてくれたから ぼくはまた 世界を信じることにした

30 残しておきたい時間があった  たとえ君とのさよならを 撮ることになったとしても

31 愛とは言葉ではなくイマジネーションのことなのだと 君は教えてくれた

32 ぼくは潜り続ける 君のいる あの海に

33 忘れたくない 時間がある 忘れられない 瞬間がある

34 どれほど深く潜ったら また君と会えるのだろう

35 君と過ごしたその時間の全てが 奇跡だった

36 君の存在は記録ではない 記憶であり 愛そのもの

37 おちこんだりもしたけれど わたしはタコになりました

38 覚えていますか 手と腕とが 初めて触れ合ったあの日のことを

39 君は6本の腕と 2本の足で 愛の秘密を教えてくれた

40 信じる思いを解き放ち 奏でよう 響き合う海のハーモーニー

41 前略。 ぼくはケルプの森で 君に恋をしました

42 「しゅ」の限界をアッサリと超えてゆく 究極の愛の形態を 目撃せよ!

43 住む場所は違っても 同じ光の中にいた

44 息の出来ない海中に 君に会おうと潜る度 ぼくの心は呼吸する

45 数十億年前 愛が最初に生まれた場所はきっと 海の中

46 演じることを知らない君が 世界を素敵に変えてゆく

47 君との思い出は 海の匂いがする

48 言葉を交わせない君が 僕に生きる喜びを 教えてくれた

49 名も無い君と過ごすため ぼくは毎日 海へ行く

50 視覚ばかりに頼らずに ハートでみつめて

51 海の中には 宇宙がある

52 君の存在と生き方は 嘘のない 真実そのもの

53 さみしさや かなしみは 生きて 出会って 愛すれば きっと和らぐから

54 苦しいのも 辛いのも 悲しいのも 寂しいのも悪くない 
喜びや優しさ 友情 そして愛の 本当の温もりを感じることが出来るから

55 きれいなお姉さんは、好きですか?(タコですが)

56 出会いに癒され 別れで 強くなる

57 僕はもう虚無に囚われない あの海で 君と出会ったから

58 見逃さないで 小さく見える幸せほど 本物の幸せへと続いていることを

59 あなたに届け、「タコ」パワー‼

60 いいえ。「タコ」というより「彼女」です

61 本当の自分になれる格好へと「変身」し ぼくは君へと会いにゆく

62 君はぼくにとって 「八腕形上目のタコ目に分類される軟体動物」 などではなく 事件であり 先生であり 命そのものであり 愛だった

63 言葉を知る前のあの感情を 覚えていますか?

64 君は言葉を用いずに ぼくの人生の台本を 素敵に手直ししてくれた 

65 自分を見つめるのを止めて 君を見つめたとき ぼくは生きている手ごたえと喜びを取り戻した

66 気付いたんだ 君は変装の達人で ぼくにも化けていたんだってことに 
そして教えてくれた 本当のぼくの姿を

67 人生に違和感を感じているとき 目の前に海が広がっていたなら ひと泳ぎしてみませんか?

68 他の生き物の幸せを願い 他の生き物の不幸を悲しむことができる それってとても大切なこと

69 君がいて 僕がいる

70 君を想うと 海の音がきこえる

71 涙は 深い海底に 愛は 君の吸盤に

72 自分をまとうな 自分になれ

73 「生きている」 その共通点だけで ぼくらには十分だった

74 上ばかり向いて生きていたら 決して君とは 出会えなかった

75 人生は数学的ではない 回答が 存在しないから
 人生は文学的でもない 言葉からこぼれ落ちるものが あまりにも多過ぎるから 
 数字も言葉も知らない彼女はしかし 人生を知っていて その秘密をそっと僕に教えてくれた

76 違いこそが 僕と君とを 引き寄せた

77 見えないものや聞こえないものを感じることが 人生を豊かにするのだと 君は優しく触れて 教えてくれた

78 「このタコ!」という悪口は この作品の公開により 最上級の賛辞となりました

79 彼女は死を恐れない それはきっと 生きているということ

80 人間の内面も 無限にその姿を変えれるのだということを 君はその体の変化で教えてくれた

81 また君と あの海でキュプキュプしたいんだ

82 先生 人生も愛も 追いまわすと逃げ去り そっと手を差しのべると 応えてくれるのですね

83 思いきり泣き 思いきり笑い 今 私はタコとなる

84 ぼくらは互いを信じた 言葉も交わさずに

85 声を持たない君と出会って ぼくは愛の音色を知った

86 君と出会って気付いたんだ 苦しみに敏感で 幸せに鈍感だったということに

87 好きな子(タコ)が出来た 明日の朝が待ち遠しくなった

88 君を愛する 海を愛する 宇宙を愛する

89 不自由だと思っていた海の中で 君は本当の自由を 僕に教えてくれた

90 海は汚したり搾取するために存在しているのではない 共に生きるために 存在している

91 君はその身一つで 命の秘密を教えてくれた

92 波の風を身体に受けながら海底を歩む君の姿は 最高に美しかった

93 正直ぼくは君に会うたび 一目惚れしちゃってた

94 彼女に「テイク2」は無い そしてそれゆえに 完璧なのだ

95 君は教えてくれた 涙は小さな 海なのだと

96 深い関係は たいてい言葉のない場所に生まれます 例えば 海の中

96 「好き」の気持ちを伝えたくて ぼくは君を撮り続けた

97 恋とは 見つめ合うこと 愛とは 触れ合うこと

98 愛があった 海があった 命があった そして君との 出会いがあった

99 信じて受け入れてくれた彼女が ひとり運命を受け入れる姿を あの日 ぼくは 撮り続けることしか 出来なかった

100 君と出会った海と 君に恋した海と 君との思い出の 海がある



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