フランスの児童文学『首なしうま』
STORY
舞台はフランス。街はずれの低所得者地域に住む10人の子どもたちが主人公。
子どもたちは首の取れてしまった三輪車「首なしうま」にて坂道を下る、スリル満点の遊びが大好き。
でもある日、その「首なしうま」が壊れてしまい修理することに。しかし、修理した「首なしうま」を大金で譲ってくれという怪しい大人達が突然現れ・・・
子どもたちはその頃フランスを大きく揺るがしていたとんでもない大事件に、否応なく巻き込まれてゆくこととなる。
今、極悪犯罪者集団 対 10人の子どもたち+若干やる気のない、しかし意外と優秀な一人の刑事の、息をもつかせぬ戦いの火ぶたが切られる
レビュー
小説家フィリップ・プルマンのおすすめ作品のひとつ。
本作に登場する女の子マリオンは、プルマンの「理想の女の子」とのことで(読んだときに好きになってしまったらしい)、なるほど魅力的でした。
表向きのリーダーとしてはガビーという男の子の存在が描かれているのですけれども、読んだ人には真のリーダーはマリオンであるということがわかるように描かれており、たぶん原作者ポール・ベルナにとっても理想の女の子であったと思われます。
またマリオンは「捨てられた犬」「病気になり弱っている犬」「虐待されるなどしてケガをした犬」等を「保護」「治療」「調教」したのち「里親を探して引き渡す」ところまでを単独で行っている優しい&出来る子で、登場する子どもたちの中で一番キラキラと輝いているキャラクターであり、しかもクールで大人びているというオマケ付き。太陽のような存在です。
シネ刑事も怠け者か働き者かわからないような、のらりくらりとしたキャラクターで味がありますし、他の子どもたちも全員生き生きと描かれていて、話の内容も面白い・・・と文句のつけどころがありません。
さすがプルマンのおすすめ。最高に面白かったです。大満足。
ただ、本書が日本にて再版されないのはもしかすると、黒人の男の子クリケを「黒んぼう」と呼ぶ描写が複数あるからなのかもしれません。
でもこれほど面白い小説が、何十年も日本の子ども達の目につきにくい状況にあるなんて寂しいなと思うし、もし自分が小さい頃に読んでいたならもっと物語の中に入り込むことが出来たに違いないと思うと、ちょっと悔しいです。
※黒人の少年はクリケと、名前にて記載するようにすれば良いと思います
その他
私が本小説を読んだのは、『少年少女 世界文学全集 第29巻 フランス編 第5巻』にて。「昭和36年2月」の発行とのことで、自分の生まれるずっと前の書籍なのでした。
巻末には「読書指導」なる項目があり「読書指導研究会」なる、なんとも如何わしい且つ物々しい雰囲気を醸している会の滑川道夫氏と斎藤尚吾氏による語りが記載されているのですけれども、恐る恐る読んでみたところ、これが以外にも面白かったため、一部を抜粋し、以下にご紹介させていただきます。
子ども達に、かなり危険な遊びを普通に推奨していて笑うし、読書指導をする気なんかサラサラ無いのが感じられて、面白い。
というか「かみなり族」って何?
ふ~ん・・・
いや、本作の凛々しい子どもたちとこんな人達を一緒にしないでっていう・・・
【「まるで日本の、かみなり族みたいだ。」と思う人もいるでしょう。もっともです。】とか全然思わないし。
でも「読書指導研究会」とか名乗っておきながら解説が滅茶苦茶いい加減なため、逆に好感度は高い!
その後、「子ども達5人」の読書感想とそれを受けての「(引率?の)先生」のコメントが紹介されているのですけれども、たぶんその部分は滑川道夫氏と斎藤尚吾氏による創作と思われます。
でもそれが本作のポイントをなかなかに掴んでいて良いのでした(きっと、子どもたちへの援護射撃、且つ感想の体をなした親たちへの説教に違いない)。
うん。「ど正論」の弾丸を惜しげもなく乱射しまくりで、清々しくて良い&好き。
で、「だっこちゃん」って何・・・
というわけで、日本のサブカルチャーに関する知識までをも増やしてくれた、とても有意義、且つ楽しい「読書指導」でした。
最後に
本書「解説」にフランスの優れた児童書として、1832年児童雑誌を出版し活躍したという作家ジュリー・グローの『イボンヌの休暇』『いとこのマリー』、ウージェニー・フォア『ポリシネルの思い出』『谷間の子どもたち』が紹介されていたのですけれども、いつか読んでみたいなぁと思いました。
題名からして既に面白そう。
Artwork
プルマンが一目惚れしたという「マリオンの挿絵」はコレ ↑ かしら
個人的なメモ(笑った箇所&好きな描写等)
・「どえらいスピード」
・「こぞうっ子どもは、大声にさけびながら、ぶっ飛んでいく」
・「ぶざけた値段をつけていた」
・「うるさいね。子どもたちをよろこばせてやらにゃならん。人間は、この年ごろにたのしまなきゃあ、むちゅうになるなんてことは二どとないんだ。十二をこしたら、もうだめさ。」
・「鼻の下には、まるではりねずみみたいなかっこうに、ごましおまじりの髭を生やしている」
・「剃刀ですっぽり切られたみたいになっている」
・「ボンボンは走りながら振り向いて、『小さくたって、ぼく、どんなことでもこわくないぞ。』と叫んだ。そして、青いうわっぱりの下から、でっかいピストルを取り出してみせた。これには、ガビーも目をまるくした」
・「警察なんかだめだよ。いろいろなことを、きりもなく質問してから、のろのろとやりはじめるんだもの。」
・「いわねばならないことは、あくまでもいうぞ。」
・シネさんはいすにそりかえった
・が、シネさんは、きゅうにまじめな顔になった。十人のこぞうっ子たちの、正しいことは正しいという熱心さと、勇気に、心をうたれた。
・「いくらなんていうほどのものじゃありません。ぼろくずみたいなものでして。」
・「あたしたちくらい、がっちりした仲間はないんだもの」
・ばあさんは、もみ手をしながら、こんなことをいいだした。「あたしゃ、セシル横丁のどんづまりに住んでます」
・「ふたりの男が、かんづめのいわしみたいにくっつきあって、しゃがんでた」
・学校のジュスト先生は、ガビー、フェルナンド、ジドールがぐったりしているのを見て、夜ふかしをやったな、と思った。女の子の組を受け持っている、おくさんのジュスト先生は、マリオンが欠席しているのに気がついた。けれども、それはいつものことなので、気にもとめなかった。
・ふいに、マリオンのかあちゃんが帰ってきた。こぞうっ子どもは、二日分のパンを、きれいにたいらげていた。けれども、かあちゃんは、はらをたてなかった。
・十人は、おもてへとびだした。ガビーと、フェルナンと、ジドールは、マリオンのうちからもってきた木のぼうをふりまわしながら、いきおいよくあるいていく。ジュアンは、じゃがいもの皮をむく小刀をにぎっている。タターブは、火かきぼうをふりまわしている。ボンボンは、でっかいピストルで、しきりにからすをねらいながら、みんなのあとを追っていく。マリオンは、ポケットに手をつっこみ、にこにこしながら、いちばんあとについていく。
・「このどえらい札束を、どうしようかね。」
・「いぬは、どうしたらいいの。一緒に警察へつれていくんですか。」と、マリオンがまじめな顔をしてたずねた。
シネさんは、このふしぎな女の子の顔を、つくづくとながめた。この子は、年はまだ十二にすこし前で、みすぼらしい身なりをしているのに、とても考えぶかそうに目が光っている。この子は、味方にしておかねばなるまい。
・「こんな仕事は、おれにはむかない。」と、くさってしまった。
・みんな、できるだけ上等の服をきてはいるけれど、場末の上等なんて、パリのまん中では見られたものではない。
・シネさんは、親鳥みたいに子どもたちにとりかこまれながら
・シネさんは、くさくさした気持ちがふっとんでしまった。
※昔の表現には初めて見る表現も多く、読んでいてとても面白かったですし、今後自分の記事に昔の表現を使用してみたくなりました
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