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#SF

「ヴィンダウス・エンジン」(十三不塔)感想

「ヴィンダウス・エンジン」(十三不塔)感想

止まっているもの全て見えなくなるという「ヴィンダウス症」。唯一の寛解者であった主人公キム・テフンは、成都の都市管理AIに組み込まれ、「ヴィンダウス・エンジン」の歯車となる——。中国を舞台に描かれる、清と濁の共存する近未来都市は、どこかエロティックな印象をもたらした。個人が超常的な力を得ることへの憧憬を刺激し、上質なエンタテインメントを提供する。

そんな本作に見受けられる構造として、ある種の対比、

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第一回かぐやSFコンテスト最終候補作感想

第一回かぐやSFコンテスト最終候補作感想

候補作品は以下のサイトで公開されている。

①「Eat Me」

現実に居場所を失って、図書館に魂を、社会に肉体を捧げる、主人公。成長する学校図書館に就職する者たちは、例外なく「マザー」の内部に吸収されて、今度は吸収する側に回るだろう。繰り返される永遠。図書館という名の永久機関。強制と支配の社会(物質世界)から、逃れるための図書館(精神世界)の姿が垣間見える一方で、社会に居場所をなくした人間は、社

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「一九八四年」(ジョージ・オーウェル)感想

「一九八四年」(ジョージ・オーウェル)感想

 党は真実を、現実を支配する。また言語を支配する。敵への憎悪を掻き立てて、党への忠誠を約束させる。人々は誰かを見下すことでアイデンティティを獲得し、強大な力を持つはずのプロールは、愚かで無関心に生きている。それらは全て、我々の生きる現実と、同じ姿をしているように私は思う。
 多数派は常に正義であり、常識外れは断罪される。言語は文法によって人工的に支配され、煽動的な政治家は、次から次へと現れる。そし

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「なめらかな世界と、その敵」感想————「時代」と「共存」

「なめらかな世界と、その敵」感想————「時代」と「共存」

2020年という大きな区切り、一つの時代の転換点が、目の前にある。本作には、まさにその「転換」と、「それ以前」を象徴するエッセンスが見られる。そしてしつこいくらいに追求されているのが、対立するものの「共存」。興味深いのは、作者は作中、あらゆる「転換」あるいは「幕開け」において、そこに少なからず希望を見出していることだ。各短編は全く別個に書かれたモノであり、こうした視点で読むことに疑いを持つことは避

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「パラドックス・メン」感想

「パラドックス・メン」感想

アメリカ帝国と盗賊の対立から、宇宙へ飛び出し、時間をも超える壮大さ。決闘と奴隷制の復活、月や太陽にまで足を運ぶ高度な科学と、過去と未来の混ざり合った世界観は巧妙で、魅力的。

用語やプロットが少々難解、複雑で、一読した後熟考せなばならなかったため、ラストのカタルシスは少なかったのが残念だった。これは純粋に、私の力不足だろう。

これから挑戦する読者には、焦らず彼らの会話を丁寧に読み解いていくことを

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安部公房「第四間氷期」感想 ───「未来」を考えること

安部公房「第四間氷期」感想 ───「未来」を考えること

 我々は、過去と比較し現在を評価する。ではやはり、我々も未来によって比較される存在なのではないか……。そして我々がその未来を良いと思うか悪いと思うかに関わらず、未来は自分自身を評価する。そこに、我々の主観が介在する余地はない。未来を過去の──部外者の基準、常識で語るのは大きな間違いであり、真に正しい、絶対的な評価とは言えないのである。そうでなければ、あらゆる時代はあらゆる種類の評価を受け、飽和した

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