天乃風 颯真

天乃風 颯真(あまのかぜ そうま)と申します。 和風ファンタジー小説(SF風味)を書い…

天乃風 颯真

天乃風 颯真(あまのかぜ そうま)と申します。 和風ファンタジー小説(SF風味)を書いていきたいと思います。 よろしくお願いいたします。

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「下天を駆けろ!」第1話(全42話)

《あらすじ》 ここは下天。古の国、日の本の戦国時代に似ているという。ヒト族と三種の機械生命体・下天の輩(二輪車の様な鉄騎族・ヒト族と同じ機人族・空中要塞の城族)が共存する世界だ。 戦で最愛の相方を失った鉄騎族の烈風丸は、謎の領国ラクザに向かう途中で少女ハルに出会う。不思議な力を操るハルに翻弄され、烈風丸は彼女を相方にする羽目になってしまう。 一方、下天を支配する東國は、下天の輩の排斥を目論み、ラクザ討伐を企んでいた。 下天とラクザをめぐる陰謀が渦巻く中、ハルと烈風丸は自由を

    • 「下天を駆けろ!」第42話[終章](全42話)

      麗らかな春の日差しが差し込み、空の青に桜色が美しく映えている。 ハルが「桜の丘」と名付けたこの場所は、いま満開の桜で埋め尽くされていた。 北域に、遅い春がやってきたのだ。 「で?元の姿になった気分はどうだい?シズカ」 ミオが咥え煙草のまま桜を見上げて言った。その傍には銀色の大きな球体が浮いている。 シズカと呼ばれた若い女は、肩の上で切り揃えた銀髪を靡かせ、ミオの隣で一面の桜を見上げている。 「ラクザの者たちが…私を御母堂だと信じてくれません。リカも半信半疑ですし…」 「プッ

      • 「下天を駆けろ!」第41話(全42話)

        ドクンッ! ハルの鼓動を一際大きく感じた烈風丸は、その瞬間に全ての自由を奪われた。 (まさか…この感覚は?…) 烈風丸は戦慄した。相方に全てを委ねてしまうこの感覚。自分を纏うハルとの境界が、みるみる曖昧になって消えていく…。 (“ハガクレ”?) 「ハル!やめろ!」 だが音声化されない烈風丸の叫びはハルに届かない。ハルは逆上する感情のまま両目を赤く激らせ、全身の力を抜いてゆらりと立つ。その隙だらけの姿には防御も構えもない。それはまさに「よろぼしの構え」だった。 (その構え…ハル

        • 「下天を駆けろ!」第40話(全42話)

          「なにこれ何処?」 見渡す限り真っ白な世界で、ハルは途方に暮れていた。上下も左右も全然わからない。視力も聴覚も、あらゆる感覚が役に立たない虚無の空間だった。 「さっきまで真っ暗で、今度は真っ白。ってことは…」 「…もしかして、アタシ死んでる?…」 ハルは自分の両手をまじまじと見て呟いた。 「えー死ぬのはヤバいなぁ。ナナシがマジギレしそうだなぁ」 「アタシ、ナナシに生きろって言ったもんなぁ」 するとハルは、何となく独り言が止まらなくなった。 「そういえばナナシ、あんまし怒った事

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        「下天を駆けろ!」第1話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第39話(全42話)

          いつもよりゆっくりと風防が開いた。 ハルは烈風丸の操縦席から勢いよく飛び出す。そしてかなり跳躍すると、烈風丸から離れた位置にストンと着地した。 「どう見てもヒト族の女だね」 声がすぐ真上から聞こえた。 いつの間にか、ヨシマサがハルの目の前に立っていた。 ハルはニコリと笑って、邪悪な笑みを浮かべるヨシマサの顔を見据えて言った。 「お前さぁ、ツチグモよりキモいって言われない?」 ヨシマサは一瞬でハルの首を鷲掴みにすると、自分の頭よりも高く吊し上げた。 「うぐぅっ!」 ヨシマサは両

          「下天を駆けろ!」第39話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第38話(全42話)

          「はあっ!はあっ!はあっ!」 荒い息が兜の中に反響してうるさい。ハルがこんなに呼吸を乱すのは、烈風丸が“ハガクレ”で暴走した時だけだった。 「コイツ…最初の時より全然早いし!掠りもしねぇじゃん…」 「ぐあっ!」 リカは打ち込んだ豪槌を城護りに弾かれ、ハルの傍まで飛ばされてきた。 「リカ!」 リカは素早く起き上がって片膝をつくと、床を拳で叩きながら前を見据えて叫ぶ。 「くそっ!ヤツの動き…全く読めない!」 リカの視線の先、広い空間の中央に純白の城護りが悠然と立っている。 「どう

          「下天を駆けろ!」第38話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第37話(全42話)

          〜大城・電霊宮〜 《…だれ?》 キリエの意識が外部からの接触を感じ取った。だが意識といっても、その殆どがこの大城の中枢に溶け出して希釈されている。キリエはもう、どこまでが自分なのか分からなくなっていた。 ~コード…MIO.2…~ 突然声が響いた。いや、声ではない。むしろ信号に近い無機質な情報だった。 《みお…?》 ~大城…初期化する~ 《しょきか?…》 ~そう…初期化…全て…大城は…消滅~ 《消滅…それは…死…なのか?…》 ~死…解読不能言語…無視…~ ~…最後

          「下天を駆けろ!」第37話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第36話(全42話)

          「なにアレ?」 ハルが見上げる天空から、小さな光の点がみるみる大きくなってこちらに落ちてくる。 ザゴッ!! 「うおわぁっ?!」 ハルは反射的にその場から飛び退いて尻餅をついた。そのハルの目の前に、銀色の大きな楔が大城の装甲殻に深々と突き刺さっているではないか。 「な?何だよコレ?」 「リカ!第二次加速!」 唖然とするハルの頭上から雷電の叫び声が響いた。 「剛円斬!!」 空から裂帛の気合いが響いた。同時に向日葵色の円盤が、あり得ない速度で落ちてきてミオ・ツーに激突した。 ガゴォ

          「下天を駆けろ!」第36話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第35話(全42話)

          「まさかあの御伽役のシズカが、老婆の姿になって生きているとは…」 無人の天守閣にヨシマサの声が響いた。 「さすがに騙されたよ。機人に老人と子供はいないからね。九十九の影響とはいえ、まさに神秘だ」 大城の天守閣に戻ったヨシマサは、再び豪勢な大将席におさまって肘掛けに頬杖をついている。黒い触手にぐるぐる巻きに縛られた御母堂を、自分の目の前に吊し上げて興味深く観察していた。 「御伽役といえば特技師の補佐役。下天の有り様に直接手を出せない特技師とっては、まさに手足の様な存在だよね?そ

          「下天を駆けろ!」第35話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第34話(全42話)

          朝焼けを背にしたその惨劇は、まるで影絵のように御母堂の目前で繰り広げられていた。 騎体を失った鉄騎族から相方の城狩り達が次々と地面に落ちていく。触手に中空高く持ち上げられた城狩り達は、皆なす術もなく地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。みるみる立ち込める黒い霞が、朝焼けに包まれていたラクザを薄暮に変えていく。 「箭瀬ノ大城が…九十九変化…」 すると今度は、いくつもの光が尾を引いて地面から空に舞い上がっていった。力尽きた鉄騎族達の電霊核である。だがその光は、大城が発する黒

          「下天を駆けろ!」第34話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第33話(全42話)

          バリバリバリバリ! 黎明の空を切り裂く様な轟音がラクザ全体に鳴り響き、シロヤの庭に集まっていたラクザの民から悲鳴が上がった。 「皆落ち着け!止まらずに総門へ進むのじゃ!」 その小さな身体のどこから出るのか、轟音を打ち消す御母堂の大音声が、広い庭全体に響きわたる。 「これが最後の組だな?」 座布団浮遊機に乗る御母堂が、総門の脇にある操作卓に向かって言った。 「順調です」 操作卓を操作している近衛組が答えた。 「御母堂様!あれを…」 「どうした?」 御母堂は、傍で護衛についてい

          「下天を駆けろ!」第33話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第32話(全42話)

          ドクン。ドクン。 心臓の音がやけに大きい。だが、機人にとってこの心臓は必要なのだろうか?確かに血も流れているし呼吸もする。しかし我らは下天の輩。ヒト族とは別の生き物だ。そうだ…姿形があまりにも似ているが故に、過ちが後を経たない。いっそのこと、鉄騎族の様に似ても似つかない姿なら良かったのに…。 (過ちは、全て屠れ!屠れ!…) 感情素子を、怒りと憎悪が吹き荒れる。そして目の前には、ヒトの形をした「過ち」が累々と横たわっていた。 今、箭瀬ノ大城の天守閣は、累々と横たわる屍で埋め尽く

          「下天を駆けろ!」第32話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第31話(全42話)

          (ここは何処だ?) 烈風丸は上下左右の感覚もなく、静寂が支配する真っ白な光の中を漂っていた。 (…泣き声?) 何処からだろう?無音の筈の空間から、誰かの泣き声が微かに聞こえてくる。烈風丸は気配を頼りにその声の主を探す。だが、周りは見渡す限り真っ白な空間だ。 (赤子?これは…赤子の泣き声…) 突然、目の前の空間に赤ん坊が現れた。手足をじたばたと動かして泣き叫んでいる。烈風丸は何とかしようとするが、今は身体と呼べるものが何も無い。 「許せ、赤子…」 烈風丸が呟いたその時、誰かの両

          「下天を駆けろ!」第31話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第30話(全42話)

          (えぇ?マジで?ココ?…) 辿り着いたその場所を見たハルは、落胆でへたり込みそうだった。 山深い山中の視界が突然開け、広く平らな場所が現れた。そこには周囲の風景に馴染まない、大きな柱を途中で切ったような筒状の建物が忽然と建っていた。窓もなく、全体がつるりと凹凸のない金属の様な銀色で、月明かりを浴びてキラキラ輝いている。 だがそれは、ハルにとっては見慣れた光景だった。 (ミオの『らぼ』じゃん…) すると操縦席に無機質な声が響いた。 「目的地に到着。所要時間八時間一分。二時間五分

          「下天を駆けろ!」第30話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第29話(全42話)

          突然、轟音が響いて後方の通路が崩落した。もうもうと上がる煙と落ちてくる破片の中で、黒い塊がよろよろと立ち上がった。 あの漆黒の侍鉄騎が満身創痍の姿でそこに居た。 (え?ココどこ?) ハルはうろたえた。目の前に、いきなりあの鉄騎が現れたのだ。 それに視界が何か変だ。 常に鉄騎の機体が視野に入って四方を一度に見渡せる。 その鉄騎の傍に、肩で息をしている真っ赤な装束の女が辛そうに凭れかかっているのが見えた。 (そうか!ここは…ナナシの操縦席だ。それに、これはナナシの視点?) 「キ

          「下天を駆けろ!」第29話(全42話)

          「下天を駆けろ!」第28話(全42話)

          「まだ死んでないよな?飛んで行ってないし…」 烈風丸の電霊核が、銀色の装置に載って中空に浮いている。それを覗き込みながら、ハルが心配そうに呟いた。 ハルはさっきまでの痛みが嘘の様に消えて体調が良かった。認めたくはないが、あの壮絶に不味い電霊霞結晶はとても効き目があるらしい。 「まあね…」 ミオがハルの隣で、電霊核が載っている銀色の装置を操作しながら答える。 「正確には下天の輩に死の概念はないんだがな…」 「死んでなきゃどっちでもいい!」 そう叫ぶと、ハルは左手の手袋を外そうと

          「下天を駆けろ!」第28話(全42話)