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くぐつのこころはどこにある
眠っている男のひやりとした肌に彼を起こさないようほんの少しだけ唇を押し当てると、昨日の喧嘩で切れた口の端がジワリと熱を持ってなんとなく痛かった。そういえば頬にもごわごわとした違和感がある。昨日の夜に受けた男の拳は容赦なかったから、腫れていたって全然おかしくない。アイはそんな仕打ちを受けながら甘んじて、眠っている男に口づけさえ落とす自分のことをまるで他人ごとらしく憐れんだ。つい昨日にも友人にきつく叱
もっとみるきれいな終わりなんか無理かも
全部が間に合わせみたいに粗雑に体裁を整えただけのチェーンの喫茶店で面倒そうな顔の若い男の子が淹れてくれた400円ちょっとの紅茶に手をつけず冷めていくままにして目を閉じて好きなバンドのアルバムをループ再生にして自分で自分の身体を抱きながらどこか世界に溶けていくような気持ちになる。周りの煩いざわめきを音で搔き消しながら混ざっていくのはどこか通勤電車の中で居眠りをすることに似ていて、わたしはときどき目を
もっとみる習作・電車の中でなつかしいきみのこと
さっきから電車で向かいに座ってる男の子がめちゃくちゃ見覚えあって多分中学の時の隣のクラスの男の子なんだけどスマートフォンに夢中でこっち見ないしわかんない、でもあのふわふわの髪の毛と細い鼻梁はやっぱり既視感以上だしなんか座り方とかも似てるし、ってどうして私がこんなにあの子のこと知ってるかっていうとまあもちろんほら、あれじゃん、ちょっと気になる子とかいるじゃん学生の頃って。ぜんぜん話したことなかったし
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