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菊地早秋
2021年11月24日 16:09
「今日の山と空、絵画みたいだよ」まだ薄暗い早朝に家を出たわたしたちは、同じタイミングで同じことを思ったらしい。前日の大雨が関係しているのか、滅多に見ることのない風景が広がっていた。水墨画で描かれたような黒い山。その後ろには、薄い水色の空と雲。この地域にそんなものはないはずなのに、雲がまるで山脈のように見えた。「少し立寄ってみようよ」わたしたちは湖畔に車を停車し、しばしその風景を眺め
2021年11月16日 16:16
縁もゆかりもない湖畔の田舎町へ引越すと伝えたとき、自分の両親がどんな反応をしたか、正確な記憶がない。ただ、母からこんなことを言われたことは覚えている。「あらあ、どんどん遠くに行っちゃうねえ」もともと都内で一人暮らしをしていたこともあって、実家を離れたときのような打撃はなかったはずだ。そう、実家を出た日、私たちは母子揃って泣いた。今でもその時の母の顔を思い出しては、言葉にできない罪悪感で胸が
2021年11月8日 16:22
自分一人だったらやろうと思えないことも、自分以外の人がいるならやろうと思えることがある。例えば「夜ご飯を作る」という作業は、一人だったら雑になるか、もしくはやらない可能性がある。作らなきゃ、食べなきゃ、という気持ちがそもそも起こらないのだ。何にも縛られないことは自由でもあり、虚無にもなり得る。自分以外の人の存在があるからやる。流されているようで、実はとても大きなモチベーション。***
2021年11月4日 17:03
どこからともなくハエがやって来る。寒さが苦手な彼らはこの時期になると、知らぬ間に家へ忍び込んで羽音を鳴らしている。パソコン作業をしていると、髪の毛や手に止まってくる。サッサと払いのけ、また作業に戻るの繰り返し。「今の時期はしゃーねえんだよ」いつも野菜や果物をお裾分けしてくれるお隣さんが言った。困った顔をしていると、大体見抜かれている気がする。ここのところ、秋とも冬とも言えない毎日が続い