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日々のエッセイ

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2019年から湖畔暮らし。自然、ヤギ、トリ、仕事、考え事の日々。
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2021年11月の記事一覧

湖への寄り道

湖への寄り道

「今日の山と空、絵画みたいだよ」

まだ薄暗い早朝に家を出たわたしたちは、同じタイミングで同じことを思ったらしい。

前日の大雨が関係しているのか、滅多に見ることのない風景が広がっていた。水墨画で描かれたような黒い山。その後ろには、薄い水色の空と雲。この地域にそんなものはないはずなのに、雲がまるで山脈のように見えた。

「少し立寄ってみようよ」

わたしたちは湖畔に車を停車し、しばしその風景を眺め

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移住と両親と

移住と両親と

縁もゆかりもない湖畔の田舎町へ引越すと伝えたとき、自分の両親がどんな反応をしたか、正確な記憶がない。ただ、母からこんなことを言われたことは覚えている。

「あらあ、どんどん遠くに行っちゃうねえ」

もともと都内で一人暮らしをしていたこともあって、実家を離れたときのような打撃はなかったはずだ。そう、実家を出た日、私たちは母子揃って泣いた。今でもその時の母の顔を思い出しては、言葉にできない罪悪感で胸が

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焼き芋の時間

焼き芋の時間

自分一人だったらやろうと思えないことも、自分以外の人がいるならやろうと思えることがある。

例えば「夜ご飯を作る」という作業は、一人だったら雑になるか、もしくはやらない可能性がある。作らなきゃ、食べなきゃ、という気持ちがそもそも起こらないのだ。何にも縛られないことは自由でもあり、虚無にもなり得る。

自分以外の人の存在があるからやる。流されているようで、実はとても大きなモチベーション。

***

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読み耽る秋

読み耽る秋

どこからともなくハエがやって来る。寒さが苦手な彼らはこの時期になると、知らぬ間に家へ忍び込んで羽音を鳴らしている。パソコン作業をしていると、髪の毛や手に止まってくる。サッサと払いのけ、また作業に戻るの繰り返し。

「今の時期はしゃーねえんだよ」

いつも野菜や果物をお裾分けしてくれるお隣さんが言った。困った顔をしていると、大体見抜かれている気がする。

ここのところ、秋とも冬とも言えない毎日が続い

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