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湖への寄り道

「今日の山と空、絵画みたいだよ」

まだ薄暗い早朝に家を出たわたしたちは、同じタイミングで同じことを思ったらしい。

前日の大雨が関係しているのか、滅多に見ることのない風景が広がっていた。水墨画で描かれたような黒い山。その後ろには、薄い水色の空と雲。この地域にそんなものはないはずなのに、雲がまるで山脈のように見えた。

「少し立寄ってみようよ」

わたしたちは湖畔に車を停車し、しばしその風景を眺めることにした。

***

隣のトトロではないけれど、自然が多い場所で暮らしていると、「お隣さんは自然界」といった発想が生まれる。

「お隣さん」は気まぐれだ。とても美しく化粧をしている日もあるし、荒れに荒れて性格が悪そうに見える日もある。どこか人間と似ている。

特にみずうみは、毎日毎日表情を変えてくるから飽きることがない。少しの天気の違いで、湖面の色や光の反射具合が全く違う様子になる。

先日(11月19日)の部分月食の日、ひとりで声をあげて叫んでしまった。夕方、湖面と空が一面ピンクになって、その色合いの華やかさに驚いたからだ。世界が桃色に包まれている。なんて優しい風景だろうと、何度もチラ見した(運転中だった)。

それとはまた別の日のこと。

ふと見上げた夕方の空には、三日月が浮かんでいた。今にも切れそうなオニオンスライスみたいな月だった。群青色と三日月のコラボっていいな、そんなふうに思った。気が付けば疲れた気持ちが落ち着いていた。

「お隣さん」はたくさんの魅力を持っているから、寄り道してでも会いたくなる。

わざわざ寄り道してその風景を目に入れておかないともったいない気がする。……というのは半分嘘で、実は衝動に駆られているだけ。綺麗だなーと思った次の瞬間には寄り道する方向へ向かっている。

暮らしのなかで自然に触れる機会が多いというのは、精神的なガス抜きの機会が多いことと同じである。向き不向きがあると思うけれど、少なくともこの生き方がハマっている人がいるのは事実だ。

***

早朝に立寄ったみずうみは綺麗だった。

湖畔沿いには船乗りさんたちのボートが浮かんでいる。船着き場のコンクリート舗装を歩いて先端へ向かう。

目の前は、青とも灰色とも言えないような色の世界だった。朝の冷たい空気が肌に触れる。わたしたちは寄り道を終えて、当初の目的地へと移動した。

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