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読み耽る秋

どこからともなくハエがやって来る。寒さが苦手な彼らはこの時期になると、知らぬ間に家へ忍び込んで羽音を鳴らしている。パソコン作業をしていると、髪の毛や手に止まってくる。サッサと払いのけ、また作業に戻るの繰り返し。

「今の時期はしゃーねえんだよ」

いつも野菜や果物をお裾分けしてくれるお隣さんが言った。困った顔をしていると、大体見抜かれている気がする。

ここのところ、秋とも冬とも言えない毎日が続いている。快晴な日は多いけれど、なぜだか気持ちは波立って落ち着かない。季節的なものなのか、個人的な事情なのか。

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やらなければいけないことは多いはずなのに、体と気持ちが思うように進んでくれない。定期的にやってくる自己嫌悪の嵐に埋もれている。そういうときは何をしても、何を考えてもマイナスの感情が先立ち希望は見出せない。

ただ、「知識」に触れている時は例外だ。

知識に触れている時間は、たとえ気持ちが後ろ向きでも「楽しい」と感じることができる。個人的な負の感情から切り離されて、知識の収集だけに没頭できる。

知識に触れるには、月並みだけど「読書」が一番良いのではと思う。

特に深く学びたい分野の実用書を読み進めることは、自分にとっては写経をしたり、ヨガをしたり、瞑想をしたりするのと同じくらい癒し効果がある。本を開けばそこに見たこと聞いたことのない世界が広がっていて、視野が広まるのが心地良い。勉強が好きなんだろう。

本のページをめくりながら、メモ帳に気になったことをメモしていく。そしてまた本に戻る。その日の読書場所がカフェのときは、たまにお手洗いで席を立つ瞬間が束の間の休息。リラックスしやすい音楽が流れている空間で本を読めることは幸せだ。

いつになったら体も心もエンジン全開になってくれるのか。ただ本を読み耽りながら待ってみようと思う。本代ばっかりがかさんでいく。

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今これを書いている瞬間にも、私の周りではハエが飛び回っている。冬になっていくことの便りだ。去年もそうだった。本格的な冬がやって来てしまえば、ハエは消えてしまう。

気持ちや体が前に進まないことはとても苦しい。ただ、本だけは読める、読みたい。

本というツールを通せば、いろいろな人の知識や経験を分けてもらえる。なんという有難いことだろう。読書する時間の素晴らしさを改めてここに綴る。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。